静脈血栓症/肺塞栓症部会

部会長: 山田典一
副部会長: 小林隆夫 左近賢人
部会員: 池田正孝 岡本好司 杉村 基 中村真潮 榛沢和彦
藤田 悟 保田知生 山本尚人 和田英夫
詳細情報
  • 平成28年度活動報告書

    1. 平成28年度の活動報告

    第3回世界血栓症デー2016
    市民公開講座の開催(資料1)
    一昨年,昨年度に引き続き、世界血栓症デー2016を開催した。一昨年10月13日を世界血栓症デー(World Thrombosis Day: WTD)と制定し、10月12日に名古屋で市民公開講座を開催した。本講座では、いわゆるエコノミークラス症候群としても知られる静脈血栓症を中心に、本年度は急性心筋梗塞,脳梗塞を講演内容に加え,血栓のできるメカニズムや予防法さらには震災時の対応をわかりやすく解説した。

    kessen1

    (資料1)
    世界血栓症デー 日本・市民公開講座2016
    知って得する血管のおはなし
    ‐身近なところで起こる!血栓症って?‐
    日時:平成28年10月10日
    場所:デザインホール


    開会挨拶(5分)尾崎由基男(一般社団法人日本血栓止血学会理事長)
    総合司会:中村真潮(三重大学,村瀬病院)
    第1部講演
    特別講演1「血栓症って何!?血栓ができるわけ」
       浦野 哲盟 (浜松医科大学)
    特別講演2「なぜ怖い!?急性心筋梗塞」
       田邊 康宏 (聖マリアンナ医科大学)
    特別講演3「脳卒中ってどんな病気?」
       山上 宏 (国立循環器病研究センター)


    第2部パネルディスカッション「もっと知ろう!日常生活と血栓症」
    司会:小林隆夫(浜松医療センター)
    パネリスト
     榛沢 和彦 (新潟大学)
     山田 典一 (三重大学)
     保田 知生 (近畿大学)
     田邊 康宏 (聖マリアンナ医科大学)

    テーマ1「震災とエコノミークラス症候群」
    テーマ2「日常に潜む血栓症:手術と静脈血栓症」
    ディスカッション
    まとめ:池田正孝(大阪医療センター)
    閉会挨拶:小林隆夫

    2. 平成29年度の活動計画

    世界血栓症デー2017開催予定

  • 平成27年度活動報告書

    1.第10回日本血栓止血学会SSCシンポジウム

    平成28年2月20日、野村カンファレンスプラザ日本橋にて開催された第10回学術標準化委員会、SSCシンポジウムにおいて「難治性疾患としての特発性血栓症(先天性血栓性素因による)」と題して血栓性素因部会と共同シンポジウムを開催した。(資料1)
    静脈血栓症/肺塞栓症部会からは震災時のVTE、院内発症VTEにおける血栓性素因患者の割合や経過、ならびに検査を行う上での問題点が呈示された。また、血栓性素因を含めたunprovked症例の今後のVTE治療の展望を示した。

    2.第2回世界血栓症デー2015

    1) 市民公開講座の開催(資料2)
    昨年度に引き続き、世界血栓症デー2015を開催した。昨年10月13日を世界血栓症デー(World Thrombosis Day: WTD)と制定し、10月10日大阪、10月12日に東京で市民公開講座を開催した。本講座では、いわゆるエコノミークラス症候群としても知られる静脈血栓症を中心に、血栓のできるメカニズムや予防法をわかりやすく解説し、静脈血栓症を体験した方からのメッセージ等を伝えた。

    2) 世界血栓症デー啓発のポスター、ロゴの制作



    3) 新聞掲載(平成27年9月19日)
    読売新聞(朝刊)東京・大阪エリアへの世界血栓症デー啓発広告を掲載。


    4) 市民公開講座開催後プレスリリース
    Yomiuri Online、朝日新聞デジタルなど16社へ事後リリースを展開した。

    3.来年度の活動計画
      世界血栓症デー2016開催予定
      平成28年10月10日に名古屋で市民公開講座開催予定。
      学会ホームページの充実、啓発ポスター作成、新聞啓発も可能なら行う。

    資料1
    テーマ「難治性疾患としての特発性血栓症(先天性血栓性素因による)」
    座長
     池田正孝(大阪医療センター外科)
     小嶋哲人(名古屋大学大学院医学研究科)

    1.震災後のDVTと血栓性素因との関連について
    新潟大学大学院呼吸循環外科 榛沢 和彦
    2.当院におけるDVT症例と血栓性素因検査の現状と問題
    浜松医科大学第二外科 山本 尚人
    3.先天性血栓性素因保有者の静脈血栓塞栓症のマネジメント
    三重大学大学院循環器・腎臓内科学
    村瀬病院副院長/肺塞栓症・静脈血栓センター
    中村真潮
    4.新生児と小児に発症する特発性血栓症
    山口大学小児科
    大賀 正一
    5.「特発性血栓症(先天性血栓性素因による)」の「指定難病」認定に向けての取り組み
    金沢大学大学院医薬保険学総合研究科病態検査学
    森下 英理子

    資料2

    世界血栓症デー2015日本・市民公開講座in大阪
    知って得する血管のおはなし2
    ‐意外と身近なところで起こる!静脈血栓症って?‐

    日時:平成27年10月10日
    場所:御堂会館

    【大阪プログラム】
    開会挨拶 尾崎由基男(一般社団法人日本血栓止血学会理事長)
    総合司会:保田知生(近畿大学)

    第1部講演
    特別講演1「なぜできる!?静脈血栓症」
     森下英理子(金沢大学)
    特別講演2「どうしたら予防できる!?静脈血栓症」
     左近賢人氏(大阪府立成人病センター)

    第2部パネルディスカッション
    「もっと知ろう!入院生活と静脈血栓症」
    司会:保田知生氏
    テーマ1「体験者からのメッセージ」
     江原幸一氏(肺塞栓症・深部静脈血栓症友の会・日本血栓症協会)
    テーマ2「骨の治療と静脈血栓症」
     藤田悟氏(宝塚第一病院)
    ディスカッション
    パネリスト:森下英理子、江原幸一氏、藤田悟
    中西宣文氏(国立循環器病研究センター)、小林浩氏(奈良県立医科大学)
    池田正孝氏(大阪医療センター)

    閉会挨拶 保田知生

    世界血栓症デー2015日本・市民公開講座in東京
    知って得する血管のおはなし2
    ‐意外と身近なところで起こる!静脈血栓症って?‐

    日時:平成27年10月12日
    場所:有楽町よみうりホール

    【東京プログラム】
    開会挨拶 尾崎由基男(一般社団法人日本血栓止血学会理事長)
    総合司会 小林隆夫(浜松医療センター)

    第1部講演
    特別講演1「なぜできる!?静脈血栓症」
     浦野哲盟(浜松医科大学)
    特別講演2「どうしたら予防できる!?静脈血栓症」
     山田典一(三重大学)

    第2部パネルディスカッション
    「もっと知ろう!入院生活と静脈血栓症」
    司会:小林隆夫
    テーマ1「体験者からのメッセージ」
     江原幸一(肺塞栓症・深部静脈血栓症友の会・日本血栓症協会)
    テーマ2「骨の治療と静脈血栓症」
     稲葉裕(横浜市立大学)
    ディスカッション
    パネリスト:浦野哲盟、山田典一、江原幸一、稲葉裕
    保田知生(近畿大学)、池田正孝(大阪医療センター)

    閉会挨拶 小林隆夫

  • 平成26年度活動報告書

    1.部会の開催

    平成27年2月28日、野村カンファレンスプラザ日本橋にて開催された第9回学術標準化委員会、SSCシンポジウムにおいて以下の内容で血栓性素因部会と共同シンポジウムを開催した。

     

    テーマ「静脈血栓塞栓症の危険因子-先天性血栓性素因と後天性要因-」

    座長:池田正孝(大阪医療センター)

    津田博子(中村学園大学 栄養科学研究科)

     

    1. 教育講演

    先天性血栓性素因の診断

    小嶋哲人(名古屋大学大学院医学系研究科)

    2. 三重大学における先天性血栓性素因の遺伝子診断

    池尻 誠(三重大学医学部附属病院 中央検査部)

    和田英夫(三重大学大学院医学系研究科 検査医学分野)

    3.( 追加発言)当研究室で解析した先天性アンチトロンビン・プロテインC・

    プロテインS 欠損症の遺伝子診断ならびに臨床所見

    谷口文苗(金沢大学大学院医薬保健学総合研究科保健学専攻 病態検査学)

    森下英理子(金沢大学大学院医薬保健学総合研究科保健学専攻 病態検査学,金沢大学附属病院 血液内科)

    4. 周産期母体深部静脈血栓症発症におけるプロテインS -プロテインC 凝固制御系の重要性

    杉村 基(浜松医科大学 産婦人科家庭医療学講座)

    5. わが国の静脈血栓塞栓症の発症率とリスク因子 ~最近の疫学調査から~

    中村真潮(三重大学大学院 循環器・腎臓内科学/村瀬病院 肺塞栓・静脈血栓センター)

    6. 総合討論

     

    2.第一回世界血栓症デー2014

    心筋梗塞・脳卒中、静脈血栓塞栓症(Venous thromboembolism:VTE)の原因となっている血栓症は、我が国の死因において悪性新生物に次いで多いにもかかわらず、その認知度が低い。そのため、血栓症のリスク、予防、治療について一般市民、医師、政策立案者にその認識を高めてもらうため、国際血栓止血学会(ISTH)が中心となり、10月13日を世界血栓症デー(World Thrombosis Day: WTD)と制定した。

    本邦では、日本血栓止血学会・静脈血栓症/肺塞栓症部会が中心となり血栓症の啓発活動を行った。

    活動内容は以下の通りである。

     

    1. 啓発ツールの制作。

    啓発ポスター、血栓症ガイドブック

    ①wtd2014_poster ②guide_book

     

    1. 記者会見・プレスセミナーの開催

    開催時間:2014年8月25日(火) 14時から

    開催会場:東京會舘

    記者クラブ:厚生労働記者会・厚生日比谷クラブ、本町記者クラブ

    取材郵送先:249媒体

    取材申し込み:26名、来場者:22名

    報道件数:紙メディア 8紙、Webメディア 16媒体

     

    1. 世界血栓症デー日本・市民公開講座2014の開催

    テーマ:知って得する血管のお話し –楽しく長生きするために「血栓症」という必須知識―

    日 時:2014年10月13日

    会 場:東京・砂防会館 別館(シェーンバッハ砂防)

    主 催:日本血栓止血学会、

    協 力:国際血栓止血学会

    後 援:厚生労働省、東京都・日本医師会、日本医学会

    申込数:1012名、参加者502名(49.6%)

     

    公開講座内容

    開会挨拶 尾崎 由基男(日本血栓止血学会 理事長)

     

    (第1部:講演会)

    ≪司会・コーディネーター≫ 池田 正孝(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター)

    講演1 「なぜ血は固まるの?」

    森下 英理子(金沢大学)

    講演2 「血が固まる病気:血栓症とは?」

    後藤 信哉(東海大学)

    講演3 「血栓症のひとつ、エコノミークラス症候群ってどんな病気?」

    山田 典一(三重大学)

     

    みんなで参加!予防体操

     

    (第2部:パネルディスカッション)

    ≪コーディネーター≫

    池田 正孝(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター)

    中西 宣文(国立循環器病研究センター)

    MC:沼尾 ひろ子

    テーマ 「知られていない?日常生活とエコノミークラス症候群」

    小林 隆夫(浜松医療センター)、左近 賢人(大阪府立成人病センター)

    植田 信策 先生(石巻赤十字病院)、藤田   悟(宝塚第一病院)

    (中継会場)榛澤 和彦(新潟大学)、 森野 禎浩(岩手医科大学)

    佐々木 一裕(盛岡市民病院)、

    閉会挨拶 日本血栓止血学会 名誉理事長 池田 康夫 先生

  • 平成25年度活動報告書

    1.部会の開催

    平成26年2月22日、野村カンファレンスプラザ日本橋にて開催された第8回SSCシンポジウムにおいて以下の内容で部会シンポジウムを開催した。

    「本邦のVTE予防の現況」

    座長: 小林 隆夫
    池田 正孝

    演者・タイトル

    金平盛子、藤田 悟 先生 「本邦のVTE予防の現況 整形外科領域」
    杉村 基 先生 「本邦のVTE予防の現況 産婦人科領域」
    左近 賢人 先生 「本邦のVTE予防の現況と課題 一般外科領域」
    保田 知生 先生 「本邦のVTE予防の現況 理学療法のエビデンス・海外のエビデンスも含めて」
    山田 典一 先生 「本邦のVTE予防の現況 内科・精神科領域」

  • 平成24年度活動報告書
    部会長 中村真潮
    2012年度の事業
    1)第34回日本血栓止血学会学術集会での「震災関連シンポジウム」(2012年6月7日)の企画
    大会長、理事長とともに上記シンポジウムを企画し、本部会からもシンポジストとして中村真潮、榛澤和彦が講演した。このたびの東日本大震災への学会としての対応を総括し、今後に備える貴重な機会となった。2)第 7 回日本血栓止血学会学術標準化委員会シンポジウム(2013年1月12日)の企画 「最近の海外のVTE 予防ガイドラインの動向」とのタイトルで、海外におけるVTE予防ならびにそのガイドラインの動向をエキスパートから報告いただき、改定が予定される日本のVTE予防ガイドラインの参考とした。
    継続的に検討している事業
    1)VTE予防ガイドラインの改定に関する検討
    本ガイドラインの中心的な学会として、積極的に改定に何する議論に加わっている。2)震災関連VTEの追跡的な検討
    東日本大震災を中心とした震災関連VTEに関して、その後のフォローや今後の対策に関する検討を継続的に行っている。3)周産期VTEの診断・治療に関する検討
    周産期VTEへの対応や保険収載された未分画へパリンの自己注射に関する検討を継続的に行っていく。4)VTE予防に関する国際協力に関する検討
    2011年の京都ISTHの際に開催した肺塞栓症予防国際フォーラムで築いた国際関係を今後も維持し、国際的な情報交換を行っていく。
  • 平成18年度活動報告書

    静脈血栓症/肺塞栓症検討部会では、わが国における静脈血栓塞栓症の発症頻度やリスク因子を探り、日本人に適した血栓症予防ガイドラインを作成することが最大の目的である。平成19年2月17日に日本血栓止血学会学術標準化委員会2007シンポジムを行い、「肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン改定を考える」を討論したので、その報告を以下にまとめた。

    1.肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症予防ガイドライン改定の必要性 信州大学医学部保健学科 小林隆夫

     静脈血栓塞栓症(VTE)はわが国においては発症頻度が少ないと考えられていたが、生活習慣の欧米化や高齢化社会の到来などの理由により、近年その発症数は急激に増加している。欧米から20年以上遅れて、2004年2月にわが国でもようやくVTEの予防ガイドラインが策定され、さらに同年4月から「肺血栓塞栓症予防管理料」が新設されるに至った。この予防ガイドライン策定時のエビデンスは十分とはいえないものの、この公開によりVTE予防対策の重要性は、医療従事者にも国民の間にもより広く認識されてきた。その後各科領域において様々なエビデンスが集積されてきたが、なかでも日本麻酔科学会が行った2002年から2004年の肺血栓塞栓症(PTE)調査結果の経年的変化の中で注目すべき点は、周術期PTE症例に実施された予防方法である。すなわち、2002年に比べ「予防なし」は43.1%から21.4%へ減少し、予防法として「弾性ストッキング」は15.7%から54.0%、「間欠的空気マッサージ」は31.2%から48.9%とそれぞれ有意に増加した(p<0.05)。これは周術期PTE予防対策として理学的予防法が多く取り入れられたことを示唆しているが、むしろ理学的予防法を導入したにもかかわらず依然として周術期PTEを発症している症例が少なくないことを示している。一方、抗凝固療法が実施されていたPTE症例は8%程度に留まり、明らかな増加を認めなかった。以上の結果は、さらなるPTE削減策の一つが抗凝固療法の積極的な導入にあること、そのためには抗凝固療法の実施基準について論議する必要があることを示唆している。わが国では未だ認可されていない低分子量ヘパリンや選択的Xa阻害薬の臨床治験が、現在整形外科領域をはじめ腹部外科領域でも実施されており、これらの薬剤はまもなく認可される見通しとなった。
    本シンポジウムでは、公表されて3年経過したVTE予防ガイドラインをその後蓄積されたエビデンスをもとにいかに改定していくのか討論し、より有用なものにするための一助としたい。

    2.肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症予防ガイドライン作成の経緯および現状 三重大学大学院医学系研究科循環器内科学 中村真潮

     静脈血栓塞栓症は、手術後や出産後、あるいは急性内科疾患で入院中の患者に多く発症し、不幸な転帰をとる。欧米に20年以上も遅れたが、わが国でも2004年春に本学会など複数の団体が参画した本予防ガイドラインが作成された。同時期の診療報酬改定では「肺血栓塞栓症予防管理料」が保険収載され、全国的に本症予防への関心が高まっている。日本人エビデンスの乏しい中で作られた発展途上的なガイドラインであり、内科系での取り組みの遅れや薬物的予防法への消極性など、問題点は多く残る。しかし、臨床現場での成果は確実に現れている。例えば、日本麻酔科学会が行っている周術期調査では、本予防ガイドラインが発刊された2004年以降に明らかな肺血栓塞栓症の発症率低下が認められている。まずは本ガイドラインを参考にして各施設に適した予防マニュアルを作成し、実践を開始することである。そこから導き出された日本人に関する情報をそれぞれの施設が発信し、本ガイドラインを理想的なものへと発展させていく前向きな努力が最も重要である。

    以上の発表の後全体討論を行い、予防ガイドライン改定へ向けてのコンセンサスを得た。予防ガイドライン改定に際しては、(1)入院時および術前のVTE評価を行う、(2)各科領域で集積されたエビデンスをもとに各科におけるリスク評価を行う、(3)将来に向けてリスクの点数化の試みを行う。特に日本麻酔科学会肺塞栓症調査結果から検討してもらう。(4)リスクに応じた予防方法(低分子量ヘパリン・選択的Xa阻害薬も含む)を再評価する。とくに臨床例の検討から、1)予防法非実施例でVTE発症例に対する対策、2)理学的予防法実施例でVTE発症例に対する対策、3)抗凝固療法実施例でVTE発症例に対する対策などを提言する。(4)抗凝固療法の副作用対策を充分に行う。(5)VTEの早期診断・早期治療の提言も盛り込む等を考慮し、日本人のエビデンスに基づいた使いやすい予防ガイドラインに改定することで一致した。なお、平成19年4月18日に選択的Xa阻害薬であるフォンダパリヌクスが認可され、整形外科下肢手術に対して6月から保険適用されることになった。さらに低分子量ヘパリンであるエノキサパリンも申請中で近々認可される見通しである。この両剤は日本人に対してVTE予防薬としては初めて臨床治験が行われた薬剤で臨床的意義は大きい。予防ガイドライン改定にはこの両剤も盛り込むことになり、わが国のVTE予防対策も欧米に匹敵するものになると期待される。

  • 平成17年度活動報告書

    静脈血栓塞栓症(VTE)はこれまで本邦では比較的稀であるとされてきたが、生活習慣の欧米化などに伴い近年急速に増加している。わが国では人種的に凝固因子の構造異常は少なく、環境因子、妊娠・分娩、手術侵襲による血栓症が主体であるとされてきたが、近年、日本人の先天性プロテインS異常症が欧米人よりはるかに多いという報告もみられ、今後日本人特有の血栓性素因として注目されている。わが国における周術期肺血栓塞栓症(PTE)は、いわゆるエコノミークラス症候群(旅行者血栓症)の100倍以上の発症頻度であり、予防対策の重要性が急務である。平成16年2月に肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドラインが発刊され、同年4月からわが国ではじめて予防に対する保険診療、すなわち、「肺血栓塞栓症予防管理料」が新設されたことにより、全国の多くの施設でVTE予防対策が行われるようになっている。しかし、VTEに関する日本人のエビデンスがまだまだ乏しいのに加え、わが国で保険適用されている薬剤も限られており、手探りの状態が続いているのも事実である。しかし、その中で麻酔科学会の調査をはじめ、産婦人科、整形外科、外科領域におけるVTEのエビデンスも徐々に集積され、さらには新しい薬剤の臨床治験も行われている。静脈血栓症/肺塞栓症部会では平成17年2月18日に日本血栓止血学会学術標準化委員会2006シンポジムを行い、「わが国における静脈血栓塞栓症予防の現状と将来の展望」を討論したので、以下にその概要を示す。

    1.周術期肺血栓塞栓症の現況-日本麻酔科学会による最近3年間の調査報告 黒岩政之(国立病院機構相模原病院麻酔科)

    日本麻酔科学会は周術期に認められるPTEの発症頻度やその特徴を調査する目的で、2002年から2004年にかけて日本麻酔科学会全会員施設を対象に1年ごとに詳細なアンケート調査を行った。その結果周術期PTEの発症頻度は2002年から2003年にかけて4.41-4.76(1万症例対)であったが、2004年調査には3.62人(1万症例対)に減少した。なお、死亡率には有意差はなく、ほぼ20%前後であった。「開腹」手術は件数としては多いが、発症頻度としては「股関節・四肢」手術が高い。高齢になるにつれ周術期PTE発症頻度は上昇していて、66歳以上は65歳以下より2.62倍リスクが高かった。予防なしは年々減少し、予防ありのうち「弾性ストッキング」および「間欠的空気マッサージ」の導入例が増えていたが、「抗凝固療法」および「IVCフィルター」の増加は認められなかった。さらなるPTE削減策の一つが抗凝固療法の積極的な導入にあること、そのためには抗凝固療法の実施基準について論議する必要があることを示唆している。

    2.静脈血栓塞栓症予防の現況を検証する 中村真潮(三重大学大学院医学系研究科循環器内科学)

    入院患者における予防の必要性、入院患者でのVTEが高頻度、深部静脈血栓症(DVT)の早期確定診断が困難、PTEによる突然死が多い、費用対効果で予防が勝ることなどを理由に、平成16年2月に肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドラインが発刊され、同年4月から「肺血栓塞栓症予防管理料」が新設されたことにより、全国の多くの施設でVTE予防対策が行われるようになった。三重大学附属病院でもVTE予防マニュアル導入の結果、1)院内発症のPTEは大きく減少した、2)診療科により、VTE予防への関心や適正予防施行率が大きく異なっていた、3)リスクが高い群では、予防法が不適切な場合にDVTが多く発生した、4)適切な抗凝固療法における出血性合併症はみられなかった、5)VTEの予防は、日本でも明らかに有効であるなどが明らかになった。各施設の予防に対する意識は向上しているものの、適正なリスク評価や予防は未だ十分ではなく、内科系(更には精神科)への予防の普及が必要であること、抗凝固薬の適切な使用による効率的な予防を目指す必要があることなどが指摘される。

    3.日本人のプロテインS欠損症患者の現状とスクリーニングの重要性 宮田敏行(国立循環器病センター研究所病因部)

    日本人をはじめとするアジア人には、欧米人に多い活性化プロテインC抵抗性(Factor V Leiden)やプロトロンビン構造異常などの先天性血栓性素因はみられないため、日本人には血栓性素因は少ないとされてきた。しかし、日本人のVTE患者におけるプロテインSの遺伝子異常を検索したところ、プロテインS徳島変異がオッズ比5.58と高く、日本人のVTE患者の遺伝的背景であることが明らかになった。この結果は、九大の濱崎教授の検索結果(オッズ比3.7)からも裏付けられた。ヘテロ接合体は先天的にプロテインS活性が低く、妊娠などのプロテインS活性の低下を招く後天性要因が加わるとVTEが発症しやすいものと考えられる。今後はプロテインSのスクリーニングが重要になる可能性がある。

    4.低分子量ヘパリンの基礎から臨床-予防薬としての将来の展望 江守利博(サノフィ・アベンティス株式会社医薬開発本部)

    未分画ヘパリンは、1)消失半減期が短く、皮下投与時のバイオアベイラビリティが低い、2)凝固因子以外の血漿タンパクとの非特異的な結合が高いことなどから、血中濃度の予測がしにくい、3)血小板第4因子や血小板に対する影響があり、ヘパリン誘発性血小板減少症(HIT)を誘発しやすい、などの問題点がある。そこで、未分画ヘパリンを化学的あるいは酵素的に低分子量化した低分子量ヘパリンが登場した。低分子量化することにより、Xaにより選択的に結合するため、未分画ヘパリンにみられる副作用は軽減されている。エノキサパリンは1987年フランスで上市されて以来、低分子量ヘパリン製剤の中で最も幅広い適応症を有する薬剤として世界中(111カ国)で使用されており、発売以来2005年4月までに世界で約1.6億人の患者に投与されている。適応は、VTEの予防(整形外科手術・一般外科/腹部外科手術、安静状態にある急性内科疾患)、およびVTEの治療である。現在わが国で臨床治験が実施されており、本邦におけるVTE予防の標準化を進める上で、医療上の意義の高い薬剤として重要な位置付けがなされるものと考えられる。

    5.選択的Xa阻害剤の基礎から臨床-予防薬としての将来の展望 木城昭義(グラクソ・スミスクライン株式会社開発本部臨床開発部)

    選択的Xa阻害剤であるフォンダパリヌクスは、完全化学合成された化合物で、1)分子量が小さく、トロンビンへの影響が少ない、2)動物由来製品と異なり、動物由来の病原体が伝播するリスクがない、3)製品ロット間で品質が一定している、4)アンチトロンビン以外の血漿タンパクとほとんど結合しない、5)血小板第4因子と結合しない、6)HIT治療に使用できる可能性がある、などの特徴を持つ。本剤は、1)モニタリングの必要がなく、1日1回投与が可能、2)生体内利用率は100%、3)半減期が長い(17-21時間)、4)ベネフィット/リスク比に優れたXa阻害薬である。適応は、VTE予防(下肢整形外科手術、腹部手術、内科入院患者)、およびVTE治療などで、1日1回の皮下投与である。現在わが国で臨床治験が実施されており、本邦におけるVTE予防の標準化を進める上で、医療上の意義の高い薬剤として重要な位置付けがなされるものと考えられる。

    6.新薬審査の立場から 池田正行(独立行政法人医薬品医療機器総合機構新薬審査第二部)

    効果がない薬や、ある程度有効であっても重大な副作用が高頻度で起こるような薬を世の中に出すべきではないから、保険適用となる前にその薬の有効性と安全性が科学的に検証されねばならない。この科学的検証過程を審査、審査の結果臨床現場で使用してよいと判断することを承認と呼び、保険適用の前には必ずこの審査・承認の関門がある。医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、日本のFDAとしての機能を持ち、臨床試験データの科学的吟味、海外データの利用や国際共同治験への参加助言などを行うが、医療費・保険適用には一切関与していない。臨床医(循環器4,呼吸器2,消化器2,小児科2,総合診療2,血液2,神経内科2,膠原病・婦人科・腫瘍内科・精神科各1)の数はFDAに比べると極めて少なく、新薬審査はとても大変であるので、もし新薬を早く審査し承認して欲しいなら,審査の医師を増やすのが一番効果的である。日本血栓止血学会から血栓止血の臨床がわかる人をPMDAに送り込むのが最善である。
  • 平成16年度活動報告書
    1.わが国における静脈血栓塞栓症の予防ガイドライン作成・発行

    guideline01

    ■ Contents
    本ガイドラインの解釈に関する重要な留意事項 …………………………………153
    用語および略語の解説 ……………………………………………………………154
    本ガイドラインの対象となる患者および病態 ……………………………………154
    本ガイドラインの実施方法 …………………………………………………………154
    静脈血栓塞栓症の予防法 …………………………………………………………156
    静脈血栓塞栓症予防と局所麻酔 ……………………………………………………159
    一般外科手術における静脈血栓塞栓症の予防 ……………………………………160
    泌尿器科手術における静脈血栓塞栓症の予防 ……………………………………161
    婦人科手術における静脈血栓塞栓症の予防 ………………………………………162
    産科領域における静脈血栓塞栓症の予防 …………………………………………163
    整形外科手術における静脈血栓塞栓症の予防 ……………………………………164
    脳神経外科手術における静脈血栓塞栓症の予防 …………………………………165
    重度外傷,脊髄損傷,熱傷における静脈血栓塞栓症の予防………………………166
    内科領域における静脈血栓塞栓症の予防 …………………………………………167肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン作成委員会


    参加学会・研究会

    日本血栓止血学会
    日本産科婦人科学会
    日本産婦人科・新生児血液学会
    日本集中治療医学会
    日本静脈学会
    日本心臓病学会
    日本整形外科学会
    日本泌尿器科学会
    日本麻酔科学会
    肺塞栓症研究会


    作成委員 (は実務委員)

    池田正孝 大阪大学大学院医学系研究科病態制御外科学
    木下勝之 順天堂大学医学部産婦人科学
    木下順弘 熊本大学大学院医学薬学研究部侵襲制御医学
    国枝武義 社会福祉法人隅田秋光園内科
    小林隆夫 信州大学医学部保健学科
    栗山喬之 千葉大学大学院医学研究院加齢呼吸器病態制御学
    佐久間聖仁 東北大学大学院医学系研究科循環器病態学
    左近賢人 大阪大学大学院医学系研究科病態制御外科学
    佐藤 徹 慶應義塾大学医学部呼吸循環器内科学
    島居 徹 筑波大学臨床医学系腎泌尿器外科学
    白土邦男 東北大学大学院医学系研究科循環器病態学
    杉村 基 浜松医科大学医学部産婦人科学
    瀬尾憲正 自治医科大学麻酔科学・集中治療医学講座
    田中啓治 日本医科大学集中治療室
    田邉信宏 千葉大学大学院医学研究院加齢呼吸器病態制御学
    中西宣文 国立循環器病センター内科心臓部門
    中野 赳 三重大学医学部内科学第一講座
    丹羽明博 武蔵野赤十字病院循環器科
    宮原嘉之 長崎大学医学部・歯学部附属病院第二内科
    宮 史卓 三重大学医学部脳神経外科学
    山田典一 三重大学医学部内科学第一講座


    作成委員会事務局

    中村真潮 三重大学医学部内科学第一講座


    外部評価委員

    奥山明彦 大阪大学大学院医学系研究科器官制御外科学
    加藤紘之 北海道大学大学院医学研究科腫瘍外科学
    川上義和 国家公務員共済組合連合会幌南病院
    齋藤英彦 国立名古屋病院
    杉本恒明 公立学校共済組合関東中央病院
    寺尾俊彦 浜松医科大学
    平井正文 愛知県立看護大学外科学
    古家 仁 奈良県立医科大学麻酔科学

    上記の団体名・氏名は五十音順および敬称略にて表記

    本ガイドラインダイジェスト版は,日本心臓財団の助成金を受け作成致しました。ここに記して深謝致します。

    肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)
    予防ガイドライン

    本ガイドラインの解釈に関する重要な留意事項
    本ガイドラインは,日本人における理想的な静脈血栓塞栓症の予防の推奨を試みており,現時点で入手可能な限りの日本人のデータを収集して,それに基づいて策定した。しかしながら,現存する日本人に関するデータは未だランダム化された試験がほとんどなく,データの信頼性も自ずと低いものとなる。したがって,本ガイドラインは欧米のガイドラインのように十分なエビデンスに基づいたものではなく,静脈血栓塞栓症の予防を考慮する際の1つの指針に過ぎないことを十分念頭に置く必要がある。
    また,仮にエビデンスに基づいた理想的なガイドラインであっても,各々の症例においては複数のリスクが重複してその評価は非常に複雑となり,画一的な静脈血栓塞栓症の予防は容易ではない。さらに,未だ解明されていない先天的な血栓性素因が存在する可能性も十分考えられ,後天的なリスクの評価のみでは静脈血栓塞栓症の完全なる予防は不可能である。
    したがって,個々の症例に対するリスク評価や予防法は,本ガイドラインを参考にしつつも,最終的には主治医がその責任において決定しなければならない。合併症の危険を伴う予防法の施行においては,患者と十分に協議を行い,インフォームド・コンセントを取得することも考慮する。
    さらに,予防と同様に重要であることは,各種疾患や手術・処置においては静脈血栓塞栓症が発症する可能性が十分にあること,および適切な予防法を行っても完全なる発症予防は困難であることを理解し,患者への十分な説明を怠らないことである。加えて,静脈血栓塞栓症が発症した場合の適切な対応が不可欠であることも,銘記する必要がある。
    最後に,本ガイドラインは医療行為を制限するものではなく,本ガイドラインで推奨する予防法を医療従事者に義務づけるものではないことを明記しておく。本ガイドラインを基本にして,各施設が各々の実情に応じた独自のマニュアルを作成して実践することが理想である。

    用語および略語の解説

    用語の解説
    ●静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism)
    肺血栓塞栓症の原因のほとんどは深部静脈血栓症であり,また肺血栓塞栓症は深部静脈血栓症の合併症ともいえる。したがって,肺血栓塞栓症と深部静脈血栓症は1つの連続した病態であるとの考えから,これらを併せて「静脈血栓塞栓症」と呼ぶことが多く,欧米では広く浸透した用語である。本ガイドラインにおいて,肺血栓塞栓症と深部静脈血栓症を総合的に示す場合には「静脈血栓塞栓症」と記載する。

    略語
    ACT:活性化全血凝固時間
    APTT:活性化部分トロンボプラスチン時間
    DVT:深部静脈血栓症
    ES:弾性ストッキング
    IPC:間欠的空気圧迫法
    NYHA:ニューヨーク心臓協会
    PE:肺血栓塞栓症
    PT-INR:プロトロンビン時間の国際標準化比

    本ガイドラインの対象となる患者および病態
    本ガイドラインは,主に日本人の成人(18歳以上)の入院患者を対象とした静脈血栓塞栓症の一次予防を目的に策定されている。すでに静脈血栓塞栓症が認められる場合の二次予防に関しては言及していない。

    本ガイドラインの実施方法
    本ガイドラインでは,疾患や手術(処置)のリスクレベルを低リスク,中リスク,高リスク,最高リスクの4段階に分類し,各々に対応する予防法を推奨した(表1)。対象患者の最終的なリスクレベルは,疾患や手術(処置)そのもののリスクの強さに,付加的な危険因子(表2)を加味して,総合的にリスクの程度を決定する。例えば,強い付加的な危険因子をもつ場合には,それだけでリスクレベルを一段階上げるべきであり,弱い危険因子の場合でも複数個重なればリスクレベルを上げることを考慮する。また,経過中においては,患者の状態の変化に応じてリスクレベルの評価も柔軟に変更しなければならない。

    表1 リスクレベルと静脈血栓塞栓症の発生率,および対応する予防法

    リスクレベル 下腿
    DVT(%)
    中枢型
    DVT(%)
    症候性
    PE(%)
    致死性
    PE(%)
    推奨予防法
    低リスク 2 0.4 0.2 0.002 早期離床および積極的な運動
    中リスク 10~20 2~4 1~2 0.1~0.4 ESあるいはIPC
    高リスク 20~40 4~8 2~4 0.4~1.0 IPCあるいは低用量未分画ヘパリン
    最高リスク 40~80 10~20 4~10 0.2~5 (低用量未分画ヘパリンとIPCの併用)あるいは
    (低用量未分画ヘパリンとESの併用)

    (低用量未分画ヘパリンとIPCの併用)や(低用量未分画ヘパリンとESの併用)の代わりに,用量調節未分画ヘパリンや用量調節ワルファリンを選択してもよい。
    DVT:深部静脈血栓症,ES:弾性ストッキング,IPC:間欠的空気圧迫法,PE:肺血栓塞栓症

    表2 静脈血栓塞栓症の付加的な危険因子の強度

    危険因子の強度 危険因子
    弱い 肥満
    エストロゲン治療
    下肢静脈瘤
    中等度 高齢
    長期臥床
    うっ血性心不全
    呼吸不全
    悪性疾患
    中心静脈カテーテル留置
    癌化学療法
    重症感染症
    強い 静脈血栓塞栓症の既往
    血栓性素因
    下肢麻痺
    下肢ギプス包帯固定

    血栓性素因:先天性素因としてアンチトロンビン欠損症,プロテインC欠損症,プロテインS欠損症など,後天性素因として,抗リン脂質抗体症候群など。

    最高リスクにおいては抗凝固療法を積極的に推奨している。しかし,出血のリスクが高い場合には理学的予防法のみでの予防も考慮する。
    いずれの予防法の施行時にも,予防法施行による合併症について十分に説明する。特に,抗凝固療法を行う場合は,出血に伴う合併症についてインフォームド・コンセントを得る必要がある。

    静脈血栓塞栓症の予防法
    1. 予防法の種類(表3)
    ●早期離床および積極的な運動
    静脈血栓塞栓症の予防の基本となる。臥床を余儀なくされる状況下において早期から下肢の自動他動運動やマッサージを行い,早期離床を目指す。
    ●弾性ストッキング
    中リスクの患者では静脈血栓塞栓症の有意な予防効果を認めるが,高リスク以上の患者では単独使用での効果は弱い。足首が16~20mmHgの圧迫圧で,サイズがしっかり合った弾性ストッキングを使用する。着用が容易で不快感が少ないなどの点からハイソックス・タイプがストッキング・タイプより推奨される。弾性ストッキングが足の形に合わない場合や下肢の手術や病変のためにストッキングが使用できない場合には,弾性包帯の使用を考慮する。入院中は,術前術後はもちろん,静脈血栓塞栓症のリスクが続く限り終日着用する。
    ●間欠的空気圧迫法
    高リスクにも有効であり,特に出血のリスクが高い場合に有用である。カーフポンプ・タイプとフットポンプ・タイプがよく使用されるが,手術の種類など目的により使い分ける。原則として,周術期では手術前あるいは手術中より装着開始,また外傷や内科疾患では臥床初期より装着を開始し,少なくとも十分な歩行が可能となるまで終日装着する。使用開始時に深部静脈血栓症の存在を否定できない場合,すなわち手術後や長期臥床後から装着する場合には,深部静脈血栓症の有無に配慮し十分なインフォームド・コンセントの下に使用して,肺血栓塞栓症の発症に注意を払う。
    下腿の圧迫による総腓骨神経麻痺や区画症候群にも注意して使用する。

    ●低用量未分画ヘパリン
    8時間もしくは12時間ごとに未分画ヘパリン5,000単位を皮下注射する方法である。高リスクでは単独で有効であり,最高リスクでは理学的予防法と併用して使用する。脊椎麻酔や硬膜外麻酔の前後に使用する場合には,未分画ヘパリン2,500単位皮下注(8時間ないし12時間ごと)に減量することも選択肢に入れる。開始時期は危険因子の種類や強さによって異なるが,出血の合併症に十分注意し,必要ならば手術後なるべく出血性合併症の危険性が低くなってから開始する。通常は凝固能のモニタリングを必要とせず,簡便で安く,安全な方法である。しかし,出血のリスクが懸念される場合には,十分に凝固能を評価しながら使用する。
    抗凝固療法による予防は,少なくとも十分な歩行が可能となるまで継続する。静脈血栓塞栓症のリスクが持続して長期予防が必要な場合,未分画ヘパリンからワルファリンに切り換えて抗凝固療法を継続する。

    ●用量調節未分画ヘパリン
    APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)の正常値上限を目標として未分画ヘパリンの投与量を調節して,抗凝固作用の効果をより確実にする方法である。最初に約3,500単位の未分画ヘパリンを皮下注射し,投与4時間後のAPTTが目標値となるように,8時間ごとに未分画ヘパリンを前回投与量±500単位で皮下注射する。煩雑な方法ではあるが,最高リスクでは単独使用でも効果がある。

    表3 本ガイドラインにおいて推奨する静脈血栓塞栓症の薬物的予防法

    種類 施行方法 施行対象
    低用量未分画
    ヘパリン
    8時間もしくは12時間ごとに未分画ヘパリン5,000単位を皮下注射する。脊椎麻酔や硬膜外麻酔の前後では,未分画ヘパリン2,500単位皮下注(8時間ないし12時間ごと)に減量することも考慮する。 高リスクにおいて,単独で使用する。最高リスクでは,間欠的空気圧迫法あるいは弾性ストッキングと併用する。
    用量調節未分画ヘパリン 最初に約3,500単位の未分画ヘパリンを皮下注射し,投与4時間後のAPTTが正常上限となるように,8時間ごとに未分画ヘパリンを前回投与量±500単位で皮下注射する。 最高リスクにおいて,
    単独で使用する。
    用量調節
    ワルファリン
    ワルファリンを内服し,PT-INRが1.5~2.5となるように調節する。 最高リスクにおいて,
    単独で使用する。

    開始時期:疾患ごとに異なるが,出血の合併症に十分注意し,必要ならば手術後(なるべく出血性合併症の危険性が低くなってから)開始する。
    施行期間:少なくとも十分な歩行が可能となるまで継続する。血栓形成のリスクが継続し長期予防が必要な場合には,低用量(あるいは用量調節)未分画ヘパリンはワルファリンに切り換えて継続投与することを考慮する。
    APTT:活性化部分トロンボプラスチン時間,PT-INR:プロトロンビン時間の国際標準化比

    ●用量調節ワルファリン
    ワルファリンを内服し,PT-INR(プロトロンビン時間の国際標準化比)が1.5~2.5となるように調節する方法である。ワルファリン内服開始から効果の発現までに3~5日間を要するため,術前から投与を開始したり,投与開始初期には他の予防法を併用したりする。PT-INRのモニタリングを必要とする欠点はあるが,最高リスクにも単独で効果があり,安価で経口薬という利点を有する。

    2. 抗凝固療法の合併症への対応
    ●未分画ヘパリン
    合併症として最も重要であるのは出血である。ほとんどの出血は未分画ヘパリンの中止と局所圧迫および適当な輸血により対応が可能である。しかし,生命を脅かす恐れがある出血の場合,硫酸プロタミンにより未分画ヘパリンの効果を中和させる必要がある。抗凝固療法の継続が困難となった場合の代替の予防法は,静脈血栓塞栓症のリスクが高い場合には間欠的空気圧迫法を,またすでにリスクが低下した場合には弾性ストッキングを選択する。出血以外の合併症では,ヘパリン起因性血小板減少症II型が重要である。ヘパリン起因性血小板減少症II型では,血小板減少に伴い出血ではなく重篤な動静脈血栓が生じる恐れがある。治療の原則は未分画ヘパリンの中止である。そのため代替の抗凝固薬が必要となる。わが国では,保険適用はないがアルガトロバンが代替薬としてあげられる。

    ●ワルファリン
    ワルファリンも最も重要な合併症は出血である。生命を脅かす出血でPT-INRが延長している場合には,血漿輸血により凝固欠損を直ちに補正しつつ,ビタミンK 10~25mgを静脈注射する。

    ●その他の予防法
    本ガイドラインでは,アスピリンおよびデキストランは積極的には推奨しない。また,低分子量ヘパリンは欧米においては静脈血栓塞栓症の予防効果が高く評価されているが,本ガイドラインでは,保険承認薬剤(すなわち,未分画ヘパリンとワルファリン)を原則的に推奨する。

    静脈血栓塞栓症予防と局所麻酔
    1. 低用量未分画ヘパリン
    低用量(5,000単位皮下注,8時間あるいは12時間ごと)では,脊椎麻酔・硬膜外麻酔は禁忌でないが,以下のことに注意する。

    1) 刺入操作は未分画ヘパリン投与から4時間空ける。高濃度未分画ヘパリン皮下注(ヘパリンカルシウム)では,投与後10時間は空ける。
    2) 未分画ヘパリン投与は刺入操作から1時間空ける。
    3) カテーテル抜去は未分画ヘパリン投与の1時間前,または最終投与から2~4時間後に行う。高濃度未分画ヘパリン皮下注(ヘパリンカルシウム)では,最終投与から10時間は空ける。

    2. ワルファリン
    ワルファリン投与中の患者が脊椎麻酔や硬膜外麻酔を受ける場合は,PT-INRを測定して抗凝固状態を評価し,以下のことに注意する。

    1) 長期にワルファリン投与を受けている患者は,基本的には手術前3~4日前に投与を中止する。抗凝固療法の継続が必要であれば未分画ヘパリン10,000~15,000単位/日に変更する。未分画ヘパリン投与は脊椎麻酔や硬膜外麻酔施行2~4時間前に中止する。ブロックの直前にPT-INR<1.5,あるいはACT(活性化全血凝固時間)<180秒であることを確認する。
    2) その他の止血機構に影響を与える薬物を併用している場合,PT-INRでは抗凝固状態が測定できないので,個々に検討する。
    3) 手術直前にワルファリン療法が開始された患者では,初回投与が術前24時間以前の場合,あるいは2回目の投与がすでに行われている場合,ブロック直前にPT-INRを測定し抗凝固状態を評価する。
    4) ワルファリン投与を硬膜外ブロック中に受けている患者では,ワルファリン投与が術前36時間以前から行われていれば,PT-INRの測定をカテーテル抜去まで繰り返し行い抗凝固状態を評価する。
    5) カテーテルの抜去はPT-INR<1.5で行う。
    6) 硬膜外ブロック中にPT-INR>3となった場合は,ワルファリン投与を中断するか,減量する。

    一般外科手術における静脈血栓塞栓症の予防

    リスクレベル 一般外科(胸部外科を含む)手術 予防法
    低リスク 60歳未満の非大手術
    40歳未満の大手術
    早期離床および積極的な運動
    中リスク 60歳以上あるいは危険因子がある
    非大手術
    40歳以上あるいは危険因子がある
    大手術
    弾性スットッキング
    あるいは
    間欠的空気圧迫法
    高リスク 40歳以上の癌の大手術 間欠的空気圧迫法
    あるいは
    低用量未分画ヘパリン
    最高リスク (静脈血栓塞栓症の既往あるいは
    血栓性素因)のある大手術
    (低用量未分画ヘパリンと間欠的空気圧迫 法の併用)
    あるいは
    (低用量未分画ヘパリンと弾性ストッキングの併用)

    (低用量未分画ヘパリンと間欠的空気圧迫法の併用)や(低用量未分画ヘパリンと弾性ストッキングの併用)の代わりに,用量調節未分画ヘパリンや用量調節ワルファリンを選択してもよい。
    血栓性素因:先天性素因としてアンチトロンビン欠損症,プロテインC欠損症,プロテインS欠損症など,後天性素因として,抗リン脂質抗体症候群など。

    1. 一般外科(胸部外科を含む)周術期における静脈血栓塞栓症に対する予防は,手術の大きさ,年齢,危険因子(癌,静脈血栓塞栓症の既往,血栓性素因,高脂血症,糖尿病,ホモシステイン尿症,夜間発作性血色素尿症,妊娠,経口避妊薬服用,うっ血性心不全,骨髄増殖性疾患,ネフローゼ症候群,抗癌剤治療など)をもとに4段階のリスクレベルに階層化され,それに応じた予防法が推奨される。
    2. 厳密な定義はないが,大手術とはすべての腹部手術あるいはその他の45分以上要する手術を基本とし,麻酔法,出血量,輸血量,手術時間などを参考として総合的に評価する。
    3. 抗凝固療法,特にその開始時期は個々の症例の状況により裁量の範囲が広い。手術前日の夕方,手術開始後,あるいは手術終了後から開始する場合があるが,静脈血栓塞栓症のリスクと出血のリスクを勘案して,抗凝固療法の開始時期を決定する。
    4. 離床後あるいは退院後も抗凝固療法が必要と判断された場合には,ワルファリンによる予防を継続する。

    泌尿器科手術における静脈血栓塞栓症の予防

    リスクレベル 泌尿器科手術 予防法
    低リスク 60歳未満の非大手術
    40歳未満の大手術
    早期離床および積極的な運動
    中リスク 60歳以上あるいは危険因子がある
    非大手術
    40歳以上あるいは危険因子がある
    大手術
    弾性ストッキング
    あるいは
    間欠的空気圧迫法
    高リスク 40歳以上の癌の大手術 間欠的空気圧迫法
    あるいは
    低用量未分画ヘパリン
    最高リスク (静脈血栓塞栓症の既往あるいは
    血栓性素因)のある大手術
    (低用量未分画ヘパリンと間欠的空気圧迫法の併用)
    あるいは
    (低用量未分画ヘパリンと弾性ストッキングの併用)

    (低用量未分画ヘパリンと間欠的空気圧迫法の併用)や(低用量未分画ヘパリンと弾性ストッキングの併用)の代わりに,用量調節未分画ヘパリンや用量調節ワルファリンを選択してもよい。
    血栓性素因:先天性素因としてアンチトロンビン欠損症,プロテインC欠損症,プロテインS欠損症など,後天性素因として,抗リン脂質抗体症候群など。

    1. 原則としては,一般外科手術のリスク分類および予防法に準ずる。
    2. 手術の大きさに厳密な定義はないが,大手術とは 1)すべての腹部,骨盤部の手術,2)45分以上の腹部以外(陰嚢,陰茎など)の手術(経尿道的手術を含む)を基準として,麻酔法,出血量,輸血量,手術時間などを参考として総合的に評価する。
    3. 低リスクの泌尿器科手術を受ける患者においては早期離床,歩行開始を促すのみとし,特別な予防法を推奨しない。
    4. 前立腺全摘術や膀胱全摘術は高リスクとみなし,間欠的空気圧迫法あるいは抗凝固療法を選択する。
    5. 癌以外の疾患に対する骨盤手術も中リスク以上とみなし,少なくとも弾性ストッキングあるいは間欠的空気圧迫法を選択する。
    6. 経尿道的手術のリスクはそれほど高くないとされるが,疾患の種類,手術時間などを参考にし,中リスク以上と判断される場合は弾性ストッキングあるいは間欠的空気圧迫法を選択する。
    7. 腎手術などの腹部泌尿器科手術では,骨盤泌尿器科手術に準じた予防法を選択する。

    婦人科手術における静脈血栓塞栓症の予防

    リスクレベル 産婦人科手術 予防法
    低リスク 30分以内の小手術 早期離床および積極的な運動
    中リスク 良性疾患手術
    (開腹,経膣,腹腔鏡)
    悪性疾患で良性疾患に準じる手術
    ホルモン療法中の患者に対する
    手術
    弾性ストッキング
    あるいは
    間欠的空気圧迫法
    高リスク 骨盤内悪性腫瘍根治術
    (静脈血栓塞栓症の既往あるいは
    血栓性素因のある)良性疾患手術
    間欠的空気圧迫法
    あるいは
    低用量未分画ヘパリン
    最高リスク (静脈血栓塞栓症の既往あるいは
    血栓性素因のある)悪性腫瘍根治術
    (低用量未分画ヘパリンと間欠的空気圧迫法の併用)
    あるいは
    (低用量未分画ヘパリンと弾性ストッキングの併用)

    (低用量未分画ヘパリンと間欠的空気圧迫法の併用)や(低用量未分画ヘパリンと弾性ストッキングの併用)の代わりに,用量調節未分画ヘパリンや用量調節ワルファリンを選択してもよい。
    血栓性素因:先天性素因としてアンチトロンビン欠損症,プロテインC欠損症,プロテインS欠損症など,後天性素因として,抗リン脂質抗体症候群など。

    1. 原則としては,一般外科手術のリスク分類および予防法に準ずるが,婦人科特有の疾患として上記表のようにリスク分類を行う。
    2. 婦人科特有の危険因子としては,巨大子宮筋腫手術,巨大卵巣腫瘍手術,卵巣癌手術,子宮癌手術,骨盤内高度癒着の手術,卵巣過剰刺激症候群,ホルモン補充療法施行婦人などがあげられる。
    3. 手術予定患者だけでなく一般女性においても,静脈血栓塞栓症の高リスク女性に対する経口避妊薬投与やホルモン補充療法は,代替治療法を選択するなど十分な注意を払う。

    産科領域における静脈血栓塞栓症の予防

    リスクレベル 産科領域 予防法
    低リスク 正常分娩 早期離床および積極的な運動
    中リスク 帝王切開術(高リスク以外) 弾性ストッキング
    あるいは
    間欠的空気圧迫法
    高リスク 高齢肥満妊婦の帝王切開術
    (静脈血栓塞栓症の既往あるいは
    血栓性素因のある)経膣分娩
    間欠的空気圧迫法
    あるいは
    低用量未分画ヘパリン
    最高リスク (静脈血栓塞栓症の既往あるいは
    血栓性素因のある)帝王切開術
    (低用量未分画ヘパリンと間欠的空気圧迫法の併用)
    あるいは
    (低用量未分画ヘパリンと弾性ストッキングの併用)

    (低用量未分画ヘパリンと間欠的空気圧迫法の併用)や(低用量未分画ヘパリンと弾性ストッキングの併用)の代わりに,用量調節未分画ヘパリンや用量調節ワルファリンを選択してもよい。
    血栓性素因:先天性素因としてアンチトロンビン欠損症,プロテインC欠損症,プロテインS欠損症など,後天性素因として,抗リン脂質抗体症候群など。

    1. 静脈血栓塞栓症の家族歴・既往歴,抗リン脂質抗体陽性,肥満・高齢妊娠等の帝王切開術後,長期安静臥床(重症妊娠悪阻,卵巣過剰刺激症候群,切迫流早産,重症妊娠中毒症,前置胎盤,多胎妊娠などによる),常位胎盤早期剥離の既往,著明な下肢静脈瘤などは,高リスク妊婦と考えられる。
    2. 合併症その他で長期にわたり安静臥床する妊婦に対しては,ベッド上での下肢の運動を積極的に勧めるが,絶対安静で極力運動を制限せざるを得ない場合は弾性ストッキング着用あるいは間欠的空気圧迫法を行う。
    3. 長期安静臥床後に帝王切開を行う場合には,術前に静脈血栓塞栓症のスクリーニングを考慮する。
    4. 静脈血栓塞栓症の既往および血栓性素因を有する妊婦に対しては,妊娠初期からの予防的薬物療法が望ましい。未分画ヘパリン5,000単位皮下注射を1日2回行う。ワルファリンは催奇形性のため,妊娠中は原則として投与しない方がよい。分娩に際しては,陣痛が発来したら一旦未分画ヘパリンを中止し,分娩後止血を確認後できるだけ早期に未分画ヘパリンを再開し,引き続きワルファリンに切り換える。

    整形外科手術における静脈血栓塞栓症の予防

    リスクレベル 整形外科手術 予防法
    低リスク 上肢手術 早期離床および積極的な運動
    中リスク 脊椎手術
    骨盤・下肢手術
    (股関節全置換術,膝関節全置換術,
    股関節骨折手術を除く)
    弾性ストッキング
    あるいは
    間欠的空気圧迫法
    高リスク 股関節全置換術
    膝関節全置換術
    股関節骨折手術
    間欠的空気圧迫法
    あるいは
    低用量未分画ヘパリン
    最高リスク 「高」リスクの手術を受ける患者に,
    静脈血栓塞栓症の既往,血栓性素
    因が存在する場合
    (低用量未分画ヘパリンと間欠的空気圧迫法の併用)
    あるいは
    (低用量未分画ヘパリンと弾性ストッキングの併用)

    (低用量未分画ヘパリンと間欠的空気圧迫法の併用)や(低用量未分画ヘパリンと弾性ストッキングの併用)の代わりに,用量調節未分画ヘパリンや用量調節ワルファリンを選択してもよい。
    血栓性素因:先天性素因としてアンチトロンビン欠損症,プロテインC欠損症,プロテインS欠損症など,後天性素因として,抗リン脂質抗体症候群など。

    骨盤,下肢手術後においては,早期離床や積極的な運動に加え,早期荷重が重要である。

    人工股関節全置換術,
    人工膝関節全置換術,
    股関節骨折手術

    1. 股関節骨折手術については,理想的な予防法がないため,上記の表を参考として個々の症例に応じた予防法を考慮する。
    2. 股関節骨折は,受傷直後より深部静脈血栓症が発生する可能性があり,早期手術,早期離床が非常に重要である。
    3. 間欠的空気圧迫法を手術後に使用する場合は深部静脈血栓症の有無を事前に確認すべきであるが,それが困難である場合にはインフォームド・コンセントを取得してから施行し,また肺血栓塞栓症の発症に十分注意を払うべきである。

    脊椎手術,骨盤・下肢手術(人工股関節全置換術,
    人工膝関節全置換術,股関節骨折手術を除く)
    1. 弾性ストッキングや間欠的空気圧迫法が装着困難な下腿骨折は,早期手術,早期離床,早期荷重に努める。
    2. キアリ骨盤骨切り術や寛骨臼回転骨切り術は,人工股関節全置換術に準じて予防を施行した方がよい。
    3. 脊椎手術は血腫による神経麻痺が発生する可能性があり,予防的な抗凝固療法は現状では推奨できない。

    上肢手術
    上肢手術は遅くとも翌日には離床できるため,特別な血栓予防は必要ない。

    脳神経外科手術における静脈血栓塞栓症の予防

    リスクレベル 脳神経外科手術 予防法
    低リスク 開頭術以外の脳神経外科手術 早期離床および積極的な運動
    中リスク 脳腫瘍以外の開頭術 弾性ストッキング
    あるいは
    間欠的空気圧迫法
    高リスク 脳腫瘍の開頭術 間欠的空気圧迫法
    あるいは
    低用量未分画ヘパリン
    最高リスク (静脈血栓塞栓症の既往や
    血栓性素因のある)脳腫瘍の開頭術
    (低用量未分画ヘパリンと間欠的空気圧迫法の併用)
    あるいは
    (低用量未分画ヘパリンと弾性ストッキングの併用)

    (低用量未分画ヘパリンと間欠的空気圧迫法の併用)や(低用量未分画ヘパリンと弾性ストッキングの併用)の代わりに,用量調節未分画ヘパリンや用量調節ワルファリンを選択してもよい。
    血栓性素因:先天性素因としてアンチトロンビン欠損症,プロテインC欠損症,プロテインS欠損症など,後天性素因として,抗リン脂質抗体症候群など。

    1. 大量のステロイドを併用する場合には,さらにリスクが高くなるものと考える。
    2. 低用量未分画ヘパリンでの予防は,手術後なるべく出血性合併症の危険性が低くなってから開始する。特に頭蓋内での出血は重篤な障害を招く可能性があるため,手術後の止血をCTなどにより十分確認の後,投与開始するのが望ましい。
    3. 出血の危険性が高い高リスクの手術では,間欠的空気圧迫法を用いることができない場合に,弾性ストッキング単独での予防も許容される。
    4. 最高リスクにおいては抗凝固療法が基本となるが,出血の危険が高い場合には,止むを得ず間欠的空気圧迫法で代替することも考慮する。

    重度外傷,脊髄損傷,熱傷における静脈血栓塞栓症の予防

    リスクレベル 重度外傷,脊髄損傷 予防法
    低リスク 早期離床および積極的な運動
    中リスク 弾性ストッキング
    あるいは
    間欠的空気圧迫法
    高リスク 重度外傷,運動麻痺を伴う
    完全または不完全脊髄損傷
    間欠的空気圧迫法
    あるいは
    低用量未分画ヘパリン
    最高リスク (静脈血栓塞栓の既往や
    血栓性素因のある)「高」リスクの
    重度外傷や脊髄損傷
    (低用量未分画ヘパリンと間欠的空気圧迫法の併用)
    あるいは
    (低用量未分画ヘパリンと弾性ストッキングの併用)

    (低用量未分画ヘパリンと間欠的空気圧迫法の併用)や(低用量未分画ヘパリンと弾性ストッキングの併用)の代わりに,用量調節未分画ヘパリンや用量調節ワルファリンを選択してもよい。
    血栓性素因:先天性素因としてアンチトロンビン欠損症,プロテインC欠損症,プロテインS欠損症など,後天性素因として,抗リン脂質抗体症候群など。

    重度外傷

    1. 重度外傷,特に,多発外傷,意識障害の遷延する頭部外傷,運動麻痺を伴う脊椎骨折や脊髄損傷,重症骨盤骨折,多発性または複雑な下肢骨折は,静脈血栓塞栓症の高リスク群である。
    2. 主要臓器損傷があり,止血が完了していないか再出血による合併症が懸念される時期においては,弾性ストッキングの着用や間欠的空気圧迫法を行う。
    3. 下肢の外傷などで機械的な予防ができない場合は,出血の危険がなくなり次第,低用量未分画ヘパリンを開始する。
    4. 抗凝固療法の禁忌となるような出血がない場合,高リスク群では受傷部位の一次止血が確認されれば,低用量未分画ヘパリンを開始する。一次止血が確認されるまでの期間,および抗凝固療法が禁忌の場合には,弾性ストッキング装着や間欠的空気圧迫法を施行する。

    脊髄損傷

    1. 脊椎周囲に血腫のある場合は,短期的に抗凝固療法は禁忌となる。
    2. 脊髄損傷患者は知覚障害があるため,長期の間欠的空気圧迫法の使用は潰瘍などの皮膚障害を引き起こす可能性があり,避けるべきである。
    3. 静脈血栓塞栓症の予防は可能な限り続ける必要がある。

    熱傷
    ● 熱傷患者の静脈血栓塞栓症の予防に関するエビデンスは乏しいが,下肢外傷,高齢,広範囲の熱傷,肥満,長期臥床,中心静脈カテーテル留置などの危険因子が存在する場合には,その予防を検討すべきである。

    内科領域における静脈血栓塞栓症の予防

    1. 内科領域では,原則として臥床を要する症例を予防対象とする。手術を行わない症例を対象にしているため,表4に示したように,各症例が有する基本リスクとそこに加わる急性疾患に伴う急性リスクの組み合わせでリスクの程度を判断し,表1の各リスクレベルの予防法に準じて適切な予防法を選択する。
    2. 脳卒中は強い危険因子とみなして予防を行うが,出血性脳血管障害患者などの抗凝固療法禁忌例に対しては,理学的予防法を選択する。
    3. 心筋梗塞は中程度の危険因子とみなされ,十分に歩行可能となるまで抗凝固療法が継続されない場合には,弾性ストッキングあるいは間欠的空気圧迫法を施行する。
    4. うっ血性心不全患者は中程度の危険因子とみなすが,弾性ストッキングや間欠的空気圧迫法の使用は静脈還流量が増加し病態増悪が危惧されるため十分注意して使用し,症例によっては低用量未分画ヘパリンの使用を考慮する。
    5. カテーテル検査・治療後の静脈血栓塞栓症の発症は稀ではなく,穿刺部位の止血のための圧迫を必要以上に長時間行うことは避け,安静時間の短縮を図る。また,静脈血栓塞栓症のリスクの高い症例では,大腿静脈等といった下肢からの中心静脈カテーテル留置はできる限り避ける。
    6. 内科集中治療室症例では危険因子が重複することが多く,リスクの程度に応じた静脈血栓塞栓症の予防を行うべきである。

    表4 内科領域における危険因子の強度

    基本リスク 急性リスク
    弱い 肥満,喫煙歴,下肢静脈瘤,脱水
    ホルモン補充療法,経口避妊薬服用
    人工呼吸器が不要な慢性閉塞性肺疾患の急性増悪
    中程度 70歳以上の高齢,長期臥床
    進行癌,妊娠
    中心静脈カテーテル留置
    ネフローゼ症候群
    炎症性腸疾患,骨髄増殖性疾患
    感染症(安静臥床を要する)
    人工呼吸器が必要な慢性閉塞性肺疾患
    敗血症
    心筋梗塞
    うっ血性心不全(NYHA分類 III,IV度)
    強い 静脈血栓塞栓症の既往
    血栓性素因
    下肢麻痺
    麻痺を伴う脳卒中

    血栓性素因:先天性素因としてアンチトロンビン欠損症,プロテインC欠損症,プロテインS欠損症など,後天性素因として,抗リン脂質抗体症候群など。
    NYHA:ニューヨーク心臓協会

    肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン作成委員会 本書の無断複製・転載を禁じます。 『本ガイドラインは「肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン作成委員会,肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン(ダイジェスト版),東京,Medical Front International Limited, 2004.」より全文引用した』