この度、嶋緑倫先生の後任として日本血栓止血学会の理事長を拝命いたしました名古屋大学医学部附属病院輸血部の松下 正でございます。本学会は日本の血栓止血学をリードし、様々な成果を国内のみならず海外にも発信してきました。このような伝統ある本学会の理事長に就任させていただくことは大変な名誉なことであり、身の引き締まる思いでございます。先輩方が築いてきた数々の業績と伝統を継承し、すべての医療職にとって魅力的な学会となるよう努力したいと思います。
本学会は、1978年の設立で、今年で42年目となります。生体防御の一環として重要な止血機構と人類の主たる死因である血栓症を基礎から臨床まで幅広く研究する、生化学、生理学、脈管学、循環器学、小児科学、外科学、産婦人科学等の研究者から成る横断的、学際的性格の強い学会であります。本学会のミッションは日本の血栓止血学を世界に冠たるレベルに発展させることはもとより、ベストな血栓症の抑制・治療、出血疾患に対する最適な止血治療とはなにか?を追い求めることにあります。
これまで、この領域では日本の研究者の成果が高く評価されております。古くはトラネキサム酸やアルガトロバンの開発、α2プラスミンインヒビターの発見、トロンボモジュリン遺伝子の単離などは血栓止血学の進歩の時計の針を大きく進め、また多くの患者さんの治療に役立っています。近年では、TTPの病因としてのADAMTS13の同定・測定系の確立、新規先天性血栓症アンチトロンビン抵抗性や血小板受容体CLEC2の発見、血栓形成のバイオイメージング、可溶型ヒトトロンボモジュリンや第VIII因子代替バイスペシフィック抗体製剤などの開発、iPS細胞からの血小板産生など常に世界をリードする研究・治療薬の開発がわが国から生み出されています。
このように本学会会員の国際舞台での活躍は枚挙にいとまのないところですが、国際血栓止血学会(ISTH)がKyotoにおいて2011年、大震災の直後にもかかわらず成功裏に終了して9年が経た今、現在ISTH理事を務めておられる嶋前理事長のプレゼンスが重きをなすにともない本学会の飛躍のチャンスが到来しております。この期を逃さず、本学会の国際的認知度をさらに高めるべく、工夫を凝らしていきたいと考えています。またすでに息の長い交流を続けているアジア太平洋血栓止血学会(APSTH)との連携も引き続き堅持して参りたいと考えております。
出血性疾患はもとより、人類の健康において血栓症が如何に重要な位置を占めるかを考えれば、わが国の血栓症の基礎研究者は少なすぎると思われます。そして今またCOVID-19の予後を大きく左右する病態として血栓症がクローズアップされ一刻も早いその制御がのぞまれる中、学会の活性化には若手の会員の増加が必須です。これまで本学会では研修医を対象とした教育セミナーの開催、認定医制度の発足などその布石を打ってきました。今後は医師・研究者のみならず、臨床検査、看護、リハビリ、栄養学、薬学、製薬・検査企業等など、血栓止血に関連する分野の医療者に大きく扉を広げ、近い将来認定検査技師・看護師・薬剤師などを育て、様々な医療職種において、全国の医療機関に血栓止血のスペシャリストが配置されることが望ましい姿だと考えます。まずは血栓止血学に興味を持っておられる医療者の方には是非、学術集会やSSCやSPCシンポジウムに参加いただければと思います。
学会の発展における代議員の位置づけはとても重要です。代議員は一定の学術・診療上のレベルを有する学会のキープレーヤーであり、各施設・機関における卒後・卒前教育の中心的存在でもあります。代議員数の増加は、すなわち本学会の守備範囲の裾野を広げ、正しい医療を実践・広めてくれるいわばEvangelistが増えることに他なりません。本学会の領域は、循環器疾患や動脈硬化をはじめ多くの医学領域と深いつながりがあります。有能・有望な会員を、血液学はもとより、麻酔科学、外科学、集中治療学、救急医学の方面に働きかけて代議員を発掘していきたいと考えます。
血栓止血学の分野における科学的根拠(エビデンス、EBM)の対象として、医師の指示する止血/抗血栓療法の選択とその使用方法については臨床医学の最重要課題として位置づけていかなければなりません。もとより、科学的手法により補充療法・抗血栓療法・DICのコントロールの指針を正しい方向に導くことは本学会がその先陣を切って取り組むべき課題であります。そのような学際的研究の発表やその支援に対しては多くのリソースが注がれるべきであり、また情報の提供は迅速かつ時宜を得たものでならないと考えています。高い倫理的観点からの配慮を継続しつつ、タイムリーなガイドラインの創出と何よりもそのアップデートをより迅速に行えるような洗練されたシステムを確立していきたいと考えています。
個人的な話題で恐縮でございますが、本学会は松下にとって自身の医師・研究者としてのスタート地点から今日に至るまでお世話になった場であり、微力ながらお力になれることをこの上なく幸運に存じております。運営に際しては、意見には積極的に耳を傾け、独善に陥らず、有効なコミュニケーションのもと、運営に携わって参りたいと考えております。
一般社団法人日本血栓止血学会
理事長 松下 正
本学会は、生体防御の一環として重要な止血機構と心筋梗塞や脳梗塞などの病因である血栓症を基礎から臨床まで幅広く研究する。
歴史的には血液凝固、血小板、出血性素因などの臨床的研究から始まり血液学の一分野であったが、過去20年間に分子生物学、細胞生物学の応用と血管系の研究により急速に成長し、現在では生化学、生理学、脈管学、循環器学、小児科学、外科学、産婦人科学の研究者から成る横断的、学際的性格の強い学会である。我が国でも食生活の欧米化ならびに高齢社会を迎えて虚血性心疾患や脳血管障害などの血栓性疾患が著しい増加傾向にあり、その病因病態の解明、治療、予防などを目標とする。
1978年4月
約1,200名
基礎系・臨床系の医学研究者および薬学、理学系研究者
【理事長】 | 松下 正 |
【副理事長】 | 岡本好司 |
【理 事】 | 渥美達也 池添隆之 井上克枝 大森 司 小亀浩市 後藤信哉
野上恵嗣 橋口照人 堀内久徳 松本雅則 森下英理子 山本晃士 横山健次 |
【監 事】 | 村田 満 朝倉英策 山崎昌子 |
〒112-0013
東京都文京区音羽1-15-12 アルス音羽707
電話 03-6912-2895 FAX 03-6912-2896
ホームページ:http://www.jsth.org/
「日本血栓止血学会誌」隔月
第45回日本血栓止血学会学術集会
会期:2023年6月15日(木)~6月17日(土)
会場:北九州国際会議場
会長:岡本好司 北九州市立八幡病院 外科/消化器・肝臓病センター
第17回 SSCシンポジウム
会期:2023年2月18日(土)
会長:保田知生 独立行政法人 地域医療機能推進機構 星ヶ丘医療センター 循環器外科・超音波センター
※Web開催も考慮中。
第10回 教育セミナー
会期:2022年11月6日(日)
会場:Web開催(ZOOM)