血小板部会

部会長: 加藤 恒
副部会長: 松原由美子 山之内純
部会員: 柏木浩和 清水美衣 高野勝弘 冨山佳昭 羽藤高明
堀内久徳 宮﨑浩二 矢冨 裕 山崎昌子 横山健次

詳細情報

  • 令和4年度活動報告書
    血小板部会
    部会長 山之内 純(愛媛大学医学部附属病院 輸血・細胞治療部)

    1.令和4年度の活動報告

    a) 第17回SSCシンポジウム
    第一部:「血小板関連疾患の診断、治療」の標準化に向けて

    1) 新たな成人ITP診断基準
    柏木 浩和(大阪大学 血液・腫瘍内科学)
    厚生労働省難治性疾患克服研究事業「血液凝固異常症等に関する研究班」では、TPO濃度および幼若血小板比率を用いた新たな成人ITP診断基準を作成しており、その有用性についての検証結果を報告した。

    2) 先天性血小板減少症・異常症の網羅的診断法とレジストリの構築
    内山 徹(国立成育医療研究センター 成育遺伝研究部疾患遺伝子構造研究室)国立成育医療研究センターでは、先天性血小板減少症・異常症の網羅的診断法の確立を目的に、2018年度より疾患レジストリおよびターゲットリシーケンスによる原因遺伝子の同定を行い、2022年10月現在、162例の治療抵抗性の血小板減少症患者を解析し、84例で原因遺伝子の同定に至っている。今後、さらなる迅速かつ適切な診断法の確立を通して、難治性血小板減少症患者の診療の拡充を目指すと報告した。

     

    第二部:「血小板関連製剤による治療」の標準化に向けて

    1) 運動器疾患に対する多血小板血漿(PRP)療法
    若山 貴則(順天堂大学 整形外科・スポーツ診療科スポーツ医学・再生医療講座)
    順天堂大学では、2011年よりPRP療法が運動器疾患治療の一つのオプションとして開始されており、その経験を踏まえて、運動器疾患に対するPRP療法に関する基礎と臨床のデータを報告した。

    2) PRPの規格化を目指す取り組み
    松原 由美子 (慶應義塾大学 臨床研究推進センター)
    再生医療等製品として他家間葉系幹細胞由来血小板を開発している血小板の規格化の経験を活かし、PRPに関しても、品質評価データの蓄積を行い、一定の規格を有するPRPの作製に取り組む試みを報告した。

    3) HLA適合血小板の使用ガイドライン
    羽藤 高明 (愛媛県赤十字血液センター)
    HLA適合血小板は抗HLA抗体を原因とする免疫性血小板輸血不応状態の患者に使われる輸血製剤である。最近、HLA適合血小板の供給から使用までに至る段階を網羅した実践的なガイドが日本輸血・細胞治療学会血小板小委員会から発行されており、その内容を踏まえてHLA適合血小板に関する現状と課題を報告した。

     

    2. 令和5年度の活動計画

    引き続き、血小板に関わる基礎的・臨床的研究を進めていく予定である。
     

  • 令和3年度活動報告書
    血小板部会
    部会長 山之内純(愛媛大学医学部附属病院 輸血・細胞治療部)

    1.令和3年度の活動報告

    a) 第16回SSCシンポジウム
    血小板部会:開催なし

     

    b) ガイドライン・診断基準・共同研究などの成果
    COVID19ワクチン接種のガイダンス作成について討議し、当学会ホームページ、新型コロナウイルス特設ページの「新型コロナウイルスワクチン接種留意点」の作成に参加した。特に血小板減少症/血小板機能異常症の項目に関与した。

     

    c) その他の活動
    ITP患者でのワクチン接種後の血小板減少について討議し、当学会ホームページ、新型コロナウイルス特設ページの「COVID-19ワクチン接種時の注意喚起(ITP、PNH)」の作成に参加した。

     

    2. 令和4年度の活動計画

    引き続き、血小板に関わる基礎的・臨床的研究を進めていく予定である。
     

  • 令和2年度活動報告書

    1.令和2年度の活動報告

    血小板部会 部会長 山之内 純(愛媛大学医学部附属病院 輸血・細胞治療部)

    a) SSCシンポジウム
    第15回SSCシンポジウム血小板部会
    「血小板減少をきたす疾患の診断と治療」

    1. 血小板減少をきたす疾患
    山之内 純 (愛媛大学 輸血・細胞治療部)
    総論として「血小板減少をきたす疾患」について、血小板減少をきたす原因は多岐にわたるが、大まかにまとめると、血小板産生の低下もしくは血小板破壊の亢進、さらには、脾臓への集積である。日常診療では、血小板減少の原因を明らかにして、症状の改善を目的とする治療につなげていくことが大切であると報告した。

    2. 血小板減少症の鑑別診断と血小板パラメータ
    宮﨑 浩二 (北里大学 輸血・細胞移植学)
    先天性血小板減少症の診断を行うためには、まず日常診療において本症を念頭に置いて血小板減少症を鑑別することが重要である。末梢血塗抹標本の検鏡が一つの手段となるが、それには熟練を要する。そのため、日常診療で得られる簡便なスクリーニングの指標があれば、本疾患を見逃すことなく効率的に正しい診断に至ることができるとして、実際の血小板減少症例を提示し、自動血球測定器で得られる種々の血小板パラメータ(MPV, PDW, P-LCR, IPFなど)で先天性血小板減少症のスクリーニングに有用な方法を提示いただいた。

    3. 血小板減少への治療を目指す再生医療等製品の開発
    松原 由美子 (慶應義塾大学 臨床研究推進センター/臨床検査医学)
    血小板輸血は血小板減少患者に行われており、その有用性は広く知られているが、問題点はドナーによる献血に100%依存していることと、保存期間は採血日を含め4日間と短いことである。近年、高齢化社会に伴う急速な需要増加があるにもかかわらず、献血者が減少していることから血小板製剤の安定供給が懸念されている。それを解決する一つの手段としての間葉系幹細胞由来血小板について、血小板分化メカニズムとその作製方法、医療応用実用化に向けた研究について紹介いただいた。

    4. 成人ITP治療参照ガイド2019年版:ASHおよびICRガイドラインとの比較
    柏木 浩和 (大阪大学 血液・腫瘍内科学)、冨山 佳昭 (大阪大学 輸血部)
    2019年に厚生労働省難治性疾患克服研究事業血液凝固異常症調査研究班(村田班)から、「成人ITP治療の参照ガイド2019改訂版」が発表された。本改訂版においては、従来のファーストライン治療:副腎皮質ステロイド、セカンドライン治療:脾臓摘出術(脾摘)、サードライン治療:その他、という治療の流れから、近年広く使用されているトロンボポエチン受容体とITPへの保険適用拡大となったリツキシマブを脾摘と同等のセカンドライン治療に位置づけることとなった。一方で2019年にアメリカ血液学会(ASH)および国際コンセンサス委員会(ICR)からも新たなITPガイドラインが発表されている。これらの治療の流れは本邦の治療参照ガイドと基本的に大きな相違点はないと報告いただいた。

    2. 令和3年度の活動計画

    引き続き、血小板に関わる基礎的・臨床的研究を進めていく予定である。

  • 令和元年度活動報告書

    1.令和元年度の活動報告

    血小板部会 前部会長 横山健次(東海大学医学部内科学系 血液・腫瘍内科学)

    a) SSCシンポジウムの準備内容
    以下の内容で第14回SSCシンポジウム血小板部会開催を予定していた。
    「血小板減少を来す疾患の診断と治療」

    1. 血小板減少症のオーバービュー
    山之内 純(愛媛大学 血液・免疫・感染症内科学)

    血小板減少の原因には、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群などの骨髄不全疾患、あるいは化学療法後、放射線治療後などでみられる骨髄での血小板産生の低下、特発性血小板減少性紫斑病でみられる抗血小板抗体による血小板の破壊、肝硬変、巨大脾腫でみられる血小板の分布の異常などがある。これらの後天的な要因に加えて、現在までに20種類以上の先天性血小板減少症の原因遺伝子も明らかにされている。日常診療では、血小板減少の原因を明らかにして、症状の改善を目的とする治療につなげていくことが大切である

    2. 日常臨床に潜む家族性血小板異常症(FPD/AML)
    櫻井 政寿(慶應義塾大学医学部 血液内科)

    家族性血小板異常症(Familial platelet disorder with predisposition to acute myelogenous leukemia: FPD/AML)は、幼少期からの血小板減少症を主徴とし、成人後に高率に血液腫瘍を発症する常染色体優性遺伝疾患であり、その原因は、先天的RUNX1遺伝子異常である。現在までに30家系以上の報告があり、典型的には質的および量的な血小板異常を有する。また本疾患は11-100%(中央値44%)が血液腫瘍を発症し、日本の解析では半数以上の症例で細胞周期に関わる遺伝子であるCDC25C変異が同定されている。また海外からの続報ではTET2、TP53、FLT3、DNMAT3Aなどの変異が同定されている。我々のグループが行った2家系の解析では、それぞれTET2変異とTrisomy 21を付加的異常として同定した。さらにFPD/AML患者からiPS細胞(FPD-iPSC)を作成して、健常人由来iPS細胞との比較を行った結果、FPD-iPSC は正常 iPSC と 比較して血球前駆細胞への分化効率が数分の一に低下し、それに加えて成熟巨核球への分化障害が顕著であった。

    3. 血小板減少が先行する再生不良性貧血の病態診断と治療
    山崎 宏人(金沢大学附属病院 輸血部)

     再生不良性貧血は何らかの原因で骨髄中の造血幹細胞が減少し、最終的には汎血球減少をきたす「骨髄不全症」であり、一部は造血幹細胞自体の異常が原因で発症するものの、大部分は何らかの免疫学的機序が発症に関与していると考えられている。再生不良性貧血には疾患特異的なマーカーが存在せず、形態学的所見のみから診断することはしばしば困難であるが、免疫病態の関与を見極めるためには発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)型血球の検出や血漿トロンボポエチン(TPO)高値の所見が有用である。免疫病態の関与した再生不良性貧血では血小板減少が診断のきっかけになることが多く、巨核球増加を伴わない血小板減少症では再生不良性貧血を念頭に鑑別を進めることが重要である。また非重症例でも造血回復のためには免疫抑制剤による早期の治療介入が望ましい。

    4. 成人ITP治療の参照ガイド2019年改訂版の紹介
    柏木 浩和1)、冨山 佳昭2)
    1)大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学、2)大阪大学医学部附属病院 輸血部)

     2012年に厚生労働省難治性疾患克服研究事業血液凝固異常症調査研究班(村田班)から、「成人ITP治療の参照ガイド2012年版」が発表された。2012年版ガイドは現在においても十分有用なものであるが、サードラインに位置付けられていたトロンボポエチン受容体作動薬(TPO-RA)の使用経験が蓄積され、その長期的な有効性と安全性が明らかにされてきた。さらに欧米ではセカンドラインに位置づけられていたリツキシマブが2017年に日本で成人ITPに適応拡大された。そこで村田班では、7年ぶりに成人ITP治療ガイドの改訂を行った。本改訂の最大のポイントは、セカンドライン治療として、TPO-RA、リツキシマブおよび脾摘を推奨し、それぞれの治療の選択は、患者の状態や生活スタイルに合わせて個別に判断する、とした点にある。

    2. 令和2年度の活動計画

     新部会長の山之内 純(愛媛大学 血液・免疫・感染症内科学)を中心として血小板に関わる基礎的・臨床的研究を進めていく予定である。

  • 平成30年度活動報告書
    平成30年度血小板部会活動報告

    血小板部会 部会長 横山健次(東海大学医学部付属八王子病院 血液腫瘍内科)

    a) SSCシンポジウム
    第13回SSCシンポジウム血小板部会
    「血小板減少時の血小板機能、抗血小板/抗凝固療法」

    1. 全国ITP患者統計からみた出血症状と血小板数の関連性
    羽藤高明1)、島田直樹2)、冨山佳昭3)、村田満4)
    1)愛媛大学医学部附属病院輸血・細胞治療部,2)国際医療福祉大学基礎医学研究センター,3)大阪大学医学部附属病院輸血部,4)慶應義塾大学医学部臨床検査医学

    10年間の新規登録ITP患者21,811人の臨床調査個人票のデータを解析して、血小板数1万以下、60歳以上、血尿の存在が脳出血、消化管出血のリスクであることを明らかにした。

    2. 血小板数低値の場合施行可能な血小板機能、活性化血小板の測定法
    松原由美子1)、清水美衣 2,3)
    1)慶應義塾大学医学部臨床研究推進センター, 2)名城大学薬学部環境科学研究室, 3)横浜市立脳卒中神経脊髄センター

     活性化血小板特異的抗体とフローサイトメトリーを用いた3カラーフローサイトメトリーのよる活性化血小板の検出法は、感度、特異度が高く、かつ微量検体でも測定可能であり、血小板減少患者の血小板機能評価に有用であることを報告した。

    3. Flow cytometryを用いた慢性ITP患者の血小板機能解析
    柏木 浩和1)、西浦 伸子1)、冨山 佳昭2)
    1)大阪大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学, 2)大阪大学医学部附属病院輸血部

     慢性ITP患者と健常人の血小板機能をFlow cytometryを用いた血小板凝集能検査により解析して、慢性ITP血小板は健常人血小板と比べ、同一サイズの血小板を評価した場合、アゴニスト、特にADPに対する反応性が低下している可能性があるが、血小板サイズが増大することにより、低反応性がある程度補填され、総合的な血小板凝集塊の形成能は健常人と同等もしくは亢進していることが推測されることを報告した。

    4. 血小板減少時の抗血小板療法/抗凝固療法のアンケート調査
    横山健次1)
    1)東海大学医学部付属八王子病院血液腫瘍内科

     血栓止血学会員を対象としてアンケート調査を行い、3/4以上の医師が血小板数5万/μl以上であれば、適応のある症例では抗血小板療法/抗凝固療法を施行すべきであると考えていること、1/5以上の医師が、血小板減少時の抗血小板療法/抗凝固療法で出血性合併症または血栓症を経験したことなどを報告した。

    2. 令和元年度の活動計画

     血小板減少患者の出血性合併症、血栓性合併症を解析する、血小板減少時の出血・血栓症リスクを評価することを目的として、様々な病態の血小板減少症患者の血小板機能をいくつかの方法で測定する、などの研究を行い、血小板減少時に抗血小板療法/抗凝固療法をどのように行うべきかを明らかにしていく。

  • 平成29年度活動報告書
    平成29年度血小板部会活動報告

    部会長 横山 健次(東海大学医学部付属八王子病院血液腫瘍内科)

    「血小板減少時の抗血小板療法、抗凝固療法のマネージメント」をテーマとして次回のSSCシンポジウムを開催すべく血栓止血学会総会、SSCシンポジウムの際に部会員が集まって会議を行った。
     昨年度に引き続いて血小板減少時の抗血小板/抗凝固療法について記載された論文、ガイドラインなどの検索を進めた。十分なエビデンスとなる論文はなかったが、Chalayerらがフランス血液学会およびフランス血栓止血研究グループの会員を対象として行った、化学療法を施行して血小板減少を来した造血器腫瘍患者に対する抗血栓療法および血小板輸血をいかに行うか、というアンケート調査の解析結果という興味深い報告があった1)。血小板部会内での議論の結果、血栓止血学会員を対象として、本論文のアンケートを参考にして作成した簡便なアンケート調査を行うことになり、現在準備を進めている。倫理委員会での承認が得られ次第、血栓止血学会のメーリングリストを用いて学会員の先生方にアンケートを添付したメールを配信させていただく予定である。順調に行けば本稿が学会誌に掲載される頃にはアンケートが会員の皆様に届いているはずなので、是非アンケート調査にご協力いただければ幸いである。
     また血液疾患では同じ血小板数であっても出血傾向の程度は疾患により、同じ疾患であっても患者間で異なり、血小板減少時の抗血小板/抗凝固療法について検討するためには血小板減少時の血小板機能も考慮する必要がある。一般に行われている血小板機能検査は血小板数10万ないしそれ以上の被験者を対象とするものであり、血小板減少患者でも行いうる血小板機能測定法は確立されていない。血小板減少時の血小板機能を評価する、活性化血小板を検出する、などを目的とした研究を進めて行く予定である。
    来年開催される第13回SSCシンポジウムでは以上の研究報告に加えて血小板減少性紫斑病患者の出血症状と血小板数の関連に関する発表を行う予定である。

    1. Chalayer E, Cavalieri D, Martignoles JA, Genthon A, Tavernier E, Tardy B. Antithrombotic therapy and platelet transfusions in hematologic malignancy patients presenting chemotherapy-induced thrombocytopenia: a French survey. Transfusion 57: 1717-1723, 2017.

  • 平成28年度活動報告書
    1. 「血小板減少時の抗血小板療法・抗凝固療法のマネージメント」

    部会長 横山 健次 (東海大学医学部付属八王子病院血液腫瘍内科)

     血小板部会では「血小板減少時の抗血小板療法・抗凝固療法のマネージメント」をテーマに取り上げてシンポジウムを開催した。抗血小板薬・抗凝固薬は血栓症の治療、再発予防に重要な役割を果たしている薬剤であり、多くの人に処方されている。抗血小板薬・抗凝固薬のもっとも頻度の多い副作用は出血傾向であるが、血小板減少症患者でも血栓症治療ないし予防目的でこれらの薬剤を使用する場合がある。しかし血小板数がいくつまではこれらの薬剤を使用可能か、血小板減少時にはこれらの薬剤を減量すべきか、など血小板減少時に抗血小板療法・抗凝固療法をいかに行うべきか、コンセンサスはない。本シンポジウムでは現在までに報告されてきたこと、各発表者が発表した新規のデータに基づいて活発な討論を行なった。
     最初に大阪大学の冨山佳昭先生に「血小板減少症の病態と診断」について発表していただいた。血小板減少症の成因は、血小板の産生低下、破壊の亢進、もしくは分布異常(もしくは希釈)のいずれかに分類されること、血小板の破壊の亢進による血小板減少ではその成因により、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)のような出血性疾患と、血栓性血小板減少性紫斑病、抗リン脂質抗体症候群のような血栓性疾患が存在すること、さらにITPとそのほかの血小板減少症を鑑別するために網状血小板、トロンボポエチンの測定が有用であることなどを報告した。その上で血小板減少時の抗血小板療法・抗凝固療法を論じる場合、血小板減少の病態や成因を常に念頭に置く必要があることを提言した。
     続いて愛媛大学の羽藤高明先生に「血小板減少と出血傾向」について発表していただいた。再生不良性患者を対象とした研究、および最近の大規模臨床研究から血小板数が5000/μl未満に低下すると出血の頻度が有意に増加すること、マウスの実験でも血小板数が正常の2.5%(ヒトでは5000/μlに相当)まで低下すると止血不能になることを紹介した。さらに感染、炎症などでは好中球が血管外に遊走することにより出血を増強することを示した。また血栓症を合併したITP症例を提示して、抗血栓療法を必要とする血小板減少患者の治療方針を確立することの重要性を提言した。
     3番目に循環器内科の立場から小倉記念病院の安藤献児先生に「冠動脈インターベンションに関する血小板・抗血小板剤に関して」を発表していただいた。冠動脈インターベンション(PCI)後のステント血栓症予防のためにはアスピリンとチエノピリジン系の2剤抗血小板剤(DAPT)投与が標準治療となっているが、DAPT療法施行患者では1年以内に出血性消化性潰瘍などの出血イベントを起こすことが少なくないこと、自施設での検討の結果消化管出血を起こして入院した症例の10%は死亡退院したことを報告した。また血小板低値のPCI施行患者では入院中の死亡率が高くなると報告されていることを紹介して、血小板数とPCI、DAPT、および予後につき考察した。
     4番目に神経内科の立場から九州大学の脇坂義信先生に「血小板低値と脳梗塞後の重篤な出血性合併症また短期・長期予後との関連:Fukuoka Stroke Registry」を発表していただいた。多施設共同前向き登録研究であるFukuoka Stroke Registry (FSR) のデータを用いて脳梗塞患者の血小板数と予後の関連について検討した結果、血小板低値群(血小板数100,000/μl未満)は非低値群と比較して入院中に重篤出血や入院経過不良となる頻度が有意に高かったが、抗血栓療法の有無など交絡因子を調整すると、血小板低値は重篤出血や入院中経過不良と有意に関連しなかったこと、一方死亡退院例を除外して血小板低値と脳梗塞発症1年後までの複合イベント(全死亡、脳卒中、虚血性心疾患)発症の関連を検討した結果では、血小板低値群は非低値群と比較して複合イベント発症頻度が有意に高値であり交絡因子調整後も血小板低値は複合イベント発症と有意に関連していたことを報告した。その結果血小板低値は抗血栓療法の有無に関わらずに重篤出血や入院経過不良に影響しないが長期予後に影響を及ぼす可能性が示唆された。
     最後に血液内科の立場から横山が「造血器腫瘍患者に対する抗血小板および抗凝固療法」について発表した。自施設でのびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)患者、および多発性骨髄腫(MM)患者を対象として後方視的解析を行い、DLBCL患者では抗血小板薬・抗凝固薬投与群で非投与患者と有意に多く出血性合併症がみられたがMM患者では両群で差がなかったこと、DLBCL患者の治療経過中の血小板最低値と出血性合併症の発症に関連はなかったことを報告した。
     今回のSSCを通して血小板減少時の抗血小板療法・抗凝固療法には多くの課題があることが再認識された。今後SSC血小板部会として何らかの提言を出すことを目標に活動を行なっていく予定である。

  • 平成27年度活動報告書
    1. 今年度の活動報告

    a) SSCシンポジウムの内容
    平成24年度に「抗血小板薬モニター検査の現状と課題」、平成26年度に「抗血小板薬の分子標的とそのリスクベネフィット」でシンポジウムを開催してきた。血小板部会では2年に一度のシンポジウムを企画しており、今年度は部会主催のシンポジウムを開催しなかったが、来年度は開催の予定である。

    b) その他の活動
    血小板凝集能検査に用いられているADP試薬の試薬間較差が清水委員によって検討され、その結果が本部会で報告された。日本国内で使用されているADP試薬のうち、使用頻度の高い4社の製品についてHPLCを用いて純度や不純物の同定が行われた。その結果、試薬間で純度に差があり、また同じ試薬でも溶解に用いる溶媒によって性状が異なってくるとの結果が得られた。さらに実際のADP凝集を透過光血小板凝集計で測定してみると、純度の低い試薬では凝集率が他の試薬と比べて低かった。これらの検討結果は大変興味深く、試薬間較差が血小板凝集能のばらつきの一要因とも考えられ、今後、本部会でこの問題を広く取り上げていくのか検討する。

    c) ガイドライン、診断基準、共同研究などの成果
    透過光血小板凝集検査法(light transmission aggregometry; LTA)は血小板機能解析における標準的な検査法であり、世界で最も普及した方法であるにもかかわらず、操作手順にばらつきがあり、その手技の標準化が行われていなかった。2013年に国際血栓止血学会の血小板機能標準化部会において専門家作業部会からのコンセンサスの形で、透過光血小板凝集検査法の検査手技に関する提言がなされた。これを受けて、本部会において本邦における透過光血小板凝集検査法の検査手技の標準化を目指し、上記の国際血栓止血学会の提言に関し若干の補足を加えるとともに、この提言の内容を紹介することにした。なお、この提言を啓蒙するにあたり、本部会において検討委員会を開催し、原文の内容を本邦の実情に照らして吟味したが、特に修正を加えるべき点はないとの結論になった。この内容は、「透過光血小板凝集検査法の標準化:国際血栓止血学会 血小板機能標準化部会からの提言の紹介と解説」としてまとめられ、本学会誌27巻3号に掲載される。

    2. 来年度の活動計画

    次年度は血小板部会長の交代があり、新部会長のもとで新たなプロジェクトが開始される予定である。また、SSCシンポジウムも企画される予定である。

  • 平成26年度活動報告書
    1. 血小板凝集能検査標準化推奨案の作成について

    ISTH SSCの platelet physiology subcommitteeからLTAの標準化に関する推奨案が報告された(Cattaneo M et al. J Thromb Haemost 11:1183-1189, 2013)。これを基に部会員(冨山、佐藤)が日本語版を作成した。日本語版は本邦の事情を補足した文書とするため、追記事項について部会で検討を重ねており、平成27年発行の本学会誌に投稿を予定している。

    2. 血小板凝集能検査用ADP試薬間差の検討について

    ADP試薬をHPLCで解析して試薬間差を比較する研究を部会員(清水)が行っており、部会としてより大規模で行う研究として取り上げることを検討したが、多施設での検討はばらつき要因が大きくなることと部会として特定の試薬推奨に関わることには問題もあるため、本部会としての研究活動はしないこととした。

    3. シンポジウムの開催について

    第9回SSCシンポジウム(東京、2015.2.28)において以下の発表を行った。
    テーマ「抗血小板薬の分子標的とそのリスクベネフィット」

    ①オーバービュー(堀内)

    ②cyclo-oxygenase阻害薬(松原)

    ③P2Y12阻害薬(西川)

    ④PDE3阻害薬(山之内、佐藤)

    ⑤GPIIb-IIIa阻害薬(冨山)

    ⑥PAR-1阻害薬(山崎、田村、清水)

    4. 今後の活動方針について

    血小板関連検査の現状と課題、血栓症の診療現場からみた抗血小板療法の有用性と課題、血小板減少症などをテーマに活動することが検討されてきたが、結論はまだ出ていない状況にある。

  • 平成25年度活動報告書
    1. 血小板凝集能検査標準化案の作成
    ISTH SSCの platelet physiology subcommitteeから世界で最も普及している光透過性血小板凝集能検査の標準化に関する推奨案が出された(Cattaneo M et al. J Thromb Haemost 11:1183-1189, 2013) 。これを基に本血小板部会から日本語版を出版することして準備を進めている。日本語版は本邦の事情を補足した啓蒙的文書として本学会誌に投稿する予定である。
    2. 血小板凝集能検査用 ADP 試薬間の検討
    各施設にADP試薬を配布して検討してもらう計画をしている。また、ADP試薬をHPLCで解析して試薬間差を検討する試みも部会員が行っている。
    3. 部会の開催
    平成26年1月25日 東京国際フォーラム
    第9回SSCシンポジウムの企画について話し合いが行われた。その結果、血小板部会シンポジウムのテーマと発表内容について討論し、以下のように決定した。
    テーマ「抗血小板薬の分子標的とそのリスクベネフィット」

    1)オーバービュー
    2)cyclo-oxygenase 阻害薬
    3)P2Y12 阻害薬
    4)PDE3 阻害薬
    5)GPIIb-IIIa 阻害薬
    6)PAR-1 阻害薬
  • 平成24年度活動報告書
    2013年3月13日
    報告者:羽藤高明

    1.組織
    委員長:羽藤高明(村田満から交代)、副委員長:佐藤金夫、冨山佳昭
    委員:尾崎由基男、清水美衣、田村典子、西川政勝、野村昌作、堀内久徳、松原由美子、矢冨裕、山崎昌子

    2.活動内容

    1) 血小板部会会議(2012年3月10日、東京)
    出席者:尾崎、佐藤、清水、田村、西川、野村、羽藤、堀内、松原、山崎
    (1)今年度の活動テーマ
    「抗血小板薬モニター検査」についての課題を検討し、標準化に向けた取り組みを行うこととした。
    (2)具体的活動方針
    a. 血小板凝集計に用いるADP試薬の標準化
    これまでの血小板部会の活動において血小板凝集計の実施状況に関するアンケート調査が行われ、様々な過程で測定条件が異なっている実態が明らかになった。そこで、チエノピリジン系抗血小板薬の効果判定に用いられている3種類のADP試薬について同一条件下で測定をしたところ、有意な試薬間差が確認された。そこで、ADP試薬の標準化を図ることを目指して検討を進めることとした。
    b. 血小板凝集能検査実施ガイドラインの作成
    ISTHの SSC on platelet physiologyにおいて透過光血小板凝集検査の標準化が検討されており、世界規模でのアンケート調査をもとに検査ガイドラインが作成されることになっている。そこで現在の状況を確認し、国際ガイドラインが発表されればいち早く本学会会員へ啓蒙活動を行い、さらにそれを参考にして日本のガイドラインを作成することとした。2012年3月15日にISTH SSCのMarco Cattaneo からガイドラインの原稿作成中との連絡あり。
    c. VerifyNow血小板機能測定機器の早期導入要望
    VerifyNowは世界的に普及している機器であるが、本機器は本邦では医療用機器として認可されていない。そのため、その早期認可を要望すべきかどうかについて議論された。討議内容は意見書としてまとめ、本学会理事会へ提出した。
    2)血小板部会活動に関する総説(2012年8月)
    羽藤高明:抗血小板薬モニター検査の臨床的異議 日本血栓止血学会誌 23:352-357, 2012.
    3) 第7回SSCシンポジウム(2013年1月12日、東京)
    「抗血小板薬モニター検査の現状と課題」のテーマで、6演題を発表。
  • 血小板凝集能検査実施状況のアンケート調査結果
    血小板凝集能検査は血小板無力症、ベルナール・スーリエ症候群などの血小板機能低下症の診断に有用な検査法です.また、心筋梗塞・脳梗塞などの動脈血栓性疾患の病態把握のために血小板凝集能検査を実施している施設が増えてきています(血小板機能亢進の検索).さらに、動脈血栓症の二次予防に使用されている抗血小板薬の薬効判定に血小板凝集能検査を利用している施設もあります.しかし、血小板凝集能検査の測定条件は施設によって異なっており、そのために、各施設で得られたデータを比較検討することは容易ではなく、正常値の設定も困難でありました.そこで、日本血栓止血学会 学術標準化委員会の血小板部会では血小板凝集能検査の標準化を進めるにあたり、本検査の実施状況を調査することにしました.
    2009年6月に協力企業の顧客リストをもとにアンケート用紙を送付し、2010年2月までに250施設から回答を得ました.ここにアンケートの集計結果を公開いたします.
    最後になりましたが、ご多忙中にも関わらずアンケートに回答いただきました施設の先生方に御礼申し上げますとともに、アンケートの送付・回収に協力いただいたアイエムアイ株式会社、株式会社エルエムエス、興和株式会社、アイエスケー株式会社、フィンガルリンク株式会社(順不同)に感謝申し上げます.

    日本血栓止血学会 学術標準化委員会 血小板部会

     


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