急性期DIC研究の再活性化を推進するための委員会

1. 急性期DIC研究の再活性化を推進するための委員会について

 敗血症や重症外傷といった急性期疾患では高頻度でDICを合併するため、DICの適切な対処は診療の基軸の一つとして捉えられてきました。一方で、近年は海外からの大規模RCTでDIC治療薬(アンチトロンビンやトロンボモジュリン製剤)が否定されたことを受け、わが国においても医療現場で急性期領域のDIC診療に関する注目が失われつつあります。特に学術領域においてその傾向は顕著であり、上級演題でDICがテーマとして取り上げられることがこの10年で激減いたしました。
 診療の質の底上げには学術推進が必須であり、本領域への若手研究者の新規参入が欠かせません。日本血栓止血学会では表記の委員会を設立し、急性期DIC研究の再活性化に向けた活動を開始いたしました。

【図1】PubMedによるMesh検索のヒット件数の経時的推移

2. 臨床研究推進ハンズオンセミナー・ICEワークショップ

~臨床研究のイロハから統計解析、論文執筆まで~

「臨床研究をして論文を書きたいけど何をどうしてよいかわからない」
「論文を書いてみたけどやっていることが正しいのか自信が持てない」
 そんな若手学会員を対象に、臨床研究の基礎から解析テーマの決定、実際の統計解析および論文執筆まで、2泊3日の合宿形式のハンズオンセミナーで一連の臨床研究の流れを疑似体験していただきます。講師はNEJMやJAMAなど数々の業績をお持ちの森本剛先生(兵庫医科大学臨床疫学教授)と、特定非営利活動法人臨床疫学研究所(ICE; Institute for Clinical Effectiveness)の方々です。
 本セミナーの受講生の方々には、ご希望に応じて本委員会委員がアフターフォローを行います。後述のLOCOMOCO projectやBENEDICT databaseにご参画いただくことで、実際の臨床データを使った臨床研究を実行いただきます。専属委員がお手伝いし、論文アクセプトまで責任をもって伴走いたします。
臨床研究推進ハンズオンセミナーご案内
臨床研究推進ハンズオンセミナー 開催報告と今後の予定
第1回臨床研究推進ハンズオンセミナー開催報告(2023年11月9日~11日)

3. LOCOMOCO project:学会全体でレセプトデータ解析に取り組む計画

 DIC研究を始めようと考えた時、最初に立ちはだかる壁が解析材料(どのデータを使って解析するか)となります。これまでは自施設のカルテレビューを行い論文執筆をすることが一般的でしたが、必ずしもすべての医療施設に十分な症例データが蓄積されているとも限りません。一方、近年は大規模データセットにアクセスしやすい環境が整ってきました。
 本委員会では、LOCOMOCO(Landmark Of Clinical Observations in MicrOcirculation and Coagulation Outcomes)事業と命名し、学会全体で広く会員が使える臨床データを準備しています。匿名化処理を施されたレセプトデータなどを用いることで、学会員であればだれでも解析を始めることができます。大規模データ特有の特殊な扱い方については、専属委員が手取り足取りお手伝いいたします。
LOCOMOCO projectによる論文業績一覧

4. BENEDICT database:全国多施設による自動収集型網羅的ベッドサイド臨床データ収集システムの構築

 既存のレセプトデータやDPCデータを使った解析には多くの限界が指摘されています。データの粒度が荒い、重症度スコアやバイタルサインなどが得られない、詳細な時系列が不明、など解決したい臨床課題によっては致命的となる限界が多く存在します。我々は10年後を見据え、それらを解決しうる本邦初の重症急性期治療に特化した大規模データベース構築に向けた取り組みを始めました。BENEDICT(BEst National Estate for Disseminated Intravascular Coagulation Thesis)データベースと名付けました。
 臨床研究の促進、医療の質の評価と改善、機械学習/AI研究における開発材料、などに幅広く利用されることを目的とし、本委員会ではBENEDICTデータベースを開発いたします。委員会に留まらない幅広い医学研究者に対して、重症急性期治療に関する詳細なベッドサイドデータを提供します。患者の予後改善や医療品質の向上、新たな医療技術の開発などに貢献したいと考えています。
BENEDICT database構築の進捗状況

【図2】BENEDICT databaseの概略

5. 日本血栓止血学会急性期DIC研究推進助成事業

 急性期領域のDIC学における基礎的・臨床的な研究を発展させることを目的として、論文投稿に必要な経費などを支援するための助成事業を準備しています。DIC学における基礎的・臨床的研究を対象とし、1件当たり30 万円を支給します。応募資格は、日本血栓止血学会会員であること、満40歳以下であること、投稿前段階の執筆完了した英文原著論文があること、などです。
 本助成の受賞要件として、翌年度の日本血栓止血学会総会での発表が求められます。
日本血栓止血学会急性期DIC研究推進助成事業応募のご案内
日本血栓止血学会急性期DIC研究推進助成事業 過去の採択者一覧

6. DIC研究に興味をお持ちの全ての研究者の方々へ

 DIC研究はわが国が誇るお家芸です。常に世界をリードしてきました。
本委員会では、研究経験が豊富な方のみならず、これから研究を始めてみようという世代に向けた手厚い支援を心がけています。
①ハンズオンセミナーで臨床研究のイロハを学んでいただきます
②手を動かして解析する際の材料はLOCOMOCO事業で提供します
③論文投稿に際し問題となりえる財政的な壁を助成事業で取り除きます
④将来のブレイクスルー研究の材料をBENEDICTデータベースから提供します
 委員会メンバー一丸となって「DIC大国ニッポン」の復権に向けた取り組みを行っていきます。ご興味がある先生からのご連絡をお待ちしています。ご連絡はお気軽に以下までお願いします。

急性期DIC研究の再活性化を推進するための委員会
 委員長 山川一馬(大阪医科薬科大学)
 連絡先 kazuma.yamakawa@ompu.ac.jp

 


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