抗リン脂質抗体部会

部会長: 奥 健志
副部会長: 野島順三 藤枝雄一郎
部会員: 渥美達也 家子正裕 上野祐司 金子 誠 金重里沙 北折珠央 熊野 穣 徳永尚樹 
内藤澄悦 長屋聡美 松田将門 松林秀彦 森下英理子 本木由香里
保田晋助 安本篤史 山﨑 哲 山田秀人 吉田美香
詳細情報

  • 令和4年度活動報告書

    抗リン脂質抗体部会
    部会長 野島 順三(山口大学大学院医学系研究科 生体情報検査学)
     

    1.令和4年度の活動報告

    a) 第17回SSC シンポジウム
    抗リン脂質抗体部会では, LA活性検査の標準化および測定意義の検討を行っているLA部門,solid-phase assayで検出する各種抗リン脂質抗体検査の標準化および臨床的有用性を検討しているSPA部門,そしてAPSの診断および治療の標準化を推進しているAPS部門の主に3部門に分かれて活動している。
    令和4年度のSSCシンポジウムでは,「抗リン脂質抗体検査の現状と課題」というテーマで,まずLA部門から「LA検査における検査前処理の再評価とDOAC投与患者検体への対応」と題して,聖マリアンナ医科大学病院・臨床検査部の山﨑哲先生が,LA検査に用いる検体処理条件の再評価に基づき,採血管の容量を考慮した処理条件の選択について示した。また,DOAC投与患者検体におけるLA測定に対する影響と,海外で市販されているDOACの吸着剤を用いた回避策としての利用可能性について発表した。次にSPA部門から「日本における新規抗リン脂質抗体価測定試薬の有用性の検討」と題して,山口大学大学院医学系研究科・生体情報検査学の本木由香里先生が,新たに開発された自動分析装置搭載抗リン脂質抗体価測定試薬であるBioRad 社のBioPlex APLSについて,健常人血漿208例(男:女=104:104、平均年齢42.6歳)の血清を用いて適切なカットオフ値の設定を行うと共に,APS患者血漿110例の血清の測定値にて,既存の自動分析装置搭載試薬(MBL社・INOVA社・Thermo Fisher社)との抗体価及び判定一致率など,BioPlex APLS臨床的有用性について概説した。最後にAPS部門より「SARS-COV2mRNAワクチン接種後の抗リン脂質抗体価の変動」と題して,北海道大学大学院医学院・医学研究院・免疫・代謝内科学教室の藤枝雄一郎先生に,新型コロナワクチンによってaPS/PT IgG陽性例ではmRNAワクチン接種後に抗体価上昇を認めることがあり,aPS/PT陽性APS患者においてワクチン接種後の血栓症に留意する必要がある報告を頂いた.また今回のシンポジウムでは,特別講演として藤枝雄一郎先生に,ホスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体の「これまで」と「これから」というテーマで,ご講演頂いた。

    b) ガイドライン・診断基準・共同研究などの成果
    LA 部門:LA検査の検査前処理条件は,国際血栓止血学会のガイドラインに基づく2回遠心法に加え,日本検査血液学会の「凝固検査検体取扱いに関するコンセンサス」に基づいて残存血小板数の基準が満たされれば1回遠心法を許容する方向としてきたが,改めて1回遠心法の妥当性について採血管容量を考慮した検討を実施した。また,抗凝固療法中の患者検体の取り扱いについて,特にDOAC投与患者検体では国際血栓止血学会のガイダンスではDOAC投与中患者でのLA検査の実施は推奨しないとされていることを受け,LA検査に対する影響を再評価し,さらにDOAC吸着剤の利用可能性について検討を実施した。
     
    SPA部門:自動分析装置搭載抗リン脂質抗体価測定試薬(MBL社・INOVA社・Thermo Fisher社)に,新たにBioRad 社のBioPlex APLSを加え,適切なカットオフ値の設定,抗体価及び判定一致率など,Automated assay を主流としたAPS検査診断標準化について提案した。
     
    APS部門:我が国におけるAPSの疫学・実臨床の基礎データを構築する目的で,平成29年度より疾患レジストリをEDC (electric data capture)システムで構築し,Japan Registry of Antiphospholipid Syndrome(J-RAPS)と名付けた.事務局は北海道大学病院リウマチ腎臓内科におき,血漿検体バイオバンクと連動させて検体の収集を行っている.抗リン脂質抗体標準化ワークショップ(APS-WS)(http://aps-ws.com)とも連携し,312検体を超えて収集が進んでいる.また新型コロナワクチンによる抗リン脂質抗体価の変動について調査し,今後の安全性について検討した。
    現在,各部門の研究成果を基に「抗リン脂質抗体検査の実践と解釈の手引き」を作成中である。

    2.令和5年度の活動計画

    LA部門:実臨床に即した日本におけるLA検査の標準化推奨案の作成を推進すると共に,APS患者血漿を用いた臨床的カットオフ値設定の可能性について検討を進める。
     

    SPA部門:近年,新たなAPS国際分類基準として,抗カルジオリピン抗体ならびに抗β2グリコプロテインⅠ抗体の抗体価について40~79Uを中力価,80U以上を高力価としてスコア化し,LA活性と合わせた検査所見スコアと臨床所見スコアによってAPSの診断を行うことが提唱されている。そこで,国際標準単位1GPLを1U/mlと設定してあるELISAキットの測定値を基に各種自動分析装置搭載試薬における測定値の”harmonized standard”を実施する。
     

    APS部門では,レジストリデータの臨床データなどをもとにしてクリニカルクエスチョン,リサーチクエスチョンを,APS-WSとして,あるいはJSTH-SSCのAPS部会も一緒にその検討結果を発信していく。さらに,ホスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体の臨床的意義について臨床研究によって明らかにする。
     

  • 令和3年度活動報告書

    抗リン脂質抗体部会
    部会長 野島 順三(山口大学大学院医学系研究科・生体情報検査学)
     

    1.令和3年度の活動報告

    a) 第16回SSC シンポジウム
    抗リン脂質抗体部会では、ループスアンチコアグラント(LA)活性検査の標準化および測定意義の検討を行っているLA部門、solid-phase assayで検出する各種抗リン脂質抗体検査の標準化および臨床的有用性を検討しているSPA部門、そしてAPSの診断および治療の標準化を推進しているAPS部門の主に3部門に分かれて活動している。令和3年度のSSCシンポジウムでは、まずLA部門は「ループスアンチコアグラント(LA)測定の問題点と今後の予定」と題して、北海道医療大学病院臨床検査部の内藤澄悦先生に国内の検査室の実情に即したLA測定に関する標準化案について様々なコンセンサスやガイドラインを参考にご発表いただいた。次にSPA部門から「抗リン脂質抗体測定法のカットオフ値の設定と臨床的有用性の検証」と題して、山口大学大学院医学系研究科・生体情報検査学の金重里沙先生に、現在国内で使用されていManual assayとAutomated assayによる抗リン脂質抗体検査について、適切なカットオフ値の設定、抗体価及び判定一致率などAPS検査診断標準化についてご発表いただいた。最後に、APS部門より「抗リン脂質抗体症候群患者における新型コロナワクチン投与後の抗リン脂質抗体価の変動に関する検討」と題して、北海道大学大学院医学院・医学研究院・免疫・代謝内科学教室の藤枝雄一郎先生に、新型コロナワクチンによって抗リン脂質抗体が新規に陽性になる症例は少数であり、血栓症の発症は認めなかったとの報告を頂いた。

    b) ガイドライン・診断基準・共同研究などの成果
    LA部門:dRVVTとAPTTを原理とするLA検査キットを対象に共通の健常人カットオフ値設定、ミキシングテストに使用する正常血漿の選択、抗PS/PTのモノクローナル抗体または市販のLA陽性コントロールを使用した測定試薬間のハーモナイゼーションの可能性、加えて直接経口抗凝固薬(DOACs)の測定に与える影響等について、日本国内におけるLA検査のガイドライン作成のための標準化案を提案した。
    SPA部門:2社のELISA kit【manual assay】(MBL社・INOVA社)及び3社の自動分析装置搭載試薬【automated assay】(MBL社・INOVA社・サーモフィッシャーダイアグノスティクス社)にて健常人血清の抗リン脂質抗体価を測定し、共通の統計学的手法にて各種アッセイの99/97.5パーセンタイル値を設定した。さらに、APS 50例とnon APS 50例の抗体価を測定し、ROC曲線にて感度=特異度となる値並びに診断能(AUC)を算出するとともに、アッセイ間での抗体価の相関を検討した。その結果、99よりも97.5パーセンタイル値の方がROC曲線から求めたカットオフ値に近く、97.5パーセンタイル値を用いることでAPS/non APS群における抗体陽性率が増加したが、アッセイ間での判定一致率はやや低下した。しかしながら一致率が極端に増減したアッセイはなく、特にautomated assay間での一致率には影響がなかった。また、manual assay/automated assay間での抗体価の相関は概ね良好で、同等のAPS診断能を示したことから、2-4種類の抗体を同時に測定できるautomated assayは抗リン脂質抗体検査の標準化および普及に極めて有用であることが示された。
    APS部門: 我が国におけるAPSの疫学・実臨床の基礎データを構築する目的で、平成29年度より、疾患レジストリをEDC (electric data capture)システムで構築し、Japan Registry of Antiphospholipid Syndrome(J-RAPS)と名付けた。事務局は北海道大学病院リウマチ腎臓内科におき、血漿検体バイオバンクと連動させて検体の収集を行っている。抗リン脂質抗体標準化ワークショップ(APS-WS)(http://aps-ws.com)とも連携し、検体・患者情報の収集を行ってきた。当初は難渋したものの、現在では当初の目標であった230検体を超えて収集が進んでいる。厚生労働省科学研究費補助金・難治性疾患等政策研究事業難治性血管炎に関する調査研究班(班長 針谷正祥)においてAPS診療の手引きを作成し(作成班長渥美達也 事務局長奥健志)「血管炎症候群の治療の手引き2020」)、リウマチ学会、血栓止血学会にも承認を得る形で発行した。

    2.令和4年度の活動計画

    LAグループでは、実勢に即した日本におけるLA検査の標準化推奨案及び検査フローチャート(案)の作成を推進する。SPAグループでは、自動分析装置を中心に抗リン脂質抗体検査の標準化を推進し、欧米における標準化の状況を踏まえ、日本における抗リン脂質抗体検査ガイドラインを作成する。APS部門では、レジストリデータの臨床データなどをもとにしてクリニカルクエスチョン、リサーチクエスチョンを、APS-WSとして、あるいはJSTH-SSCのAPS部会も一緒にその検討結果を発信していく。APS患者における新型コロナワクチンの安全性および抗リン脂質抗体のプロファイル変化に関する検討を行う。
     

  • 令和2年度活動報告書

    抗リン脂質抗体部会 部会長 野島 順三(山口大学大学院医学系研究科 生体情報検査学)
     

    1.令和2年度の活動報告

    a) 第15回SSC シンポジウム
    抗リン脂質抗体部会では、ループスアンチコアグラント(LA)活性検査の標準化および測定意義の検討を行っているLA部門、solid-phase assayで検出する各種抗リン脂質抗体検査の標準化および臨床的有用性の検討を検討しているSPA部門、そしてAPSの診断および治療の標準化を推進しているAPS部門の主に3部門に分かれて活動している。令和2年度のSSCシンポジウムでは、まずLA部門は「ループスアンチコアグラント検査の標準化に向けて2020年度の総括」と題して、聖マリアンナ大学病院臨床検査部の山﨑哲先生に国内の検査室の実情に即したLA測定に関する標準化案について様々なコンセンサスやガイドラインを参考にご発表いただいた。次にSPA部門から「自動分析装置による抗リン脂質抗体検査の標準化 -3社の自動分析装置による抗体価および陽性率の比較-」と題して、山口大学大学院医学系研究科・生体情報検査学の本木由香里先生に、現在国内で市販されている3社の自動分析装置による抗リン脂質抗体検査の臨床的有用性についてご発表いただいた。最後に、APS部門より「抗リン脂質抗体症候群におけるクラスター分析を用いた長期予後の解析」と題して、北海道大学大学院医学院・医学研究院・免疫・代謝内科学教室の尾形裕介先生に、APSはheterogenousな病態であり、クラスター分類により従来の予後不良因子を組み合わせた層別化解析を行うことにより、より確実な治療や予後判定が可能となる画期的な報告を頂いた。

     

    b) ガイドライン、診断基準、共同研究などの成果
    LA部門:dRVVTとAPTTを原理とするLA検査キットを対象に共通の健常人カットオフ値設定、ミキシングテストに使用する正常血漿の選択、抗PS/PTのモノクローナル抗体または市販のLA陽性コントロールを使用した測定試薬間のハーモナイゼーションの可能性、加えて直接経口抗凝固薬(DOACs)の測定に与える影響等について、日本国内におけるLA検査のガイドライン作成のための標準化案を提案した。
    SPA部門:日本国内の市販ELISA 10キットおよび3社(MBL社、アイ・エル・ジャパン社、サーモフィッシャーダイアグノスティクス社)の自動分析装置に搭載する抗リン脂質抗体測定試薬について、日本における健常人基準値を設定すると共に、自動分析装置とELISAキット間における抗体価相関および陽性・陰性判定一致率を検討した。その結果、自動分析装置を用いることにより、APS国際分類基準に採択されてるaCL(IgG/IgM)およびaβ2GPⅠ(IgG/IgM)の4項目が同時に測定でき、全ての抗体で同時および日差再現性に優れており、抗体価の施設間差も殆ど認められないことを確認した。さらに従来の市販ELISAキットとも良好な相関も示されており、抗リン脂質抗体検査の標準化として非常に有用なツールである事が示された。
    APS部門: 我が国におけるAPSの疫学・実臨床の基礎データを構築する目的で、平成29年度より、疾患レジストリをEDC (electric data capture)システムで構築し、Japan Registry of Antiphospholipid Syndrome(J-RAPS)と名付けた。事務局は北海道大学病院内科IIにおき、血漿検体バイオバンクと連動させて検体の収集を行っている。抗リン脂質抗体標準化ワークショップ(APS-WS)(http://aps-ws.com)とも連携し、検体・患者情報の収集を行ってきた。当初は難渋したものの、現在では当初の目標であった150検体を超えて収集が進んでいる。APS予後不良群の特徴を明らかにする研究として、階層型クラスター分析を用い観察期間内におけるイベント(血栓症の再発, 重篤な出血,死亡)の有無について後ろ向きに検討を行った(Ogata Y et al. Rheumatology 2021)。当科APS患者のうち, 2年以上観察可能であった168例の患者を対象とし階層型クラスター分析を行ったところ、患者は、全身性エリテマトーデスに合併するAPS、抗リン脂質抗体がTriple positiveであるAPS、複数の心血管リスクを持つAPSの3群に分類された。複数の心血管リスクを持つAPSがイベント発生率や死亡率が高いことが明らかとなった。クラスター分析により従来の予後不良因子を組み合わせた層別化解析が可能となった。厚生労働省科学研究費補助金・難治性疾患等政策研究事業難治性血管炎に関する調査研究班(班長 針谷正祥)においてAPS診療の手引きを作成した(作成班長渥美達也 事務局長奥健志)「血管炎症候群の治療の手引き2020」として他の疾患と共に指針をまとめている。

     

    2.令和3年度の活動計画

    LAグループでは、実勢に即した日本におけるLA検査の標準化推奨案及び検査フローチャート(案)の作成を推進する。SPAグループでは、自動分析装置を中心に抗リン脂質抗体検査の標準化を推進し、欧米における標準化の状況を踏まえ、日本における抗リン脂質抗体検査ガイドラインを作成する。APS部門では、レジストリデータの臨床データなどをもとにしてクリニカルクエスチョン、リサーチクエスチョンを、APS-WSとして、あるいはJSTH-SSCのAPS部会も一緒にその検討結果を発信していくことを考えている。APS診療の手引きに関しては今後JSTH-SSCの部会での承認を得たのち、リウマチ学会、血栓止血学会にも承認を得る形で発行される予定である。
     

  • 令和元年度活動報告書

    抗リン脂質抗体部会 前部会長 保田晋助(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 膠原病・リウマチ内科学分野)
     
    抗リン脂質抗体 (aPL) 部会では、aPL測定法の標準化がかなりの所まで進捗してきており、特に自動測定装置を用いたaPL測定の有用性が示されてきました。その結果を実臨床に生かすべく、抗リン脂質抗体プロファイルと臨床像の関連、治療薬毎の血栓症再発予防成績も、一部明らかになってきています。当部会では部会長であった北海道大学 保田晋助が4年の任期を終了、後任を山口大学 野島順三が引き継ぎ、ループスアンチコアグラント(LA)部門, SPA (solid phase assay)部門, APS部門の3つの小グループがaPL測定方法の標準化、最適な治療法の検討を中心に、活動を続けています。
     

    1.令和元年度の活動報告

    a)SSC シンポジウムの準備内容
    LA部門(聖マリアンナ医科大学 山﨑哲先生)では、これまで希釈ラッセル蛇毒時間検査とAPTTを原理とするLA検査の標準化に向けた検討を主に健常人検体を対象に実施し、共通のカットオフ値設定の可能性や抗PS/PTのモノクローナル抗体または市販のLA陽性コントロールを使用した測定試薬間のハーモナイゼーションの可能性などについて報告してきた。今回は、ISTHのSSCで取り上げられたアンケート調査の結果を踏まえながら、検査前の検体の処理方法として日本検査血液学会より示された凝固検査用検体取扱いに関するコンセンサスや、海外のガイドラインを参考にした検査の進め方など、日本におけるLA検査の標準化に向けた取りまとめについての方向性をディスカッションする予定であった。
    SPA (solid-phase assay) 部門(金沢大学 關谷暁子先生)は、APS診断基準に採用されている抗カルジオリピン抗体(aCL)および抗β2-グリコプロテインI抗体(aβ2GPI)について、各種キットおよび自動分析装置を用いた試薬による測定値の健常人基準値設定や施設間差を検討してきた。中でも自動分析装置による抗体価測定は再現性が良く、施設間差もほとんど認めないことからAPS診断に有用性が高いことを確認した。今回、健常人、APS患者、SLEを含む膠原病患者を対象に、MBL, ILジャパン, サーモフィッシャー社試薬を用いて自動分析装置で測定し、比較検討した。
    APS部門(北海道大学 奥健志先生)からは、診療の均てん化を目的とした診療ガイドラインの作製について、現状報告を行う予定であった。まず欧米ではヨーロッパリウマチ学会(EULAR)が、2019年にAPSガイドラインを作成した。また、我が国では、厚生労働省研究調査班が中心となって2020年の公表を目処にガイドライン作成が進められている。

     

    b)研究成果
    ループスアンチコアグラント(LA)部門:
     LAグループでは、これまで、希釈ラッセル蛇毒時間としてLAテスト「グラディポア」(MBL社)、ヒーモスアイエルdRVVT(アイ・エル・ジャパン社)およびコアグピアLA(積水メディカル社)の3試薬と、APTT系LA測定としてヒーモスアイエルSCT(アイ・エル・ジャパン社)を対象に健常人カットオフ値の設定を実施し、統一したカットオフ値の設定の可能性を示してきた。これらの検討結果に加え、2019年のISTH/SSCで取り上げられたアンケート調査の結果を踏まえて海外のガイドラインとの整合性を考慮し、また、検体の取り扱いについては、日本検査血液学会の凝固検査用検体取扱いに関するコンセンサスを基にして、日本におけるLA検査の標準化推奨案とLA測定フローの策定を試みた。今後、DOACなど抗凝固療法中の検査対応などを含め患者検体による評価を実施し、LA検査標準化案のとりまとめを進める。
    Solid Phase Assay (SPA) 部門:
     SPAグループでは、3社の自動分析装置および専用試薬(①サーモフィッシャーダイアグノスティックス、ファディア100,aCL-IgG・aCL-IgM・aβ2GPI-IgG・aβ2GPI-IgM.②アイ・エル・ジャパン社,ACL AcuStar®,aCL-IgG・aCL-IgM・aβ2GPI-IgG・aβ2GPI-IgM.③医学生物学研究所(MBL)、STACIA,aβ2GPI-IgG・aβ2GPI-IgM)を用いて、健常人基準範囲を設定するとともに、各種患者血漿100例(APS 20例、SLE合併APS 30例、SLE 10例およびSLE以外の膠原病 40例)および健常人血漿30例を対象に、臨床的有用性について多施設共同研究で実施した。その結果、自動分析装置を用いることにより、APS国際分類基準の定量的抗体検査であるaCL(IgG/IgM)およびaβ2GPⅠ(IgG/IgM)の4項目が同時に測定でき、全ての抗体で同時再現性および日差再現性に優れており、抗体価の施設間差も殆ど認められないことを確認した。さらに従来のELISAキットとも良好な相関も示されており、抗リン脂質抗体検査の標準化として非常に有用なツールである事が示された.
    APS部門:
     我が国におけるAPSの疫学・実臨床の基礎データを構築する目的で、平成29年度より、疾患レジストリをEDC (electric data capture)システムで構築し、Japan Registry of Antiphospholipid Syndrome(J-RAPS)と名付けた。事務局は北海道大学病院内科IIにおき、血漿検体バイオバンクと連動させて検体の収集を行っている。抗リン脂質抗体標準化ワークショップ(APS-WS)(http://aps-ws.com)とも連携し、検体・患者情報の収集を行ってきた。当初は難渋したものの、現在では当初の目標であった150検体を超えて収集が進んでいる。
     APSの治療に関する後ろ向き解析として、動脈血栓症を来したAPS患者に対する二次予防としてワルファリン, 抗血小板剤, 両者の併用およびDAPT (Dual Anti-Platelet Therapy) 治療の有効性を比較検討した。結果、DAPT群で最も動脈血栓の再発が少なく、安全性の面では4群間で有意差は認めなかった (Ohnishi N et al. Lupus 2019)。当科APS患者のうち10例がDOACを使用しており、同一患者におけるワーファリン使用期間とDOAC使用期間を比較したところ、有意にDOAC使用期間における血栓・出血イベントが多かった。患者背景を調整したワーファリン内服群と比較した際にもDOAC群で有意にイベントが多かった (Sato T et al. Lupus 2019)。海外におけるハイリスク(triple-positive) APS 患者に対するリバロキサバンによる治療研究はリバロキサバン群における有害事象の多発により中止となったが、本邦での実臨床においてもDOAC治療がAPS症例に適さないこと示唆された。
    APS診療ガイドラインに関しては、日本血栓止血学会の承認も経て、厚生労働省血管炎研究調査班が中心となってガイドライン作成が進められている。実際の作業はaPL部会構成員でもある北海道大学渥美達也・奥健志らが中心となり、鋭意進行中である。

     

    2.令和2年度の活動計画

    LAグループでは、昨年度提示する予定としていたLA検査の標準化推奨(案)及び検査フロー(案)と、海外での標準化の状況を踏まえ、さらに、DOACなど抗凝固療法中の検査対応などを含めた患者検体による検証、評価を実施し、実勢に即した日本におけるLA検査の標準化案の取りまとめを進める。
    SPAグループでは、自動分析装置を中心に抗リン脂質抗体検査の標準化を推進し、欧米における標準化の状況を踏まえ、日本における抗リン脂質抗体検査ガイドラインを作成する。
    APS部門では、レジストリデータの解析を行い第一報を日本血栓止血学会総会にて発表する予定である。

  • 平成30年度活動報告書

    抗リン脂質抗体部会 部会長 保田晋助(北海道大学 免疫・代謝内科)
     
    抗リン脂質抗体部会では、測定法の標準化がかなりの所まで進捗してきており、抗リン脂質抗体の標準化を実臨床に生かすべく、抗リン脂質抗体プロファイルと臨床像の関連を見出し、最適の治療法を明らかにしてゆきたいと考えています。抗リン脂質抗体部会では、SPA (solid phase assay)部門, ループスアンチコアグラント(LA)部門, APS部門の3つの小グループがaPL測定方法の標準化、最適な治療法の検討を中心に、地道な活動と続けています。
     

    1.平成30年度の活動報告

    a)SSC シンポジウム
    抗リン脂質抗体 (aPL) 部会では、希釈ラッセル蛇毒時間(dRVVT)と活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の2系統のループスアンチコアグラント (LA) に関するカットオフ値の設定を行っている。SPA(solid-phase assay) である抗カルジオリピン抗体 (aCL), 抗β2GPI抗体,抗ホスファチジルセリン/プロトロンビン抗体 (aPS/PT) の標準化については自動分析装置を用いた測定系を中心に行ってきた。APS部門では実臨床におけるAPS治療の後ろ向き検討がなされ、同時にバイオバンクの拡充を進めている。標準化された検査系を実臨床でvalidateすべく、活発な討議が行われた。
     
    LA部門(北海道医療大学 内藤澄悦先生)では、これまでにdRVV系LA測定の標準化を検討し、常用カットオフ値として“>1.2”を提唱、こちらについてはほぼ定着してきている。今回標準化がやや困難とされるAPTT系検査の検討として、LAスクリーニング検査としての検討結果の確認と、LA確認検査として保険適用となっているヒーモスアイエルSCT(アイ・エル・ジャパン株式会社)について健常人カットオフ値の設定に向けた検討を行った。結果、①LAに対する感度は、試薬・機器との組合せによって異なり、測定機器を考慮、②多様なAPTT試薬の性能の設定、③多施設で一定条件で試薬性能を評価する方法の確立、が必要であることを再確認した。

     
    SPA (solid-phase assay) 部門(金沢大学 關谷暁子先生)は、自動分析装置を用いた抗体価測定試薬によるaPL測定について、3施設で健常人検体の測定を実施し、得られた測定値の99%tileを健常人基準範囲上限値と定めた。また、設定した基準範囲を用いてAPS患者についてaCL(IgG,IgM)およびaβ2GPI(IgG,IgM)の陽性・陰性を判定し、ELISAによる抗体価の判定との一致率を検討した。一部測定系で低濃度域でのバラツキがみられたものの、実臨床で問題となる力価での測定には問題が無いと考えられた。
     
    APS部門(北海道大学 藤枝雄一郎先生)からは、APS患者におけるDOAC(Direct Oral Anticoagulant)、DAPT (Dual Anti-Platelet Therapy)に関する単施設後ろ向き研究が紹介された。当科APS患者のうち10例がDOACを使用しており、同一患者におけるワーファリン使用期間とDOAC使用期間を比較したところ、有意にDOAC使用期間における血栓・出血イベントが多かった。ワーファリン内服群と比較した際にもDOAC群で有意にイベントが多かった。また、動脈血栓症を有するAPS患者において、DAPT群の血栓再発率は他の治療群と比較し有意に再発率が低かった。出血合併症他の治療群と有意差がなかった。DAPTの長期使用には懸念も持たれ、注意深い観察が必要と考えられた。

     

    b)研究成果
     Solid Phase Assay (SPA) 部門:
    SPAグループでは, 3社の自動分析装置および専用試薬(①サーモフィッシャーダイアグノスティックス,ファディア100,aCL-IgG・aCL-IgM・aβ2GPI-IgG・aβ2GPI-IgM.②アイ・エル・ジャパン社,ACL AcuStar®,aCL-IgG・aCL-IgM・aβ2GPI-IgG・aβ2GPI-IgM.③医学生物学研究所(MBL),STACIA,aβ2GPI-IgG・aβ2GPI-IgM)を用いて,健常人基準範囲を設定するとともに臨床的有用性について多施設共同研究で実施した.
    ①ファディア100によるaCL-IgG・aCL-IgM・aβ2GPI-IgG・aβ2GPI-IgMについて,施設間差の検討・健常人基準値の設定・一般人およびAPS患者における陽性率の一致率について,山口大学・北海道医療大学・金沢大学の3施設で検討した.aCL(IgG,IgM)の測定値は,3施設間でr=0.98以上と非常に高い相関を示した.一方,aβ2GPI(IgG,IgM)の測定値は,低値検体の影響によりr=0.67~0.85と相関は若干劣ったがほぼ一致した結果が得られた.今回設定した健常人基準範囲を用いることにより試薬の添付のEliA基準における弱陽性例が陰性にシフトし,偽陽性症例が解消された.
    ②ACL AcuStar®によるaCL-IgG・aCL-IgM・aβ2GPI-IgG・aβ2GPI-IgMについて,健常人基準範囲を検討するとともに,SLE患者検体の測定を実施し,各種抗体価測定の臨床的有用性を検討した.今回設定した健常人基準範囲を用いることにより,SLE患者の動・静脈血栓症例で有意に高い陽性率を示した.
    ③MBL社の化学発光酵素免疫測定法によるaβ2GPI-IgG・aβ2GPI-IgMについて,健常人基準範囲を健常人検体の99%タイル値にて設定したところ,aβ2GPI-IgGでは測定下限以下となり,国際分類基準のカットオフ値を適応することが困難であった.そこで,APS疑いの類似疾患である膠原病患者(SLEを除く)を含めた群での99%タイル値を新たなカットオフ値候補とし,臨床検体を用いた検討にてその妥当性について評価した.
    自動分析装置を用いることによりAPS国際分類基準に含まれる複数種の抗リン脂質抗体が同時に測定でき,全ての抗体で同時再現性および日差再現性に優れ,抗体価の施設間差も殆ど認められないことから,APS検査診断における有用なツールとなることが期待された.

     
    ループスアンチコアグラント(LA)部門:
    ループスアンチコアグラント(LA)部門では、昨年度まで行ってきたdRVVTの標準化に向けた検討と同様に、APTT系のLA測定について健常人参考値(カットオフ値)の設定とキット間の比較を含め検討を計画した。対象キットとして、保険適用のあるスタクロットLA(富士レビオ)とヒーモスアイエルSCT(アイエルジャパン)の2種類を想定したが、スタクロットLAは用手法による測定が前提となっており、かつ、自動分析装置へのアプリケーションが積極的に行われてこなかった背景を踏まえ、標準的な方法の提示が容易ではないことから、先ずはヒーモスアイエルSCTについて検討に着手することとした。本試薬は、専用機器との組み合わせでの測定が前提となることから、健常人検体を対象に2施設(徳島大学病院、聖マリアンナ医科大学病院)で測定を実施し、施設間差(機器間差)の比較と併せて実施した。結果として、健常人上限値(99%タイル値)および健常人におけるLA判定は2施設間で大きな差はなく、ほぼ一致した結果が得られた。但し、normalized ratio算出において、LA陰性コントロール(アイエルジャパン)を用いた場合と今回測定した健常人の平均値を用いた場合で若干の差が生じており、キット添付文書の参考値と併せ今後さらなる検証を要する。また、dRVVTと併せて、APS患者および類似疾患を含めた臨床検体を用いた評価検討が必要である。
     
    APS部門:
     我が国におけるAPSの疫学・実臨床の基礎データを構築する目的で、
    平成29年度より、疾患レジストリをEDC (electric data capture)システムで構築し、Japan Registry of Antiphospholipid Syndrome(J-RAPS)と名付けた。事務局は北海道大学病院内科IIにおき、血漿検体バイオバンクと連動させて検体の収集を行っている。抗リン脂質抗体標準化ワークショップ(APS-WS)(http://aps-ws.com)とも連携し、当面は100検体を目標として検体・患者情報の収集を行ってきたが、ほぼ達成に近づいている。
     APSの治療に関する後ろ向き解析として、動脈血栓症を来したAPS患者に対する二次予防としてワルファリン, 抗血小板剤, 両者の併用およびDAPT (Dual Anti-Platelet Therapy) 治療の有効性を比較検討した。結果、DAPT群で最も動脈血栓の再発が少なく、安全性の面では4群間で有意差は認めなかった (Ohnishi N, Fujieda Y, et al. Lupus 2019)。海外における、ハイリスク(triple-positive) APS 患者に対するリバロキサバンによる治療研究はリバロキサバン群における有害事象の多発により中止となったが、実臨床でのDOACによる治療効果は不明である。当科APS患者のうち10例がDOACを使用しており、同一患者におけるワーファリン使用期間とDOAC使用期間を比較したところ、有意にDOAC使用期間における血栓・出血イベントが多かった。患者背景を調整したワーファリン内服群と比較した際にもDOAC群で有意にイベントが多かった。

     

    2.令和元年度の活動計画

    SPA部門では、施設間差の少ない自動分析装置を使用できる検査系を中心に、バイオバンクを生かして疾患コントロールも含めた臨床的カットオフ値を定める予定である。LA部門でも、APTT系LAで保険適応のある2キットについて同様な検討を実施し、dRVVT系と併せてLA測定の標準法として提案する。APS部門では、来年度中に200名程度のバイオバンクおよびEDC登録を目指し、疫学的解析をはじめとした臨床的な解析を行う。
    これらの成果をあわせて、APS-WSとも共同して検査系・治療方針に関する低減を行う予定である。

  • 平成29年度活動報告書

    部会長 保田 晋助(北海道大学 免疫・代謝内科)
     
    抗リン脂質抗体部会では、家子正裕部会長のリーダーシップのもと、平成24年度からの4年間で標準化の基礎作りを行った後、平成28年度に小生が引き継いで2年目の年度となりました。測定法の標準化がある程度進捗してきており、「多彩な抗リン脂質抗体の標準化から実用へ」とのテーマを掲げて抗リン脂質抗体プロファイルと臨床像の関連を見出し、最適の治療法を明らかにしてゆきたいと考えています。抗リン脂質抗体部会では、ELISA-aPL部門をSPA (solid phase assay)部門と改め, ループスアンチコアグラント(LA)部門, APS部門の3つの小グループがaPL測定方法の標準化を中心に、新たな目標に向けて活動しています。
     

    1.平成29年度の活動報告

    a)SSC シンポジウム
     抗リン脂質抗体 (aPL) 部会では、LA,抗カルジオリピン抗体 (aCL), 抗β2GPI抗体, non-criteria aPLである抗ホスファチジルセリン/プロトロンビン抗体 (aPS/PT) に関する測定法の標準化をこれまで行ってきた。APS部門ではEDCシステムおよびバイオバンクシステムの立ち上げが完了し、これまでに得られた成果を実臨床に役立てることをめざす意気込みで、充実した発表と活発な討議が行われた。
    LA部門(北海道医療大学 内藤澄悦先生)では、これまでにdRVV系とAPTT系のLA測定を標準化することについて検討してきた結果として、①軽微なロット間差、機器間差ではnormalized ratioの利用による是正、②明らかなロット間差、試薬間差が認められた場合には、モノクローナル抗体231Dや市販のLA陽性コントロール血漿を介したハーモナイゼーションを、③ISTH基準の健常人分布の99パーセンタイルを正常上限とし、共通の常用カットオフ値として“>1.2”の利用可能性について報告してきた。今回は「LA測定の標準化に向けて」の演題名で、後方視的にdRVVT系LA測定の再評価を実施し、同カットオフ値の妥当性について議論した。聴衆からは、全てのキットにおいて実際の凝固時間の表示を求めるべきとする意見があり、今後提言を行ってゆくこととした。
     
    SPA (solid-phase assay) 部門(山口大学 本木由香里先生)は、これまでに多彩な抗リン脂質抗体を測定するELISAキットにおける健常人参考値を設定するとともに、3施設にてAPS患者および健常人を対象に測定を実施、施設間差についても検証してきた。また、自動分析装置では施設間差が非常に小さいことなども報告してきた。今回は「日本における抗リン脂質抗体ELISAの標準化に向けて―第4報―」の演題名で、APS患者28例および膠原病(APS非合併)患者44例を対象として10キットの感度・特異度を検討した。測定をより簡便に行うために、どのような検査キットの組み合わせが最も有用かについても比較検討した。某社aCL IgG + aPS/PT IgGの組み合わせやaCL IgG + IgM等が有用な候補として挙げられたが、患者数や疾患の幅などを拡大して検討することなどが議論された。
     
    APS部門(北海道大学 奥 健志先生)からは、「抗リン脂質抗体症候群(APS)疾患レジストリ:希少性疾患における網羅的レジストリの意義と展望」のタイトルにて、患者レジストリを構築し、診断、治療、予後に関するデータを収集・解析することで医療の問題点・改善点が明らかになるといった有用性について総論的な解説があった。そのうえで、現在実際に取り組んでいるAPSレジストリおよびバイオバンクの構築および一括管理について、システム作りが完了したことが報告された。具体的な症例登録については、今後各所で声がけ、お願いしてゆくこと、これまで各研究室で個々に測定してきた全国からの相談症例等を登録してゆくことが確認された。一方で、どの程度の協力が得られるかについて、また同意書や倫理申請の問題点なども議論された。

     

    b)ガイドライン、診断基準、共同研究などの成果
     Solid Phase Assay (SPA) 部門:
     山口大学の野島順三先生が中心となり、絶対的健常人およびAPS患者血清を用いて様々なキット間の抗体価を比較検討してきた。APSの検査診断に必須である抗カルジオリピン抗体(aCL)および抗β2GPI抗体(aβ2GPI)、更には、近年注目されている抗ホスファチジルセリン/プロトロンビン抗体(aPS/PT)測定の標準化を目的に、10種類の市販ELISAキットについて絶対的健常人(400名)における基準範囲を設定し、この基準範囲を用いて陽性・陰性の判定を行った場合、同じ抗体を測定するELISAキットであれば施設間差およびキット間差に問題がないことを報告した。平成29年度は、各キットの臨床的カットオフ値の設定と、モノクローナル抗体を標準物質としたaPS/PT-ELISAのハーモナイズを試みた.まず、臨床的カットオフ値の設定については、検討対象キットを① aCL -ELISAキット:MBL MESACUP カルジオリピンテスト・MESACUP カルジオリピンIgM、アイ・エル・ジャパンQUANTA Lite ACA ELISA (IgG・IgM)、② aβ2GPⅠ-ELISAキット:アイ・エル・ジャパンQUANTA Lite β2GP1 ELISA (IgG・IgM)、③ aPS/PT-ELISAキット:MBL PS/PT ELISAキット(IgG・IgM)、アイ・エル・ジャパンQUANTA Lite aPS/PT ELISA (IgG・IgM)の以上10キットとし、測定対象をAPS患者28例および膠原病(APS非合併)患者44例の計72例とした。測定は、北海道医療大学・金沢大学・山口大学の3施設にて実施した。その結果、臨床的カットオフ値は、絶対的健常人(400例)測定値の99%tileが最も適していた。次に、aPS/PT(IgG)ELISAキット:QUANTA Lite aPS/PT IgG(IL社)vs. PS/PT ELISA IgG(MBL社)にて、抗PS/PTキメラIgGモノクローナル抗体【MBL社】を用いたキット間aPS/PT値の補正が可能か否か検討した。その結果、2社のELISAキット間で測定値に大きな解離が認められ、aPS/PT値のハーモナイズは困難と思われた。
     
    ループスアンチコアグラント(LA)部門:
     LA部門では聖マリアンナ医科大学の山﨑 哲先生が中心となり、本邦で保険適応となっている3種のdRVVT試薬の標準化を目的として検討を行ってきた。これまで、dRVVT測定の標準化作業として、4試薬を対象に健常人参考値の設定について検討を行い、試薬間差、試薬ロット間差、機械間差の是正策として、①screen試薬での延長を判定する指標として、各試薬共通でscreen normalized ratio(検体screen試薬秒数/プール血漿screen試薬秒数またはscreen健常人平均値秒数)で1.2を健常人上限値とし、>1.2を異常値(延長)とする、②リン脂質依存性の確認として、各試薬共通でnormalized screen / confirm ratio((検体screen秒数/プール血漿screen試薬秒数またはscreen健常人平均値秒数)/(検体confirm秒数/プール血漿confirm試薬秒数またはconfirm健常人平均値秒数)で1.2を健常人上限値とし、>1.2を異常値(陽性)とする。③大きな試薬間差、試薬ロット間差については、231DやLA陽性コントロールを使用したハーモナイゼーションの可能性について報告してきた。平成29年度は、後方視的にdRVVT系LA測定の再評価を実施し、同カットオフ値の妥当性について検討を行った。本年のSSCシンポジウムで議論され、全てのキットにおいて実際の凝固時間の表示も求めるべきとする意見があり、標準法を提示する上での課題とした。
     
    APS部門:
     我が国におけるAPSの疫学・実臨床の基礎データを構築する目的で、
    平成29年度より、疾患レジストリをEDC(electric data capture)システムで構築し、Japan Registry of Antiphospholipid Syndrome(J-RAPS)と名付けた。事務局は北海道大学病院内科IIにおき、北海道大学臨床研究開発センターのご協力のもと、バイオバンクと連動させる(定期的に登録患者の血液検体も保管する)こととなり、体制の整備を進めている。今後、日本血栓止血学会においては、SSCや学術集会での発表、あるいは論文発表を通してレジストリの周知とご協力を依頼していく。また、抗リン脂質抗体標準化ワークショップ(APS-WS)のホームページ(http://aps-ws.com)にも本レジストリを紹介し、参加や倫理審査の方法について掲載している。
     患者登録については、すでに北海道大学病院、国立成育医療センターを始め、数カ所の施設が開始している。
     

    2.平成30年度の活動計画

    SPA部門では、ELISAキット毎に明瞭な臨床的カットオフ値を定め,APSの検査診断に最も適した測定キットの組合せを提案する予定である。
    LA部門では、APTT系LAで保険適応のある2キットについて同様な検討を実施し、dRVVT系と併せてLA測定の標準法として提案することを目標とする。
    APS部門では、来年度中に、100−200名程度の登録を目指しており、平成31年度から実際にデータを用いた実際の疫学的解析をはじめとした臨床的な解析を開始する予定である。

  • 平成28年度活動報告書

    部会長 保田 晋助(北海道大学 免疫・代謝内科)
     
    抗リン脂質抗体部会では、家子正裕部会長のリーダーシップのもと、平成24年度からの4年間で標準化の基礎作りを行った後、「測定方法の標準化から診断方法への標準化へ」と一歩進んだテーマに取り組みました。平成28年度は小生が引き継いだ最初の年度となりました。測定法の標準化がある程度進捗してきており、「多彩な抗リン脂質抗体の標準化から実用へ」とのテーマを掲げて抗リン脂質抗体プロファイルと臨床像の関連を見出し、最適の治療法を明らかにしてゆきたいと考えています。抗リン脂質抗体部会では、ELISA-aPL部門, ループスアンチコアグラント(LA)部門, APS部門の3つの小グループがaPL測定方法の標準化を中心に、新たな目標に向けて活動しています。
     

    1)ELISA-aPL部門
     山口大学の野島順三先生が中心となり、APS診断に必須な検査項目である抗カルジオリピン抗体(aCL)および抗β2GPI抗体(aβ2GPI)測定の標準化を目的に、従来のELISAに加え、自動分析装置を用いた抗体価測定試薬について多施設共同研究を行った。健常人血清ならびにAPS患者血清を対象に、IgGおよびIgMクラスのaCLとaβ2GPIの合計4種類の抗リン脂質抗体の測定を北海道医療大学・金沢大学・山口大学の3施設にて実施した。自動分析装置による抗体価測定は、aCL(IgG・IgM)およびaβ2GPI(IgG・IgM)の4項目全てで測定値の施設間差は殆ど認められなかった。測定者の熟練度で測定値が変動するマニュアル操作のELISAと比較して、自動分析装置による抗体価測定では、どの施設で測定を実施しても同じ測定値を得ることができ、病院検査部での抗リン脂質抗体測定の標準化・実用化を進める上では、一つの有用な測定法であることが確認された。従来のELISAとの比較では、自動分析装置用測定試薬にて測定した抗体価は、マニュアル操作によるELISAの測定結果と概ね良い相関を示したが、一部の検体で測定値の解離が確認されており、原因の精査が必要である。これまでの検討により、APS診断のスクリーニング検査としてはIgGクラスのaCL-ELISAが最も有用であることを提唱した。今後は、血栓症を発症するリスク予測のためにどのような抗リン脂質抗体を測定しなければならないのか、ホスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体(aPS/PT )も含めて検討する予定である。
     

    2)ループスアンチコアグラント(LA)部門
     LA部門では聖マリアンナ医科大学の山崎 哲先生が中心となり、本邦で保険適応となっている3種のdRVVT試薬の標準化を目的として検討を行ってきた。健常邦人を対象とした多施設共同研究において、健常人平均値によりnormalizeしたリン脂質無添加dRVVT/リン脂質添加dRVVTの比(normalized screen/confirm ratio: N-S/C ratio)での報告方法で、健常人カットオフ値を共通して1.2付近に設定できる可能性、さらに、ホスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体モノクローナル抗体(23-1D)またはLA陽性コントロール血漿による結果値のハーモナイゼーションの可能性を報告した。本年度は、検査としての利便性を考慮し、normalizeに使用する正常血漿について検討を加え、少なくとも20~40名由来のプール血漿を使用することで試薬ロット間差が収束する結果を得た。また、健常人において若干の男女差を認めたことから、プール血漿作製においては男女比を考慮する必要性を提唱した。今後は、患者血漿を対象としたAPS診断のカットオフ値設定の試みや、APTT系LA試薬の標準化について取り組む予定である。
     

    3)APS部門
     北海道大学が中心となり、APS診断方法の標準化を検討した。これまで「aPLスコア」がAPS診断および血栓症のリスク予測に有用であることを提唱してきたが、ヨーロッパから提唱された類似の予スコアであるGAPSSとの間で有用性の比較を行った。結果、APSの診断には両者は同等に有用であったが、血栓発症予測能に関してはaPLスコアがより有用性が高いことが示唆された。
     また、APS分類基準に含まれていない抗リン脂質抗体である抗β2GPIドメインI抗体 (aDI Abs)およびホスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体 (aPS/PT Abs)の診断における有用性についても検証した。その結果、これらのnon-criteria Absは従来のLA, aCL, 抗β2GPI抗体と同等のAPSの診断能を有することが示された。
     現在on goingの状況ではあるが、抗リン脂質抗体プロファイルと臨床像との関連を全国規模で明らかにする目的で、APS患者血清・血症をバイオバンク化し、患者データベースとリンクさせるシステムを構築している。バイオバンクについては北海道大学生体試料管理室を利用し、同大学で立ち上げたEDCに研究者が患者情報を登録可能にすべく準備を進めている。

  • 平成27年度活動報告書

    部会長 家子 正裕(北海道医療大学歯学部内科学分野)
     
    抗リン脂質抗体部会では、私が部会長になった平成24年度から3年間を「標準化の基礎作り」と考え、診断に用いる抗リン脂質抗体(aPL)の検査方法の標準化から開始した。4年目となる今年度は、標準化の基礎作りから一歩進んで「測定方法の標準化から診断方法への標準化へ 2nd Stage」とテーマを決めて、現状で可能なaPL測定方法の標準化に関する提言を目的とした。現在、抗リン脂質抗体部会では、日本検査血液学会標準化委員会「血栓止血検査標準化小委員会」のメンバーと共同で組成した「日本抗リン脂質抗体標準化ワークショップ(APS-WS)」を活動の場として、「APSの疫学・診断・治療を検討するグループ(APS部門)」、「ELISAで測定されるaPL測定の標準化を行うグループ(ELISA-aPL部門)」、「ループスアンチコアグラント(LA)の標準化を検討するグループ(LA部門)」にメンバーを分け、aPL測定方法の標準化を中心に活動している。
     

    1)ELISA-aPL部門
     山口大学の野島順三先生が中心となり、APS診断に必須な検査項目である抗カルジオリピン抗体(aCL)および抗2GPI抗体(a2GPI)の標準化を目的に健常人サンプルを種々のaCLおよびa2GPI測定キットを用いて測定する多施設共同研究を行った。aCL ELISA kitはIgGおよびIgMクラス抗体測定用の5種類、a2GPI ELISA kitはIgGおよびIgMクラス抗体測定用の2種類のキットを用いて健常人参考値を決定した。試薬間差は認めたが、ELISAの測定原理を熟知し正確な技術を修得した人が測定することにより施設間差はきわめて最少にすることができ、信頼できる測定値が得られることが分かった。それぞれの測定キットにおける健常人参考値に加え、APS患者を対象とした検討も現在進行中で、今後のaPL測定における「健常人の基準値」および「APS診断のカットオフ値」として、後日学会誌に報告予定である。また、aCL-IgGは本邦で保険収載があるが、その他のELISA-aPLは認められておらず、今後この結果を元に保険収載への道を模索する予定でもある。
     

    2)ループスアンチコアグラント(LA)部門
     聖マリアンナ医科大学の山崎 哲先生が中心となり、LA検査のひとつであるdRVVTの標準化を目的として行っている。現在、本邦では3種類のdRVVT試薬での測定が可能であるが、その結果の同一性は不明で標準化が望まれていた。健常邦人を対象とした多施設共同研究を行い、3種類のdRVVT試薬における標準化の可能性を検討した。リン脂質添加dRVVT/リン脂質無添加dRVVTの比での報告方法では、ホスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体モノクローナル抗体(23-1D)が2社の試薬で共通のコントロール標準品になりうる事を確認した。また、231Dに反応が弱い1社の試薬も、同試薬に含まれる標準品による値を231Dによる値と換算できる事も確認できた。また、比での結果報告では、3社の試薬共そのカットオフ値を1.2付近に設定できる事も分かった。今後のdRVVT系LA測定における「邦人のカットオフ値」として、後日学会誌に報告し多くの医療施設に周知すると共に、今後はAPTT系LA試薬の標準化も予定する。
     

    3)APS部門
     北海道大学の保田晋助先生が中心となり、APS診断方法の標準化を検討した。現在、APSの診断にはAPS分類基準が使われているが、APS分類基準による診断には12週間の観察期間が必要であり、また治療開始基準としては用いることは難しい。北海道大学より提唱された「aPLスコア」は、APS診断にも有用であり、また血栓形成の危険性の確認となることが報告されたおり、APS部門ではその有用性を中心に検討している。現状のaPL測定方法ではaPLスコアのAPS診断への有用性は高く、また血栓形成の予測因子としても有用であることが示された。当然ながらaPLスコア算出のためには、aPL測定の標準化が重要であり、今後標準化された方法によるaPL測定値を用いたaPLスコアのAPS診断の有用性および血栓傾向の指標としての可能性を再検討すると共に、aPLスコアの全国への普及を目的に活動する予定である。

  • 平成26年度活動報告書

    文責:「抗リン脂質抗体部会」部会長:家子正裕

    (北海道医療大学歯学部内科分野)

    1.構成員

    部会長:家子正裕

    副部会長:保田晋助、松林秀彦

    部会員:渥美達也、野島順三、杉浦真弓、武谷浩之、北島勲、森下英理子、金子誠、上野祐司、奥健志、

    山崎哲、内藤澄悦、本木由香里、吉田美香

     

    2.抗リン脂質抗体検査標準化への取り組み

    APSの診断のためには、国際的には①抗カルジオリピン抗体(aCL)(IgGおよびIgM)、②抗b2GPI抗体(ab2GPI)(IgGおよびIgM)、ループスアンチコアグラント(LA)の測定が必須である。しかし、現在我が国で保険収載されているのは、aCL-IgGおよびLAだけである。そこで、「抗リン脂質抗体部会」では、まずELISA-aPLグループ、LAグループおよびAPSグループに別れて活動している。

    1)ELISA-aPLグループ:野島先生を中心にaCL-IgMおよびab2GPI-IgG, IgMの標準化を行っている。日本人の血清約3000サンプルをもとに、上記ELISA-aPLを測定し、健常邦人にける基準値を決定すべく、金沢大学(森下先生)、北海道医療大学(吉田先生)を含む3施設で検討した。同様に将来のAPS診断的検査項目と言われているホスファチジルセリン抗プロトロンビン抗体(aPS/PT)についても健常邦人の基準値を検討中である。次回のSSC symposiumではその結果を公表する予定である。

    2)LAグループ:山崎先生を中心に希釈ラッセル蛇毒凝固時間(dRVVT)法によるLA測定の標準化を行っている。保険収載のあるLA test Gradiporeをスタンダード試薬として健常人血漿による基準値を聖マリ大学(山崎先生)、北海道医療大学(内藤先生)を含む3施設で測定し検討中である。合わせて、Positive controlの標準品を用いて他のdRVVT試薬とのハーモナイゼーションも行っている。同様に次回のSSC Symposiumには報告できる予定である。

    3)APSグループ:APS診断方法の改善を目的に、北海道大学(渥美先生、保田副部会長)が中心となってAPS scoreの検討を行っている。現在標準化中のaPL測定方法を用いて、将来的にはAPS scoreによるAPS診断方法の標準化を目指す予定である。また、血栓症を主症状とするAPSと産婦人科領域のAPSが同一病態として分類可能かなどの検討も、松林副部会長を中心に行う予定である。

     

    3.他学会との標準化における連携

    抗リン脂質抗体部会は、日本検査血液学会標準化委員会「血栓止血検査標準化小委員会」と連携し、上記標準化の検討を行っている。その成果は、独立した研究会組織である「日本抗リン脂質抗体標準化ワークショップ(APS-WS)」の学術集会で報告され、約90名の参加者において討論されている。

    また、本部会での検討事項は、日本血栓止血学会学術集会のみならず日本検査血液学会学術集会でも発表され、多分野の先生からの意見やコメントを集積し標準化への資料としている。

     

    4.今後の予定

    1)aPL測定試薬・方法の標準化:本部会でのaPL測定用スタンダード試薬を決定し、それによる健常邦人の基準値を設定する。また、他試薬とのハーモナイゼーションを行った後、そのデータをもとに保険収載申請の努力をしたいと考えている。

    2)APS診断基準のためのcut off値設定:APS患者サンプルを収集の後、APSと診断されるELISA-aPLおよびLA値のcut off値の設定を試みる予定である。そのため、現在部会員の所属する施設でのAPS患者血漿を収集中である(各施設の倫理委員会の承認は得ている)。

    3)APS診断および治療の標準化:2)の値をもとに、APS診断率の向上を目指す。現在、北海道大学より報告されているAPS-Scoreを中心に検討する予定である。また、APS-Scoreを用いた治療効果判定も視野に入れて検討中である。

  • 平成25年度活動報告書
    部会長 家子 正裕(北海道大学歯学部内科学分野)
    抗リン脂質抗体部会では標準化の基礎作りを3年間と考え、平成24年度はAPS診断・治療の標準化を視野において現状を確認する作業を行った。平成25年度は、昨年の結果より、まず診断に用いる抗リン脂質抗体(aPL)の検査方法の標準化が重要と考え「診断検査の標準化を中心に」活動した。
    本部会では、日本検査血液学会標準化委員会「血栓止血検査小委員会」および「日本抗リン脂質抗体標準化ワークショップ(APS-WS)」と協同して活動を行っている。メンバーを、「APSの疫学・診断・治療を検討するグループ(APS部門)」、「ELISAで測定されるaPL測定の標準化を行うグループ(ELISA-aPL部門)」、「ループスアンチコアグラント(LA)の標準化を検討するグループ(LA部門)」に分けて活動している。
    1)APS部門:「aPLスコア」の診断的有用性の確認とaPLスコアの全国への普及を目的に活動した。aPLスコアは、抗カルジオリピン抗体(aCL)-IgG, -IgM, 抗β2GPI抗体(aβ2GPI)-IgG, -IgM, ホスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体(aPS/PT)-IgG, -IgM, APTT, カオリン凝固時間(KCT), 希釈ラッセル蛇毒時間(dRVVT)の測定結果にスコアをつけて、総数をカウントして判断するものである。aPLスコア30以上で血栓症リスクが増大し、またAPS症状に対するROC解析より、APSの診断に関してAPS分類基準(Sapporo Criteriaのシドニー改訂)より有用性が高いことを確認した。また、今年度のSSCミーティングで、産科におけるAPSの診断検査は現状では問題がある旨の指摘があり、今後の検討課題とすることにした。
    2)ELISA-aPL部門: ELISAで測定されるaPLの標準化を行っているが、本年度はaPS/PTの健常人参考値の決定を目標に活動した。現在本邦で使用可能な3種のaPS/PT試薬を用いて、aPS/PTにおける健常人参考値は、IgGクラスでは2試薬がほぼ同様で0.12~17.18U/mL、他の1試薬では4.27~38.57U/mL、IgMクラスでは1試薬が0.98~38.68 U/mL, 他の1試薬では3.14~35.38U/mLであった。このように試薬間差が大きく、モノクローナルaPS/PTである23-1Dを基準物質とした試薬間のハーモナイゼーションが必要であり、今後の予定とした
    3)ループスアンチコアグラント(LA)部門:dRVVTの標準化に向けた作業を開始した。健常人を対象とした基準値設定、患者血漿を対象としたLA診断のカットオフ値設定、およびコントロール血漿やホスファチジルセリン依存性抗プロトロンビンモノクローナル抗体(23-1D)の添加血漿を用いた精度管理や試薬間差の検証をdRVVT試薬4種、分析装置6種を用いて検討している。健常人血漿(129例)とコントロール血漿(陽性5種、陰性2種)および23-1Dの添加血漿についての測定が現在進行中で、4機種までの測定が終了した。4試薬4機種のScreen/Confirm(S/C)比の健常人99%タイル値は、1.16~1.43と組合せによる差を認めている。また、231Dの添加血漿による比較でも、添加濃度に対するS/C比に差を認め、組合せごとの基準値、カットオフ値の設定が必要となるか、または231Dによる補正などが可能となるかを含めて検討課題とし、次年度以降も検討を継続する。
  • 平成24年度活動報告書
    • 今年度は、今後抗リン脂質抗体症候群(APS)の標準化を行うために、APS治療の現状およびAPS診断方法の現状を確認した(SSCシンポジウムで報告)。

      1)APS治療の現状および問題点
      – 血栓症の予防・治療として、ワルファリンによる抗凝固療法が主体である。しかし、藤枝先生(北大)らは、動脈血栓症では抗血小板薬の予防投与で動脈血栓症の再発が防げた。
      – 産科ガイドラインでは、本邦の「PTE/DVT予防ガイドライン」に準じている。しかし、欧米で妊娠中にも頻用されている低分子ヘパリンやXa阻害剤が、本邦では適用外となっている。今後、このような薬剤の適応拡大が必要である。
      – APSに伴う脳梗塞は多発性であり、恐らく塞栓症の可能性が高い。また、APSに伴う脳梗塞では。ワーファリンやアスピリンの予防効果が低い場合がある。今後の対策が必要。

      2)APS診断の現状および問題点
      – 様々な抗リン脂質抗体測定用のELISAキットがあり、しかも現状では基準値が不明瞭である。今年度は、野島先生方(山口大)により、抗カルジオリピン抗体(aCL)-IgG: 10.0 U/mL、-IgM: 10.7 U/mL、ホスファチジルセリン依存性抗プロトロビン抗体(aPS/PT)-IgG: 17.2 U/mL, -IgM: 38.7 U/mL、およびb2GPI依存性aCL: 2.9 U/mLと判定した。
      – Lupus anticoagulant(LA)は、サンプル中の残存血小板数に影響され偽陰性になる事が多い。国際血栓止血学会標準化委員会では2重遠心処理血漿をLA用サンプルと推奨しているが、診療現場では困難な事が多い。今年度は、1回遠心処理でバフィーコート付近を採取しないサンプルでも良好な結果が得られる事を確認した。
      – LAスクリーニング用のAPTT試薬に関しても国際血栓止血学会で推奨するシリカ活性化剤試薬が必ずしも有用ではなく、LA測定に重要なのはリン脂質の組成と濃度であることも確認した。

      3)今後の標準化に向けた取り組み
      平成25年1月12日:今年度の標準化委員会学術シンポジウムの際にミーティング行い下記の話し合いを行った。
      – 抗リン脂質抗体測定の標準化を行うために、日本血栓止血学会標準化委員会抗リン脂質抗体部会と日本検査血液学会標準化委員会止血血栓検査小委員会のメンバーが合同で、ELISAで測定される抗リン脂質抗体の標準化(ELISAグループ)、ループスアンチコアグラントの標準化(LAグループ)およびAPS患者の診断方法の標準化(APSグループ)の3グループに分かれて行う事を確認した。

  • 平成21年度活動報告書
    抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome, APS)は抗リン脂質抗体の存在により,血栓症,不育症をきたす自己免疫疾患である.国際血栓止血学会SSC「抗リン脂質抗体」部会および,国際抗リン脂質抗体学会による診断分類基準案(Sydney Criteria)では本症候群の診断に際して,IgG型またはIgM型抗カルジオリピン抗体(aCL),抗β2-glycoprotein抗体(aβ2-GP I),ループスアンチコアグラント(LA)のいずれか1つ以上が陽性であること,とされているが,我が国ではIgM-aCLは保険収載されておらず,aβ2-GP測定キットは市販されていない,という問題がある.さらにLAの診断については世界的にも指針が定まっていない.
    治療法についても特に動脈血栓再発予防のための抗血栓療法についてのコンセンサスは得られていない.
    本部会では,我が国におけるAPS診断のための検査項目の標準化,およびアジア人種の特性にあった治療法の標準化を目指し,以下の研究を進めていく予定である.特にLA診断基準の標準化のためには実際にLA測定を行なう,検査部の方々の協力が必要であり,この分野の研究者,医師,技師の方々の参加を希望する.I. 抗リン脂質抗体の標準化案の作成
    (1) 我が国におけるIgG-aCL, IgG-aCL/β2GPIの99パーセンタイル値の設定
    (2)LA診断基準の作成
    (ア) LAスクリーニング検査
    (イ) クロスミキシング試験の標準化
    (ウ) クロスミキシング用標準血漿の標準化
    (エ) 確認試験の標準化
    (3)aβ2-GPの導入
    (4)フォアスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体(aPS/PT)の臨床的意義の確立
    II. 抗リン脂質抗体症候群治療方針の標準化案の作成

    (文責:抗リン脂質抗体部会長 山崎雅英
  • 平成16年度活動報告書

    血栓止血学会・学術専門委員会抗リン脂質抗体標準化検討部会

    部会長 北海道大学大学院医学研究科第二内科 渥美達也
    副部会長 金沢大学医学部第三内科 山崎雅英
    副部会長 東海大学医学部産婦人科 松林秀彦
    副部会長 浜松医科大学産婦人科 西口富三

    担当理事 山形大学医学部分子病態学 一瀬白帝

    1. ループスアンチコアグラント標準化

    学術専門委員会抗リン脂質抗体標準化検討部会の活動の中心は、ループスアンチコアグラント(LA)標準化である。現在日本検査血液学会、厚生科学特定疾患対策研究事業「自己免疫疾患に関する調査研究」との共同のプロジェクトとして標準化をすすめている。
    抗リン脂質抗体、特に凝固アッセイであるLAの検出法は極めて多様であり、アッセイの標準化の欠如が抗リン脂質抗体症候群の診断の大きな弊害となっている。そこで、全国の主要施設にLAの実施法についてサーベイをおこない、その結果にもとづいてLAスクリーニング用の試薬を選定、11施設に試薬とサンプルを送付して一致率の高い試薬を選定した(ループスアンチコアグラント標準化について中間報告を参照)。これをスクリーニングの標準品とした。ただしこのことは、他の試薬を排除するものでなく、あくまである試薬を「LAスクリーニングの標準品」とすることによって検査の標準化をはかる、ということであり、他の試薬を用いる場合は標準品との比較検討をふまえたうえでおこなうのであればLAの診断に何ら問題がないものと考える。昨年までの検討の結果、ロシュ社のPTT-LAが標準品として適しているという結果となった。この報告書は本学会ホームページ上で公開された。
    本年度以降の作業として、確認試験のプロトコールの標準化をおこなう。ミキシングテストおよびリン脂質添加試験がLA確認のステップとされているが、サーベイの結果から比較的多くの施設でおこなわれている方法をいくつかとりあげて、ひきつづき多施設による検討をおこなう。

    2. コンセンサスシンポジウムなど

    本年度は本学会総会においてはコンセンサスシンポジウムを開催する予定はないが、本学会、または他学会、研究会、研究班会議等で本検討部会の活動と関連するテーマがある場合は十分な協力をおこなう。

    3. 第11回国際抗リン脂質抗体会議の報告

    2004年11月14-18日、オーストラリアのシドニーにおいて、第11回国際抗リン脂質抗体会議がおこなわれる。本検討部会では同会議のエッセンスにつき報告、ホームページ等で公開する予定である。
  • 平成15年度活動報告書
    ループスアンチコアグラントの標準化について(中間報告)
    血栓止血学会・学術専門委員会抗リン脂質抗体標準化検討部会部会長 北海道大学大学院医学研究科第二内科 渥美達也
    副部会長 金沢大学医学部第三内科 山崎雅英
    副部会長 東海大学医学部産婦人科 松林秀彦
    副部会長 浜松医科大学産婦人科 西口富三担当理事 山形大学医学部分子病態学 一瀬白帝

    要 旨

    抗リン脂質抗体症候群(APS)は血栓症/妊娠合併症などの臨床症状と、抗リン脂質抗体の存在によって診断される。抗リン脂質抗体は免疫学的検出法(ELISA)と凝血学的検出法(ループスアンチコアグラント:LA)とがあるが、特にLAは疾患を定義する検査でありながら、その標準化は困難でありこの分野の長期の課題であった。本検討部会では、厚生科学特定疾患対策研究事業「自己免疫疾患に関する調査研究」および検査血液学会との合同でLAのわが国での標準化にとりくんでいる。全国の主要施設にLAの実施法についてサーベイをおこない、その結果にもとづいてLAスクリーニング用の候補試薬を選定した。11施設に試薬とLAサンプルを送付して凝固検査をやっていただきその結果を集計した。スクリーニング試薬の標準品としの条件は、(1)廉価である、(2)入手しやすい、(3)感度が高い、(4)測定結果の施設間差が少なくて判定の一致率の高いこと、である。6試薬の比較から、PTT-LAをスクリーニング標準品とした。ただしこのことは、他の試薬を排除するものでなく、あくまである試薬を「LAスクリーニングの標準品」とすることによって検査の標準化をはかる、ということであり、他の試薬を用いる場合は標準品との比較検討をふまえたうえでおこなうのであればLAの診断に何ら問題がないものと考える。今後は、さらに多施設による検討、また確認試験の標準化をすすめる予定である。

    1. 目的

    APSは血栓症/妊娠合併症などの臨床症状と、抗リン脂質抗体の存在によって診断される。抗リン脂質抗体は免疫学的検出法(ELISA)と凝血学的検出法(ループスアンチコアグラント:LA)とがある。国際的に利用されているAPSの分類基準案(Sapporo Criteria)では、IgGまたはM型β2-グリコプロテインI依存性抗カルジオリピン抗体陽性またはLA陽性が検査項目として必須となっている。前者は比較的標準化がすすんでおり、測定キットが普及している。一方、LAは1995年に国際血栓止血学会の標準化委員会が、(1)リン脂質依存性凝固時間でスクリーニング、(2)ミキシングテストでインヒビターであることを確認、(3)リン脂質添加試験で凝固時間異常が是正されることを確認、という手順で検出することを推薦しているが、用いる凝固時間試薬や測定条件によって結果が大きくことなり、施設間差が極めて大きい難しい臨床検査と認識されている。
    本検討部会では、厚生科学特定疾患対策研究事業「自己免疫疾患に関する調査研究」および検査血液学会との合同でLAのわが国での標準化にとりくんでいる。その途中経過を報告する。

    2. 研究方法

    血栓止血学会および検査血液学会評議員、また上記研究班員の計284人に、LAのスクリーニング試薬として何を使用しているか、という設問を含めたアンケート調査をおこなった。返答のあった59施設で使用されている試薬のうち、多く使用されている、入手しやすい、廉価である、を条件として4試薬を選定した。サンプルとともにこれらの試薬を11施設に送付し、凝固時間を測定いただいた。
    標準化で用いたサンプルを表1に示す。いずれもインフォームドコンセントの得られた患者あるいは健常人から採取、調整した。人工的LA血漿は、強いLA活性をもつホスファチジルセリン依存性モノクローナル抗プロトロンビン抗体(aPS/PT)である23-1Dを正常血漿に加えて作成した。高力価LA血漿は50mg/ml、低力価LA血漿は10 mg/mlに23-1Dを調製した。
    APTTについては、スクリーニング時に施行されている希釈APTT(オーレンバッファーを同時に送付してAPTT試薬を25倍希釈して凝固時間を測定)を施行いただいたが、PTT-LAはすでにリン脂質濃度が低く設定されているためPTT-LAを用いた希釈APTTはおこなわなかった。表2に示すように、4試薬6アッセイで結果を比較した。
    凝固時間の正常値は健常人22人の平均プラス2SDで定義した。11施設で測定したそれぞれのサンプルの凝固時間を集計し、パラメータとして、1) それぞれの試薬ごとに感度(LAサンプルすべて、低力価2サンプル、高力価3サンプルでそれぞれ計算)、2) 特異度、3) 平均正答率:A-Hのサンプル毎の11施設における正答率を平均した数値(高いほど正確)、4)SD index: A-Hのサンプルの11施設での凝固時間SD/凝固時間平均×100を8サンプルで平均した数値(施設間での当該サンプルの凝固時間測定値のばらつきをあらわす)、を計算した。

    3. 結果

    サンプルごとの11施設で測定した凝固時間を試薬別にまとめた(表3)。凝固時間の平均とSD、また括弧内には11施設での正答率を示した。
    試薬ごとの感度、特異度、平均正答率、SD-indexを表4に示した。

    4. 考察

    スクリーニング試薬の標準品としの条件は、(1)廉価である、(2)入手しやすい、(3)感度が高い、(4)測定結果の施設間差が少なくて判定の一致率の高いこと、と考えられる。基本的に凝固検査はLAのスクリーニング検査としては現時点で健保適応はない。各施設で検討のうえLAスクリーニング検査を施行していると考えられる。実際に使用されている試薬をアンケート調査でしらべて、廉価で入手しやすい試薬を標準試薬の候補として選定した。
    ラッセル蛇毒時間はかつては試薬の調整が煩雑であったが、現在はキットとして発売され、そのうちのひとつはLA確認試験として保険適応となっている。キットは入手が容易であり、その中にある試薬のひとつはスクリーニングとしても適している可能性があるが、本試薬はきわめて高価であること、ラッセル蛇毒試薬間での比較ができないことから、今回は検討しなかった。
    カオリン凝固時間はAPTTと同様に内因系凝固反応のインヒビターを検出する。しかし試薬にリン脂質が含まれず、血漿に内因性のリン脂質をもちいて反応がすすむので反応は遅くて不安定である。今回の検討でも施設間差が大きく、標準品にはむかないと考えられる。
    APTT試薬についても、われわれの予想よりかなり施設間差がみられた。希釈するとLA検出感度があがるはずであるが、試薬に含まれる凝固安定剤も希釈されてしまうため反応が不安定になりやすい。そのため健常人の凝固時間のばらつきが大きくなって正常値の設定がむずかしくなる。結果として、希釈APTTはかならずしも感度があがらず、施設間差が大きいという結果となった。
    今回の検討で、上記の条件をもっとも満たすのがPTT-LA試薬と考えられる。そこでPTT-LAをLAスクリーニングと標準品として設定し、アッセイのプロトコール、および確認試験の標準化へと検討をすすめていきたい。

    5. 結論

    PTT-LA試薬をLAスクリーニングのための標準試薬として、より標準化されたLA検査の確立をめざす。

    6. 謝辞

    本研究のアッセイにご協力いただいた以下の皆様に深謝いたします。

    川合陽子先生、島田舞先生(慶應義塾大学中央臨床検査部)
    阪田敏幸先生(国立循環器センター臨床検査部)
    佐野雅之先生(佐賀医科大学血液内科)
    程原佳子先生(滋賀医科大学輸血部)
    吉田 孝先生(同検査部血液部門)
    瀧 正志先生(聖マリアンナ大学小児科)
    山崎 哲先生(同臨床検査部)
    松林秀彦先生(東海大学産婦人科)
    川田 勉先生(同臨床検査科)
    杉浦真弓先生(名古屋市立大学産婦人科)
    家子正裕先生(北海道医療大学内科)
    内藤澄悦先生(同検査部)
    和田英夫先生(三重大学臨床検査医学)

    表1~4

    1

    2

    3

    4


<サイト内おすすめリンク>