用語集(詳細説明)
解説
トロンボモジュリン(TM)は主に
血管内皮細胞、気道や腸管の粘膜上皮細胞などに存在する高親和性
トロンビン受容体である。TMは生存に不可欠で、TM遺伝子ノックアウトマウスは胎生致死する。稀に出生するヒトTM遺伝子異常症は、
播種性血管内凝固症候群(DIC)様の重篤な血栓症をきたす。血中には傷害血管内皮細胞由来と推定される可溶性TM(参照:「
トロンボモジュリン測定法」)が微量存在するが、その生理的意義は明らかでない。
1. 分子構造
TMは分子量57,000の糖タンパク質で、その構造はN末端側からCタイプレクチン様ドメイン、6個連続するEGF様ドメイン、O型糖鎖結合ドメイン、細胞膜貫通ドメイン、細胞内ドメインから構成される。Cタイプレクチン様ドメインは主に抗炎症作用、EGFドメインは抗凝固作用や線溶調節作用に関与する。
3.病態との関係
血管内皮細胞におけるTM遺伝子の発現は、適度なシェアストレス、スタチン、ビタミンA、c-AMP、アデノシン、プロスタグランジンE1、IL-4などで増加し、逆に強度のシェアストレス、高濃度トロンビン、TNF-α、IL-1β、LPS、
TGF-β、低酸素、CRPなどで低下することから、種々の炎症性病態におけるTMの発現低下が血栓症の発生や増悪化に関与すると考えられている。TMの遺伝子発現には日内リズムがあり、早朝に低下し、夕刻に増加するため、
脳梗塞などの血栓塞栓症の発生頻度が午前中に高い要因の一つにTM遺伝子の関与が示唆されている。
4.DIC治療薬
天然のTMと同様な生理活性をもつ
遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤(TMα)は、敗血症、各種白血病、各種固形癌、救急・外科・産科領域などの疾患でみられる重篤な全身の血管機能障害や多臓器不全をきたす
全身性炎症反応症候群(SIRS)やDICに対する治療薬として広く用いられている。さらに、TMαはDIC様病態を呈する造血幹細胞移植時の血管内皮障害による
肝中心静脈閉塞症(VOD)や腎障害のHELLP症候群、また、腸管出血性大腸菌や赤痢菌による
典型(志賀毒素)HUS、
血栓性微小血管症(TMA)などの血管内皮症候群にも有効であることが報告されている。
図表
参考文献
1)鈴木宏治:トロンボモジュリンとプロテインC. Thrombosis Medicine 2012; 2: 10-17.
2)鈴木宏冶、本田剛一:内皮細胞のトロンボモジュリン・プロテインCシステム
による炎症の制御. 別冊BIO Clinica 慢性炎症と疾患, 2013;2:122-127.
3)鈴木宏冶、本田剛一:トロンボモジュリンの基礎と臨床. 新・血栓止血血管学.
(分冊3.抗凝固反応と線溶反応)(一瀬白帝、丸山征郎、和田英夫 編集)
金芳堂.2015(印刷中)
引用文献
著者
鈴木 宏治
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