用語集(詳細説明)
プロテアーゼ活性型受容体(PAR)
protease-activated receptor (PAR)
解説
【分子量,半減期,血中濃度】
トロンビン受容体はプロテアーゼ活性型受容体(protease-activated receptors; PARs)に含まれ、細胞外タンパクを特異的なプロテアーゼで切断することで、細胞内ヘシグナルが伝達される。PARsファミリーには現在までのところPAR-1、PAR-2、PAR-3、PAR-4と4つの受容体がクローニングざれている。このうち、PAR-1、PAR-3、PAR-4は
トロンビンによって活性化される。PAR-2はトロンビンではなく、トリプシン、トリプターゼ、活性化第VII因子、活性化第X因子といった
セリンプロテアーゼによって活性化される。ヒトのPAR-1は第5染色体上に存在し、血小板1個あたりには約2,000分子発現すると報告されている。
【構造と機能】
PARsは7回膜貫通型のGタンパク質共益型受容体であり、ヒトPAR-1では、その結晶構造が報告された。トロンビンはPARs細胞外のN末端側のヒルジン様ドメインを切断し、表出されたthrombin receptor activating peptide(TRAP)がアゴニストとして作用する。PAR-1ではトロンビンによってN端のArg41とSer42の間で切断され、受容体の一部であるSer42からAsn47 までのアミノ酸配列SFLLRNがそのままリガンドとなる(図1)。TRAPによって活性化されたPARsはその構造を変化させ、細胞内の三量体G蛋白と共役する。
【ノック・アウトマウスの表現形】
ヒトの血小板にはPAR-1とPAR-4が発現している。低濃度のトロンビンでは、まずPAR-1が活性化され、血小板凝集反応の中核である
インテグリンαIIb/β3の活性化が惹起される。PAR-4は補完的な役割を担っている。PAR-1ノックアウトマウスでは、トロンビンによる血小板凝集の障害は認められなかった。PAR-3ノックアウトマウスでは、高濃度のトロンビンで、野生型より遅れて血小板の反応が認められた。PAR-4欠損マウスでは、PAR-3が発現しているにもかかわらず、トロンビンに対する反応が完全に抑制された。マウスの血小板にはPAR-3とPAR-4が発現し、PAR-3がPAR-4のco-factorとしての役割を果たすことが示された。
【病態との関わり】
血小板では、PAR-1、PAR-4の活性化により、粘着、凝集、顆粒放出反応が惹起される。
血管内皮細胞や血管平滑筋にはPAR-1、PAR-2が発現し、NO依存性の血管拡張反応を惹起する。呼吸器系では、PAR-2は上皮細胞に発現し、気道平滑筋弛緩や炎症反応を誘発する。消化器系では、PAR-2は唾液腺や膵外分泌、平滑筋運動に関与している。血管内皮細胞におけるPAR-2発現はLPS、IL- lβ、TNF-αで著明に増加する。敗血症時の炎症反応にはPAR-1よりPAR-2の発現が優位で、凝固因子により活性化され、septic shockに関与することが示唆されている。
【その他のポイント・お役立ち情報】
PAR-1-APとしてはSFLLRN、PAR-2-APとしてはSLIGKV(ヒト)、SLIGRL(マウス)、PAR-3-APとしてはTFRGAP(ヒト)、PAR-4-APとしてはGYPGQV(ヒト)、 GYPGKF(マウス)である。実験上、マウス、ヒトともに、PAR-1-APとしてはSFLLRN、PAR-2-APとしてはSLIGRL、PAR-4-APとしてはAYPGKFがよく用いられている。SFLLRNはPAR-1とPAR-2を活性化させるためPAR-1特異的APとしてTFLLRが用いられることもある。
図表
図1.トロンビンによるPAR-1活性化
参考文献
1) Brass LF: The Molecular basis of platelet activation. Hoffman R, Benz EJ Jr., Shattil SJ, Furie B, Cohen HJ, Silberstein LE, McGlave P, Hematology: Basic principles and practice 4th ed, Elsevier Inc., 2005, 1899-1914.
2) Zhang C, Srinivasan Y, Arlow DH, Fung JJ, Palmer D, Zheng Y, Green HF, Pandey A, Dror RO, Shaw DE, Weis WI, Coughlin SR, Kobilka BK: High-resolution crystal structure of human protease-activated receptor 1. Nature 492: 387-392, 2012.
引用文献
著者
田所 誠司
関連用語