用語集(詳細説明)
アンチトロンビン製剤
antithrombin concentrate
解説
1)一般名 乾燥濃縮人アンチトロンビンIII製剤
2)製品名
アンスロビンP(化学及血清療法研究所-CSLベーリング)、ノイアート(日本血液製剤機構-田辺三菱製薬)、献血ノンスロン(日本製薬-武田薬品)
3)作用機序、適応症 アンチトロンビン(AT)は主として肝臓で産生される最も重要な生理的凝固阻止因子である。抗凝固薬の
ヘパリンは単独ではほとんど作用を示さず、あくまでアンチトロンビンによる
トロンビン、Xa因子などの不活性化作用を促進するものである。従って、ヘパリンの抗凝固効果は血漿アンチトロンビン活性に依存する。
先天性
アンチトロンビン欠乏症では、生理的凝固阻止機構の破綻から血栓傾向を生ずる。また播種性血管内凝固(
播種性血管内凝固症候群、DIC)においては一部の症例、特に敗血症や重症感染症、肝障害合併例で血漿アンチトロンビン活性が低下し、一定量のヘパリンを投与しても十分な効果が期待できないことが予想される。またアンチトロンビン活性が高度に低下する例では予後不良となる。アンチトロンビン低下DIC症例では、生理的凝固制御機構の破綻を元に戻すという視点と、ヘパリン製剤の効果がアンチトロンビンの存在を前提としている面からアンチトロンビンを補充することが望ましい。
このため治療薬としてヒト血漿由来濃縮アンチトロンビンIII製剤が作製され、日本においては先天性アンチトロンビン欠乏症と血漿アンチトロンビン低下を伴うDICが適応とされている。
4)投与量
DICでは血漿アンチトロンビン活性が70%以下の例でアンチトロンビンIII製剤で補充しながらヘパリンを投与し、出血症状が強い時や緊急時はアンチトロンビンIII製剤の単独投与を行うことが標準とされている。通常、ヘパリン併用時は1日1回1,500単位(成人)または30単位/kgを静注または点滴静注する。産科的・外科的DICなど緊急時あるいは出血症状が強い時は、アンチトロンビンIII製剤単独で1日1回40~60単位/kgを投与する。
また先天性アンチトロンビン欠乏症については、先天性アンチトロンビン欠乏に基づく血栓形成傾向が適応とされ、1日1,000~3,000単位(または20~60単位/kg)を投与する。
5)半減期
アンチトロンビンの生理的半減期は65時間程度であるが、先天性アンチトロンビン欠乏症患者での半減期は61.1±23.0時間と報告されている(アンスロビンPの場合)。DICではその病態によりかなり短縮する。
6)副作用・禁忌
副作用として、きわめてまれに胸部不快感、ASTおよびALTの上昇、悪寒、発熱、好酸球増多、発疹、蕁麻疹、嘔気・嘔吐、頭痛があらわれることがある。またショック、アナフィラキシーがあらわれることがあるとされている。本剤の成分に対しショックあるいは過敏症の既往のある患者は禁忌となる。
7)その他
最近では、リコンビナント・アンチトロンビン製剤も作製され、欧米ではヒト・アンチトロンビンを遺伝子導入したヤギの乳から製造した製剤が先天性アンチトロンビン欠乏症の周産期や手術時の抗血栓療法に使用されている。
図表
参考文献
1) 小林紀夫他:DICに対するアンチトロンビンIII濃縮製剤の治療効果に関する多施設臨床治験成績,臨床医薬 1:773-800,1985.
2) 真木正博他:産科的DICに対するATIII濃縮製剤(BI 6.013)の臨床評価.多施設比較臨床試験による検討,産婦人科治療 53:471-482,1986.
3) Edmunds T, Van Patten SM, Pollock J, Hanson E, Bernasconi R, Higgins E, Manavalan P, Ziomek C, Meade H, McPherson JM, Cole ES: Transgenically produced human antithrombin: structural and functional comparison to human plasma-derived antithrombin. Blood 91: 4561-4571, 1998.
引用文献
著者
高橋 芳右 (新潟県立加茂病院内科)
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