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用語集(詳細説明)

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血小板粘着機構
mechanisms of platelet adhesion

解説

【血小板粘着機構の古典的概念】
 止血メカニズムの第1ステップとして、まず血管壁損傷部位に血小板が粘着する。この血小板粘着反応における血管壁側因子としてはフォン・ヴィレブランド因子(VWF)フィブリノゲンなどの粘着タンパク質、各種タイプのコラーゲン、ヘパラン硫酸などのglycosaminoglycanやラミニンなどが考えられる(表1)。また、これらリガンドに結合する血小板側レセプターは、表1に列挙した種々の血小板膜糖タンパク(glycoprotein; GP)である。ここに挙げたリガンド・レセプター結合反応はそれぞれ血流のないin vitro実験系で詳細に証明・検討されている。しかしながら、各々の結合反応のin vivoでの生理的意義や、相互にいかなるメカニズムで血小板粘着反応に寄与しているかについては不明な点が多い。

【高ずり応力下での血小板粘着機構】
 静止状況や低いずり応力下では表1に列挙したリガンド・レセプター反応がそれぞれ相加相乗的に機能して血小板粘着反応を形成すると考えられる。
 これに対して、高ずり速度下での血小板粘着メカニズムは完全にVWFの機能に依存する。すなわち、血管壁が障害を受けた場合、コラーゲンをはじめとする血管内皮下組織が露出し、血漿中に流れているVWFがここに結合する。ついで、血小板はその膜タンパクGPIb のα鎖を通じて、コラーゲンなどに結合したVWFのA1ドメインと最初のcontactをとる。ここで、高いずり応力、すなわち血流スピードが速い場合、表1に列挙した血小板粘着反応はinitial contactとしては全く機能しない。唯一、VWF-GP Ib相互作用だけが血中を高速で流れている血小板を血管壁に捕獲し、結果として血小板は固相化VWF上を比較的低速で移動する(テザリング~ローリング)。血小板はローリング間に次第に活性化され、固相化VWF上に停止し強固に粘着する。ローリングの間に断続的に起こっているVWF-GP Ib相互作用から生じるinside-outシグナルが、細胞骨格タンパク質を介してインテグリンαIIb/β3を活性化し、活性化インテグリンαIIb/β3が固相化VWFの(アミノ酸RGD配列を含む)C1ドメインと結合することで、強固な血小板粘着に至るものと考えられている。

【生体におけるずり応力依存性血小板粘着機構】
 高ずり応力下での血小板粘着をVWF機能の面のみから概説したが、さまざまなずり応力状況が混在する生体における血小板粘着反応はもっと複雑である。ここに述べたVWF依存性の血小板粘着機構を基盤・前提として、表1に列挙したリガンド・レセプター反応などが相補的に機能している可能性がある。この中では血小板コラーゲンレセプターであるインテグリン α2β1およびGP VIのコラーゲンへの結合が、特に生理的に重要であると考えられている。ごく最近、 生体内顕微鏡による実験動物のin vivo血栓形成解析が進展し、従来の血小板粘着理論から大きく乖離した(血小板活性化を経由しない)ずり応力依存性血小板血栓形成理論が確立されつつある。いずれにせよ、この新機軸理論においてもVWF-GP Ib相互作用が主役であると考えられている。

図表

表1 血小板粘着に関与する結合反応

表1 血小板粘着に関与する結合反応

参考文献

1) Savage B, Saldívar E, Ruggeri ZM: Initiation of platelet adhesion by arrest onto fibrinogen or translocation on von Willebrand factor. Cell 84: 289-297, 1996.

2) Sugimoto M, Tsuji S, Kuwahara M, Matsui H, Miyata S, Fujimura Y, Yoshioka A: Shear-dependent functions of the interaction between soluble von Willebrand factor and platelet glycoprotein Ib in mural thrombus formation on a collagen surface. Int J Hematol 69: 48-53, 1999.

3) Kuwahara M, Sugimoto M, Tsuji S, Miyata S, Yoshioka A: Cytosolic calcium changes in a process of platelet adhesion and cohesion on a von Willebrand factor-coated surface under flow conditions. Blood 94: 1149-1155, 1999.

4) Kuwahara M, Sugimoto M, Tsuji S, et al: Platelet shape changes and adhesion under high shear flow. Arterioscler Thromb Vasc Biol 222: 329-334, 2002.

5) Nesbitt WS, Westein E, Tovar-Lopez FJ, Tolouei E, Mitchell A, Fu J, Carberry J, Fouras A, Jackson SP: A shear gradient-dependent platelet aggregation mechanism drives thrombus formation. Nat Med 15: 665-673, 2009.

引用文献

著者

杉本 充彦 (奈良県立医科大学 血栓制御医学)

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