用語集(詳細説明)
プラスミノゲン欠乏症・異常症
plasminogen deficiency / abnormal plasminogen
解説
【病態・病因】 日本人における
プラスミノゲン異常症はプラスミノゲンAla620Thr変異(プラスミノゲンTochigi変異)を指す場合がほとんどである。
プラスミノゲン異常症:Ala620がThrに変異した先天性プラスミノゲン異常症である(成熟タンパク質の番号ではAla601である)。自治医科大学の青木延雄らにより1978年に本変異保有者が発見されたことから、本変異はプラスミノゲンTochigi変異ともよばれる(1)。Ala620残基はプラスミンの活性中心残基のHis622の裏に位置し、これがThrに置換することにより、
セリンプロテアーゼの活性中心のAsp-His-Serのいわゆるチャージリレー系が障害され、プラスミン活性が低下すると考えられる(2)。Ala620のThrへの変異によりプラスミン活性はゼロにはならないので、ホモ接合体者でも血漿プラスミン活性は5%程度残存している(3)。
プラスミノゲン欠乏症:プラスミノゲン遺伝子に変異が起こり、変異体は分泌障害を示し、血中の抗原量が低下する。日本人においてプラスミノゲン欠乏症は異常症よりまれである。
【疫学】 プラスミノゲン異常症:日本では、Ala620がThrに変異した先天性プラスミノゲン異常症が多く見られる(アレル頻度2%程度、すなわち25-30人に1人がヘテロ接合体)。また、本変異は中国人および韓国人にも見られる(アレル頻度、1.4%および1.6%)が、白人には見られない。
プラスミノゲン欠乏症:まれである。プラスミノゲン遺伝子にいろいろな変異が同定されている。
【検査と診断】 プラスミノゲン異常症:本変異保有者のプラスミノゲン抗原量は正常域を示すが活性は低下する。血漿プラスミノゲン活性は合成基質法で測定できる。活性が低値を示す場合の多くはA620T変異で説明され、Ala620Thr変異をコードする遺伝子変異の有無を調べることは容易である。
プラスミノゲン欠乏症:プラスミノゲン欠乏症患者の血中プラスミノゲンは活性も抗原量も半減する。
【その他のポイント・お役立ち情報】 プラスミノゲン異常症:本変異は静脈血栓症を示す患者に同定されたので、当初は静脈血栓症との関連が疑われたが、その後に行われた研究では静脈血栓症のリスクとは考えられてない。
プラスミノゲン欠乏症:プラスミノゲンの活性と抗原量がともに低下するプラスミノゲン欠乏症患者にLigneous conjunctivitis (木質性結膜炎)が報告されている(4)。Ala620Thr変異をもつプラスミノゲン異常症患者には木質性結膜炎はみられない。
図表
参考文献
引用文献
1) Aoki N, Moroi M, Sakata Y, Yoshida N, Matsuda M: Abnormal plasminogen. A hereditary molecular abnormality found in a patient with recurrent thrombosis. J Clin Invest 61: 1186-1195, 1978.
2) Miyata T, Iwanaga S, Sakata Y, Aoki N: Plasminogen Tochigi: inactive plasmin resulting from replacement of alanine-600 by threonine in the active site. Proc Natl Acad Sci USA 79: 6132-6136, 1982.
3) Okamoto A, Sakata T, Mannami T, Baba S, Katayama Y, Matsuo H, Yasaka M, Minematsu K, Tomoike H, Miyata T: Population-based distribution of plasminogen activity and estimated prevalence and relevance to thrombotic diseases of plasminogen deficiency in the Japanese: the Suita Study. J Thromb Haemost 1: 2397-2403, 2003.
4) Schuster V, Hügle B, Tefs K: Plasminogen deficiency. J Thromb Haemost 5: 2315-2322, 2007.
著者
宮田 敏行 (国立循環器病研究センター)
田嶌 優子 (大阪大学 微生物病研究所)
関連用語