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用語集(詳細説明)

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虚血性心疾患と抗血小板療法
anti-platelet therapy in coronary artery diseases

解説

 虚血性心疾患、特に急性冠症候群(急性心筋梗塞、不安定狭心症)は、アテローム硬化病変の破綻に起因する血小板の粘着と凝集が初期病変であるアテロ-ム血栓症が進行し虚血症状を呈する。

 急性冠症候群治療の基本は、1)緊急を要する再環流療法による冠動脈病変の不動態化(安定化)と、2)残存する虚血巣の改善と血栓症の再発予防である。1)の再環流療法には、近年主に冠動脈インターベンション治療(ステント植え込み術)が行われている。また同時に2)の虚血巣の改善にはβブロッカー、亜硝酸剤、ACE阻害剤が用いられ、血栓の進行を止め急性血栓を溶解するためにアスピリンとチエノピリジンを用いた二剤併用抗血小板療法ヘパリンなどの抗凝固療法が標準的に実施されている。

 抗血小板療法は、血栓の再発リスクと冠動脈病変の進行を防ぐために長期間継続されている。アスピリンは、シクロオキシゲナーゼ(COX-1)をアセチル化することによりアラキドン酸からトロンボキサンA2(TXA2の産生を抑制し、血小板凝集を阻害する。アスピリンのCOX-1阻害作用は不可逆的であり血小板寿命(7~10日間)作用は持続する。
 虚血性心疾患におけるアスピリンの有用性は、多くの臨床試験により明らかとなっており、消化器系の出血性有害事象との関連から長期の服用には、81~100mg/日が至適投与量である。

 チエノピリジン系抗血小板薬には、第一世代チクロピジン、第二世代クロピドグレル、第三世代プラスグレルがある。いずれもプロドラッグであり、消化管から吸収後、肝臓の薬物代謝酵素チトクロームPにより酸化されて活性化体が生成され、血小板のP2Y12受容体に不可逆的に結合し抗血小板効果を発揮する。チクロピジンは、虚血性心疾患や脳梗塞の再発予防に使われたが、アスピリンとチクロピジンの二剤併用療法が経皮的冠動脈インターベンション後の血栓症の再発に有効であることが1996年に示された1)。チクロピジンには、発疹、白血球減少症、肝障害、稀に血栓性血小板減少性紫斑病の副作用があるため頻回の血液検査が必要である。クロピドグレルは、チクロピジンの副作用を軽減するために開発された。CAPRIE試験、CURE試験、CREDO試験など多くの試験で有効性が証明されて、現在最も頻用されているチエノピリジンである2)

 急性冠症候群での冠動脈インターベンション治療においては、12時間前にアスピリンとクロピドグレル初期負荷量300mgを投与、その後維持量75mg/日を投与することが標準治療になっている。クロピドグレルの薬効には個人差があり、薬物代謝酵素CYP2C19の遺伝子多型が関与しているクロピドグレル不応症(レジスタンス)として知られている。クロピドグレル不応症患者は、急性冠症候群に冠動脈インターベンション治療施行後の心血管イベントの発症のリスクが高くなるという報告が見られる。

 第三世代のプラスグレルは、CYP2C19の遺伝子多型の影響をうけずに、迅速に強力な抗血小板効果を発揮するチエノピリジンとして開発された。冠動脈インターベンションを施行した急性冠症候群患者を対象として欧米で施行されたプラスグレルとクロピドグレルを比較した大規模試験TRITON-TIMI38では、プラスグレル投与により虚血性心疾患イベントは減少するものの3)、TIMI大出血が若干上昇した。その結果欧米では出血リスクの高い患者での投与が制限事項となった。日本では、欧米用量の1/3のプラスグレル(初期負荷量20mg、維持用量3.75mg/日)で同様の比較試験が実施され、有効性はクロピドグレルより高く、出血の有害事象は同等であった4)。プラスグレルは、日本では欧米の1/3の用量で、冠動脈インターベンションを施行される虚血性心疾患に保険適応となっている。

図表

参考文献

引用文献

1) Schömig A, Neumann FJ, Kastrati A, Schühlen H, Blasini R, Hadamitzky M, Walter H, Zitzmann-Roth EM, Richardt G, Alt E, Schmitt C, Ulm K: A randomized comparison of antiplatelet and anticoagulant therapy after the placement of coronary-artery stents, N Engl J Med 334: 1084-1089, 1996.

2) Gurbel PA, Tantry US: Combination antithrombotic therapies. Circulation 121: 569-583, 2010.

3) Wiviott SD, Braunwald E, McCabe CH, Montalescot G, Ruzyllo W, Gottlieb S, Neumann FJ, Ardissino D, De Servi S, Murphy SA, Riesmeyer J, Weerakkody G, Gibson CM, Antman EM; TRITON-TIMI 38 Investigators: Prasugrel versus clopidogrel in patients with acute coronary syndromes. N Engl J Med 357: 2001-2015, 2007.

4) Saito S, Isshiki T, Kimura T, Ogawa H, Yokoi H, Nanto S, Takayama M, Kitagawa K, Nishikawa M, Miyazaki S, Nakamura M: Efficacy and safety of adjusted-dose prasugrel compared with clopidogrel in Japanese patients with acute coronary syndrome: the PRASFIT-ACS study. Circ J 78: 1684-1692, 2014.

著者

西川 政勝 (三重大学医学部附属病院臨床研究開発センター)

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