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用語集(詳細説明)

大分類:凝固

小分類:疾患


プロテインS欠乏症・異常症
protein S deficiency / abnormality

解説

【病態・病因】
 先天性プロテインS(PS)欠乏症は不完全浸透の常染色体優性遺伝形式で伝達される。主に若年性に発症する静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)の遺伝要因(先天性血栓性素因)の一つであるが、症状の程度は変異アレル由来PSタンパク質の機能異常によって異なる。ホモ接合体でPS活性が著しく減少している場合は新生児期に電撃性紫斑病を発症することがあるが、活性低下が軽度の場合はホモ接合体でも成人期まで無症状の場合もある。

【分類】
 Ⅰ型:遊離型PSとPS-C4b結合タンパク質(C4BP)複合体がともに減少、Ⅱ型:PSの活性化プロテインC(APC) コファクター活性のみが減少し遊離型・複合体型PSは正常、Ⅲ型:遊離型PSのみが減少、の3型に分類される。大家系の解析で同じ遺伝子型の表現型としてⅠ型とⅢ型が出現することが示され、Ⅰ型とⅢ型はPSタンパク質量低下、Ⅱ型がPS比活性(活性/タンパク質量)低下と考えられている。遊離型PS濃度が、PSだけでなくβ鎖を有するC4BP(C4BPβ+)の濃度によっても影響を受けることがⅢ型の要因と推定される。

【疫学】
 先天性PS欠乏症の頻度は欧米白人健常者約0.2%、VTE 症例約2%であるのに比べ、日本人ではそれぞれ1-2%、19-29%と著しく高い。その原因の一つとして、Ⅱ型PS欠乏症を呈するPS- Tokushima変異(p.Lys196Glu)の存在が考えられる。PS-Tokushima変異では第2EGFドメイン内のLys155がGluに 変化し、APCコファクター活性が野生型の約60%に低下する。PS-Tokushima変異のヘテロ接合体は日本人健常者の1.3-1.8%に存在し、 VTEのリスクを3.7-8.6倍上昇させる。

【検査と診断】
 スクリーニング検査では、凝固時間法による血漿PS活性、モノクローナル抗体を用いた遊離型PS濃度、総PS濃度が一般に測定される。遊離型PSのみがAPCコファクター活性を示すが、測定中に複合体型が解離することがあるためPS活性と遊離型PS濃度の診断特性が悪く、特にⅡ型欠乏症の診断を困難にしている。確定診断はPS遺伝子(PROS1)解析によってなされるが、相同性の高い偽遺伝子(PROSP)に注意する必要がある。報告されたPS遺伝子変異の6~7割がミスセンスおよびナンセンス変異であり、全エクソンにほぼ均等に分布している。

【治療の実際】
 VTE発症時の初期治療は、一般的な症例と同様に未分画ヘパリン(欧米では低分子量ヘパリン)や選択的Xa阻害薬が投与され、それに引き続きワルファリンの内服を開始する。少なくとも3ヶ月間のワルファリン投与が推奨されているが、以後の継続の有無は再発リスクを考慮して決定する。最近では、ワルファリンに代えて新規経口抗凝固薬が投与される場合もある。

【その他のポイント・お役立ち情報】
 PS欠乏症のVTE発症には、手術、悪性腫瘍、妊娠などの環境要因が影響する場合が多い。血中PS濃度は閉経前女性で低値であり、妊娠中・産褥期にはさらに低下するため、PS-Tokushima変異保因者ではVTEのリスクが高まる。最近、自動分析装置を用いたPS比活性測定系が開発され、PS-Tokushima変異などのⅡ型欠乏症の診断が容易になった。今後、PS欠乏症の発症前診断が容易となり、適切なVTE予防が実施されることが期待される。

図表

参考文献

1) 濱崎直孝:Protein Sの基礎と臨床,図説 血栓・止血・血管学.中外医学社,2005,456-463.

2) 津田博子:先天性プロテインC欠乏症と先天性プロテインS欠乏症,血液フロンティア 25(1):29-35,2015.

引用文献

著者

津田 博子 (中村学園大学栄養科学部)

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