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用語集(詳細説明)

大分類:凝固

小分類:機能分子


アネキシンA5
annexin A5

解説

【概要】
 アネキシンA5は動植物細胞に広く存在しているカルシウム依存性リン脂質結合タンパク質であるアネキシンファミリーの一員である。胎盤性凝固阻止物質として分離抽出され1-4)別個に命名されていたが(calphobindin I, lipocortin V, PAP-I, PP4, VAC-α)、cDNAおよびたんぱく質構造解析によりアネキシンA5の名称に統合された。胎盤絨毛細胞では細胞膜上とともに細胞内に局在を示すが、血管内皮細胞では主に細胞内に存在している。細胞膜を構成する陰性荷電のリン脂質(ホスファチジルセリン:PS)を覆うように強固に結合している。
 アネキシンA5の分子量は35.7~36kDaである。ヒト血中濃度は1.9±0.7 ng/mlとの報告がなされている5)。体循環では腎により速やかに排泄されアネキシンA5の半減期は動物実験において20分未満と考えられる6)

【構造と機能】
 一般的にアミノ末端側ドメインは16から60個のペプチドからなる可変部分と、それに続くカルボキシ末端側のドメインは約70アミノ酸残基からなるαヘリックスが5回繰り返した構造である。カルシウム結合部位やリン脂質結合部位はカルボキシ末端側のドメイン上にある。
 アネキシンA5の機能は陰性荷電リン脂質PSに結合することで最終的にトロンビン産生の抑制をする。PSは第VII因子の受容体である組織因子周囲にCa2+を介してプロトロンビン凝固第X因子を結合させ酵素反応を加速させる。アネキシンA5はこれら凝固因子より低いKd値によりPSに結合することで凝固因子のPSへの結合を阻害し凝固抑制する。生理的には細胞膜内層に存在するPSがアポトーシス、単球、血小板、血管内皮細胞の活性化により細胞膜外層に翻転露出(フリップフロップ現象:血小板ではtransmembrane protein 16Fが必須タンパク質であることが発見された)するとき、局所において凝固調節に関与していると考えられている。また、絨毛細胞やがん細胞などのようにPSが細胞膜外層に一部露出している場合も同様である。母体血に接する絨毛細胞では細胞膜上にアネキシンA5が存在することで抗血栓性を保っている。
 その他、フォスフォリパーゼA1やプロテインキナーゼCの抑制もin vitroの実験系で示されている。

【ノックアウトマウスの表現形】
 アネキシンA5ノックアウトマウスの系統は、致死的でなく生殖能も保たれ、明らかな表現型の変化は認められていない7)。ただ、アネキシンA5ノック・アウトマウス×アネキシンA5ノック・アウトマウス交配では野生型(Wild-Type:WT)と比較して有意な妊娠中の胎仔数の減少、新生仔体重の減少が報告されている。また、胎盤内血小板血栓を示す血小板マーカーインテグリンβ3/CD61がアネキシンA5ノック・アウトマウス胎盤で認められたとしている8)

【病態との関わり】
 アネキシンA5は妊娠における各種病態形成に深く関与していると考えられている。抗リン脂質抗体による胎盤絨毛細胞膜上アネキシンA5の防御機構の破綻が原因となり絨毛間腔でのトロンビン産生の亢進、過凝固状態が習慣流産、胎児発育遅延や妊娠高血圧症候群発症の一因となっているとする説が多い9)。抗リン脂質抗体のアネキシンA5への直接的結合による機能抑制やM2/アネキシンA5ハプロタイプによるアネキシンA5発現の減弱化が原因とする説が提唱されている10)

【その他のポイント・お役立ち情報】
 臨床的には生体内で生じているアポトーシスをテクネシウム99mアネキシンA5を投与することで可視化診断する試みがながらく行われてきている。移植された心臓の拒絶反応の早期診断に用いることや11)、最近ではがん細胞の治療後アポトーシスを評価することで効果判定をする試みもなされている。

図表

参考文献

1) 設楽芳宏:胎盤性血液凝固阻止物質の作用機序,日産婦誌 37,1,1985.

2) Funakoshi T, Heimark RL, Hendrickson LE, et al: Human placental anticoagulant protein: isolation and characterization. Biochemistry 26: 5572-5578, 1987.

3) Reutelingsperger CP, Kop JM, Hornstra G, Hemker HC: Purification and characterization of a novel protein from bovine aorta that inhibits coagulation. Inhibition of the phospholipiddependent factor-Xa-catalyzed prothrombin activation, through a high-affinity binding of the anticoagulant to the phospholipids. Eur J Biochem 173: 171-178, 1988.

4) Andree HA, Reutelingsperger CP, Hauptmann R, et al: Binding of vascular anticoagulant alpha (VAC alpha) to planar phospholipid bilayers. J Biol Chem 265: 4923-4928. 1990.

5) Matsuda R, Kaneko N, KikuchI M, Chiwaki F, Toda M, Ieiri T, Horikawa Y, Shimizu M, Shimamoto K: Clinical significance of measurement of plasma annexin V concentration of patients in the emergency room. Resuscitations 57: 171-177, 2003.

6) Romisch J, Seiffge D, Reiner G, Paques EP, Heimburger N: In-vivo antithrombotic potency of placenta protein 4 (annexin V). Thromb Res 61: 93-104, 1991.

7) Brachvogel, B. et al: Annexin A5 is not essential for skeletal development. Mol Cell Biol 23, 2907-2913, 2003.

8) Ueki H, Mizushina T, Laoharatchatathanin T, Terashima R, Nishimura Y, Rieanrakwong D, Yonezawa T, Kurusu S, Hasegawa Y, Brachvogel B, Pöschl E, Kawaminami M: Loss of maternal annexin A5 increases the likelihood of placental platelet thrombosis and foetal loss. Sci Rep 2: 827, 2012.

9) Shu F, Sugimura M, Kanayama N, Kobayashi H, Kobayashi T,Terao T: Immunohistochemical study of annexin V expression inplacentae of preeclampsia. Gynecol Obstet Invest 49: 17-23, 2000.

10) JH Rand: X-X. Wu, AS Quinn and DJ Taatjes The annexin A5-mediated pathogenic mechanism in the antiphospholipid syndrome: role in pregnancy losses and thrombosis. Lupus 19: 460-469, 2010.

11) Vriens PW, Blankenberg FG, Stoot JH, Ohtsuki K, Berry GJ, Tait JF, Strauss HW, Robbins RC: The use of technetium Tc 99m annexin V for in vivo imaging of apoptosis during cardiac allograft rejection. J Thorac Cardiovasc Surg 116: 844-853, 1998.

引用文献

著者

杉村 基 (浜松医科大学産婦人科家庭医療学講座)

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