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用語集(詳細説明)

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人工多能性幹細胞(iPS細胞)
induced pluripotent stem(iPS)cells

解説

1) iPS細胞の樹立
 京都大学の山中伸弥教授は多能性幹細胞の維持に関わる因子には多能性を誘導する活性があるのではないかと推測して24個の候補因子を選び、線維芽細胞に導入するという実験を行った。その結果、多能性幹細胞で働く遺伝子マーカーが陽性の細胞群が得られた。そして、24因子から因子を1つずつ除くことで必須の因子としてOct3/4, Sox2, Klf4, c-Mycの4因子を同定した。この細胞は分化多能性を示しinduced pluripotent stem(iPS)細胞と名付けられた。山中教授は2006年にマウスiPS細胞の樹立に、2007年にはヒトiPS細胞の樹立に、それぞれ成功している。

2) iPS細胞誘導技術の改良
 発生初期の桑実胚から樹立される多能性幹細胞であるES細胞とiPS細胞は同等の分化多能性を持ちながら体内の様々な体細胞から誘導できる。そのため胚を利用するという倫理的な問題を回避できる。さらに自身のiPS細胞を樹立して分化誘導させることで、拒絶反応の起きない自家移植が可能である。この2点はES細胞では克服できないiPS細胞の大きな利点である。これらのことから再生医療への応用が期待されている。そのためにiPS細胞誘導技術の改良も多くの取り組みがなされた。導入する因子に関しては代替する因子の組み合わせや効率を上昇させる補助因子が多数報告されている。導入方法に関しても発表当初はレトロウイルスベクターを用いていたが、様々な試みから、プラスミドベクターやトランスポゾン、センダイウイルスベクターといったゲノムに挿入されない因子の導入方法が開発されている。また、遺伝子導入ではなく低分子化合物によって作成する方法も検討されており、2013年にはマウスにおいて低分子化合物のみでiPS細胞を誘導したという報告がなされた(Hou P et. al. 2013 Science)。一方で作成効率を改善するという試みも多く、2009年には複数のグループからp53の不活性化の報告がなされ、2013年にはMbd3の不活性化により条件によっては100%近い効率でiPS細胞が誘導できるという報告がなされた(Rais Y et. al. 2013 Nature)。

3) ノーベル賞受賞
 生体内の多様な細胞はそれぞれその機能を発揮するために情報元のゲノムDNAを取捨選択しているのか、あるいはゲノムDNAは変わらずにその使い方が異なっているのか、という疑問の元に、分化した細胞の核と受精卵の核を入れ替えるという実験がJohn Gurdonによって1962年になされた。その結果、分化した細胞の核でも受精卵の中で発生を進行させることができ、体内の様々な細胞はゲノム情報の使い方を変えることで多様な機能を発揮しているということが明らかとなった。山中教授はこの初期化という現象をiPS細胞の樹立によって分子レベルで説明することに成功した。両者のこれらの功績に対して2012年にノーベル賞が授与されている。

4) 臨床応用
 iPS細胞を使った応用へむけた取り組みが具体化してきている。2014年に加齢性黄斑変性を対象とした初の臨床研究が理化学研究所、多細胞システム形成研究センターの高橋政代プロジェクトリーダーによって行われた。今後、パーキンソン病や脊髄損傷の治療に関しても臨床研究が検討されている。一方で、核を持たない血小板はがん化の恐れがなく安全性の確保へのハードルが比較的低く臨床応用への期待が高い。京都大学の江藤浩之教授はヒトiPS細胞から血小板の誘導に成功しており、実際に止血剤の生産という応用に向けての取り組みが進んでいる。さらに、生体外において病態を再現することにより治療薬の開発につなげようという応用の試みも多数行われている。京都大学の妻木範行教授はiPS細胞から軟骨無形成症のモデルを作成し、スタチンが病態を回復させることを見出している。

図表

参考文献

引用文献

1) Li Y, Zhang X, Liu C, Guan J, Li H, Zhao T, Ye J, Yang W, Liu K, Ge J, Xu J, Zhang Q, Zhao Y, Deng H: Pluripotent stem cells induced from mouse somatic cells by small-molecule compounds.Hou P1. Science. Aug 9: 341(6146): 651-654, 2013, doi: 10.1126/science.1239278. Epub 2013 Jul 18.

2) Rais Y, Zviran A, Geula S, Gafni O, Chomsky E, Viukov S, Mansour AA, Caspi I, Krupalnik V, Zerbib M, Maza I, Mor N, Baran D, Weinberger L, Jaitin DA, Lara-Astiaso D, Blecher-Gonen R, Shipony Z, Mukamel Z, Hagai T, Gilad S, Amann-Zalcenstein D, Tanay A, Amit I, Novershtern N, Hanna JH: Deterministic direct reprogramming of somatic cells to pluripotency. Nature. Oct 3; 502(7469): 65-70, 2013, doi: 10.1038/nature12587. Epub 2013 Sep 18.

著者

永松 剛 (九州大学 医学研究院 応用幹細胞医科学部門 ヒトゲノム幹細胞医学分野)

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