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用語集(詳細説明)

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メタボリック症候群と線溶
 

解説

【病態・病因】
 メタボリック症候群の背景にある病態は、内臓脂肪の過剰な蓄積であり、その定義は、内臓脂肪型肥満に、高血糖・高血圧・脂質異常症のうち2つ以上を合併した状態である。これらの因子は相乗的に動脈硬化性疾患を増加させる危険因子であり、その予防のために治療対象として定義された。
 内臓脂肪の過剰な蓄積は、脂肪細胞の融解(lipolysis)によって放出される遊離脂肪酸がToll様受容体4を刺激する結果、脂肪組織の慢性炎症を引き起こし、高インスリン血症、インスリン感受性の低下をもたらす。脂肪の慢性炎症は、交感神経系、レニンーアンギオテンシン系を活性化させ、炎症性のアディポカイン(脂肪由来のサイトカイン)である腫瘍壊死因子(TNF)-α、インターロイキン(IL)-1、IL-6を増加させる一方、抗炎症性アディポカインであるアディポネクチンを減少させる。これらの因子はすべてプラスミノゲンアクチベータインヒビター1(plasminogen activator inhibitor 1, PAI-1)の発現を強く誘導する。
 線溶系の主要な阻害因子であるPAI-1は、血栓形成部位において組織型プラスミノゲンアクチベータ(tPA)ウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ(uPA)の阻害によりプラスミン生成を抑制し、線溶亢進による出血傾向を防ぐ生理作用を有するセリンプロテアーゼインヒビターである。しかしいったん生体に炎症が起こるとその発現は著明に増強し、過剰になると線溶抑制により血栓傾向が招来される。PAI-1は血管平滑筋細胞血管内皮細胞にて発現しているが、炎症により血管局所でのPAI-1発現が増加するとフィブリン血栓の増大を招くだけでなく、細胞外マトリックスの溶解を阻害して血管壁への沈着を促し動脈硬化病変を進展させると考えられる。またPAI-1は脂肪細胞(特に内臓脂肪細胞)からも分泌されるアディポカインのひとつであり、肥満や高脂血症をともなうメタボリック症候群患者およびその予備群においては血中PAI-1濃度の増加を認め、それが血栓症発症の引き金になっていると推測される。
 このように血栓傾向および血管病変の増悪因子として重要なPAI-1の発現は、メタボリック症候群として包括される種々の病態(肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧)において著明に亢進しており、これがメタボリック症候群における血栓症発症の一要因になっていると推測される。PAI-1は血栓症発症の危険度を評価するよい指標になり得ると考えられるが、一方でPAI-1中和抗体、PAI-1阻害薬やRNAiを用いたPAI-1発現制御がメタボリック症候群における血栓症予防に有効である可能性がある。

【疫学】
 厚生労働省発表の「平成19年 国民健康・栄養調査の概要」によると、40~74歳でメタボリック症候群に該当する人は約1,070万人、その予備群は約940万人にのぼる。メタボリック症候群およびその予備群は、40~74歳で合わせて約2,010万人と推定される。20歳以上で「メタボリック症候群が強く疑われる人」に該当者の比率は、男性26.9%、女性9.9%、予備群と考えられる人の比率は、男性22.5%、女性7.3%で、20歳以上の男性の2人に1人、女性の6人に1人が「メタボリック症候群が強く疑われる人」あるいはその予備群に該当する。

【検査と診断】
 図の診断基準を参照のこと。

【治療の実際】
 メタボリック症候群の治療目標は、これによって引き起こされる動脈硬化の発生・進展防止である。したがってメタボリック症候群の病態そのものである脂肪蓄積の進行防止・解消を目的に、食事療法による摂取カロリーの適正化と、脂肪燃焼を促す目的での運動療法が基本となる。実際にカロリー制限で脂肪における炎症性アディポカインとPAI-1の減少も報告されている。更に、食事・運動といった生活習慣の改善により解消されない危険因子(耐糖能異常、脂質代謝異常、高血圧など)に対しては薬物療法を並行して実施する場合もある。また、動脈硬化の危険因子である喫煙について、禁煙指導をおこなう。

図表

図 メタボリックシンドローム 診断基準

図 メタボリックシンドローム 診断基準

参考文献

1) Siklova-Vitkova M, Klimcakova E, Polak J, Kovacova Z, Tencerova M, Rossmeislova L, Bajzova M, Langin D, Stich V: Adipose tissue secretion and expression of adipocyte-produced and stromavascular fraction-produced adipokines vary during multiple phases of weight-reducing dietary intervention in obese women. J Clin Endocrinol Metab 97: E1176-1181, 2012.

引用文献

1) 厚生労働省 平成19年国民健康・栄養調査結果の概要について

2) 日本内科学会雑誌第94巻第4号:794-809.

著者

竹下 享典

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