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用語集(詳細説明)

大分類:血小板

小分類:病態


癌転移と血小板
 

解説

 ある種の癌細胞は血小板凝集を惹起して、次のような機序で癌の増殖や転移を促進すると考えられている。
1)活性化血小板から放出されたTGFβにより、上皮系の癌細胞に上皮間葉移行(epithelial-mesenchymal transition; EMT)が生じ、浸潤能が亢進する。
2)血流中で、活性化血小板が腫瘍細胞に粘着することで、ずり応力や免疫細胞から癌細胞が守られる。
3)血管外浸潤の足場を提供する。
4)活性化血小板から放出された血管新生因子や増殖因子が、腫瘍血管新生や癌細胞の増殖を促進する。
 2)の機序に関しては、(追加)血小板と癌細胞が接触することで膜融合が生じ、血小板上のMHC class Iが癌細胞に移り、NK 細胞により自己と認識され、攻撃を免れるという機序も提唱されている1)

 癌細胞が血小板を活性化する機序としては、癌細胞が放出するトロンビンアデノシン二リン酸(ADP)、癌細胞上の何らかのタンパク性の血小板活性化因子などがある。癌細胞表面のタンパク性の血小板活性化因子の一つに、タイプIのシアロムチン様膜糖タンパクであるポドプラニンが知られている。ポドプラニンは扁平上皮癌、セミノーマ、脳腫瘍、中皮腫などに発現する。ポドプラニンの発現は脳腫瘍の悪性度や扁平上皮癌の転移や進行と相関することが報告されている2)。ポドプラニンは血小板活性化受容体C-type lectin-like receptor 2 (CLEC-2)と結合して血小板を活性化し、癌の血行性転移を促進している。ポドプラニンの N 末端にあるplatelet aggregation-stimulating (PLAG)ドメインが、CLEC-2との結合や血小板活性化に必須である3)
 Rothwellらは、心血管イベントに対するアスピリンの効果を調査する大規模臨床研究の参加者17,285人のうち、追跡期間中に固形がんを発症した人の転移を調査したところ、アスピリンにより遠隔転移と癌死亡が低下したと報告している4)

図表

癌転移と血小板

癌転移と血小板

参考文献

1) 井上克枝:癌と血小板,高久史麿,小澤敬也,坂田洋一,金倉譲,小島勢二編集,Annual Review 血液 2010.中外医学社,168-175,2010.

引用文献

1) Placke T, Örgel M, Schaller M, Jung G, Rammensee HG, Kopp HG, Salih HR: Platelet-derived MHC class I confers a pseudonormal phenotype to cancer cells that subverts the antitumor reactivity of natural killer immune cells. Cancer Res 72: 440-448, 2012.

2) Tsuruo T, Fujita N: Platelet aggregation in the formation of tumor metastasis. Proc Jpn Acad, Ser B, Phys Biol Sci 84: 189-198, 2008.

3) Kato Y, Kaneko MK, Kunita A, Ito H, Kameyama A, Ogasawara S, Matsuura N, Hasegawa Y, Suzuki-Inoue K, Inoue O, Ozaki Y, Narimatsu H: Molecular analysis of the pathophysiological binding of the platelet aggregation-inducing factor podoplanin to the C-type lectin-like receptor CLEC-2. Cancer Sci 99: 54-61, 2008.

4) Rothwell PM, Wilson M, Price JF, Belch JF, Meade TW, Mehta Z: Effect of daily aspirin on risk of cancer metastasis: a study of incident cancers during randomised controlled trials. Lancet 379: 1591-1601, 2012.

著者

井上 克枝 (山梨大学大学院総合研究部医学域臨床検査医学)

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