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用語集(詳細説明)

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肝中心静脈閉塞症(VOD)
hepatic veno-occlusive disease(VOD)

解説

1)病態・病因
 おもに同種造血細胞移植後に生じる重篤な合併症の一つで,有痛性の肝腫大,黄疸,非心原性の浮腫などを臨床的な特徴とする。肝障害誘発薬物であるモノクロタリンを用いた動物モデルの研究結果から,肝類洞内皮細胞が障害を受け,2次的に肝中心静脈が閉塞を来すことが示唆され,現在では類洞閉塞症候群(sinusoidal obstruction syndrome: SOS)の呼称が一般的に用いられるようになった1)。肝中心静脈周囲のゾーン3と呼ばれる領域は,薬物の解毒作用を有するグルタチオンの量が少ない。そのために,中心静脈近傍の類洞内皮細胞は,前処置に用いられる抗癌剤により比較的容易に細胞傷害を受けやすいと推測されている。類洞内皮細胞傷害を惹起する抗癌剤は多岐に及ぶ。起因薬として,移植前処置にも用いられるアルキル化薬であるブスルファンやサイクロフォスファミドがよく知られているが,その他,カルシニューリン阻害剤,炎症性サイトカインなどもSOSを惹起する。重症例では、類洞や静脈内のフィブリン沈着,線維芽細胞増殖,細胞外マトリックスへのコラーゲン沈着が起こり,類洞が閉塞され,門脈高血圧症,肝腎症候群,そして多臓器不全に陥る。

2)疫学
 SOSの発症頻度や重症度は,患者背景,前処置,移植ソースなどの移植方法や診断基準の違いによって大きく影響を受ける。多施設前向き研究結果によると,同種造血細胞移植での発症率は8%,自家造血細胞移植では3%と報告されている。また,骨髄破壊的前処置による同種移植での発症率は約10%であるが,骨髄非破壊的前処理による同種移植では2%未満と低値である。

3)検査と診断
 SOSの確定診断には肝生検による病理組織学的検査が必要であるが,通常は臨床的な徴候である1)有痛性肝腫大,2)総ビリルビンの増加,3)腹水貯留を伴う体重増加により診断される。SOSの診断には,SeattleグループのMcDonaldらの診断基準とBaltimoreグループのJonesらの診断基準が知られているが,いずれも特異度は高いが感度が低いとされる。(表)

4)治療の実際
 SOSに対する有効な治療法は確立されていないため,現時点では,支持療法,抗凝固療法,線溶療法が中心となる。近頃英国から造血細胞移植後のSOS診療ガイドラインが発表された4)。それによると,未承認薬にもかかわらず,他に有効な治療薬が存在しないため,哺乳動物の腸粘膜由来の1本鎖デオキシリボ核酸の複合物からなるデフィブロチドの使用が推奨されているが日本では使用できない。

5)その他のポイント・お役立ち情報
 SOSの発症は内皮細胞障害に起因しているため凝固異常を合併していることが多い。日本で2008年から発売されている抗播種性血管内凝固症候群(DIC)遺伝子組換えトロンボモジュリン(rTM)製剤は抗凝固作用に加え,抗炎症作用と血管内皮細胞保護作用を併せ持つユニークな薬剤である。近年,複数の施設からSOSに対するrTMの有効性が論文報告されている。

図表

診断基準

診断基準

参考文献

1) 池添隆之:造血幹細胞移植後の血栓性病態.臨床に直結する血栓止血学初版,2013,260-266.

引用文献

1) DeLeve LD, Ito Y, Bethea NW, McCuskey MK, Wang X, McCuskey RS: Embolization by sinusoidal lining cells obstructs the microcirculation in rat sinusoidal obstruction syndrome. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 284: G1045-1052, 2003.

2) McDonald GB, Hinds MS, Fisher LD, Schoch HG, Wolford JL, Banaji M, Hardin BJ, Shulman HM, Clift RA: Veno-occlusive disease of the liver and multiorgan failure after bone marrow transplantation: a cohort study of 355 patients. Ann Intern Med 118: 255-267, 1993.

3) Jones RJ, Lee KS, Beschorner WE, Vogel VG, Grochow LB, Braine HG, Vogelsang GB, Sensenbrenner LL, Santos GW, Saral R: Venoocclusive disease of the liver following bone marrow transplantation. Transplantation 44: 778-783, 1987.

4) Dignan FL, Wynn RF, Hadzic N, Karani J, Quaglia A, Pagliuca A, Veys P, Potter MN; Haemato-oncology Task Force of British Committee for Standards in Haematology; British Society for Blood and Marrow Transplantation: BCSH/BSBMT guideline: diagnosis and management of veno-occlusive disease (sinusoidal obstruction syndrome) following haematopoietic stem cell transplantation. Br J Haematol 163: 444-457, 2013.

著者

池添 隆之

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