用語集(詳細説明)
解説
概要
プラスミノゲンは
フィブリンと結合するだけではなく、細胞表面にある様々な受容体と結合する。これらの受容体は
プラスミンを細胞表面にとどめ、炎症、血栓、腫瘍などに関与する。
プラスミノゲンアクチベータインヒビター1(PAI-1)は組織では
ウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ(uPA)を阻害することで細胞外基質の分解を抑制する。炎症と
線溶系の関係は炎症に関与する液性因子による線溶系因子発現への影響と、線溶系因子が炎症に及ぼす影響を考慮する。PAI-1は血管内皮細胞や平滑筋細胞に豊富に発現している。急性炎症ではインターロイキン(IL)-1や腫瘍壊死因子(TNF)などの
サイトカインによりPAI-1発現が誘導されて局所の線溶能は低下し血栓の増大や、細胞外マトリックス分解の低下により動脈硬化を促進する。脂肪細胞もPAI-1を発現し、肥満やメタボリック症候群における血中PAI-1の増加に関わる。
プラスミノゲン受容体と炎症
細胞表面にある
プラスミノゲン受容体には
アネキシンA2とS100A10 のヘテロ四量体、エノラーゼ(enolase)1、ヒストン(histone)H2B、Plg-RKT等がある。これら受容体はプラスミンを細胞表面にとどめ、炎症、血栓、腫瘍を含む様々な生命現象に関与する。
アネキシンA2とS100A10 のヘテロ四量体
S100A10 はC末端にリジン残基をもちプラスミノゲンアクチベーター、プラスミン、プラスミノゲンと結合しうる。細胞内ではほとんどはアネキシンA2とともに存在し、炎症刺激によりアネキシンA2とS100A10 のヘテロ四量体の形成は亢進し、細胞表面へ移動する。細胞表面でヘテロ四量体によりプラスミノゲンは活性化する。
エノラーゼ1
エノラーゼ1はピルビン酸塩生成に関わる酵素である一方、単球、T細胞、B細胞、
血管内皮細胞などでプラスミノゲン受容体として働く。炎症刺激などでエノラーゼ1は細胞質から細胞表面へ移動する。エノラーゼ1との結合によりプラスミンは活性化される。
ヒストンH2B
ヒストンH2Bはヌクレオソームを構成する4種類のコアヒストンの一つである一方、膜タンパクでもあり単球やリンパ球でプラスミノゲン受容体として働く。炎症刺激で単球が活性化するとL型Caチャネルにより細胞内Caイオンが動員されH2Bは細胞表面に移動する。プラスミノゲンの活性化は単球や
マクロファージの集積に関わる。
Plg-RKT
Plg-RKT は2010年に報告されたC末端にリジン残基をもつプラスミノゲン受容体で膜貫通型のタンパクで、プラスミノゲンアクチベータ、プラスミノゲンを共局在化する。ヒトの末梢血の単球、リンパ球、顆粒球などにあるものの赤血球にはみられない。
病態との関わり
細胞表面でプラスミノゲン受容体として働く可能性のあるタンパク質は局所のタンパク融解を制御し、炎症に重要な働きをしている。血栓形成‐溶解プロセスと炎症の病態の関連の解析がさらに進めば、炎症の制御、自己免疫疾患、腫瘍など病態における新しい薬物の開発に役立つことが期待される。
図表
参考文献
1) Suzuki Y, Yasui H, Brzoska T, Mogami H, Urano T: Surface-retained tPA is essential for effective fibrinolysis on vascular endothelial cells. Blood 118: 3182-3185, 2011.
2) 西條美佐他:向血栓傾向の基盤としての脂肪組織の慢性炎症,血栓止血誌 26巻3号:290-296,2015.
引用文献
著者
藤井 聡 (旭川医科大学臨床検査医学講座)
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