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用語集(詳細説明)

大分類:線溶

小分類:病態


創傷治癒と線溶
wound healing and Fibrinolysis

解説

【概要】
 創傷治癒の過程は止血、急性炎症、肉芽組織が形成される増殖期、リモデリング期に大きく分けられ、それぞれの過程がオーバーラップしながら経過する。創傷治癒における線溶系の役割は組織損傷後の早期にみられる炎症反応からリモデリング期に至るまで、多岐にわたる。これまでに、線溶系は創傷治癒においてフィブリンや細胞外基質の分解以外にも、ケラチノサイトや炎症性細胞の遊走、細胞外マトリックスに存在する成長因子の遊離やそれらの活性の調節、血管新生に寄与するものと考えられている。これらの線溶系の作用には、プラスミンが潜在型マトリックスメタロプロテイナーゼ(proMMP)をMMPへ活性化する間接的な機構と、線溶系因子による直接的な機構が知られる。線溶系は皮膚の他、肝臓、心筋、骨格筋、鼓膜、骨などの組織修復に寄与することが報告されている(参照:「組織線溶・細胞線溶」)。

【プラスミノゲン】
 プラスミノゲンは主に肝臓で産生され循環血中に存在するが、組織創傷部ではプラスミノゲンレベルが上昇することが知られる。ヒトのプラスミノゲン欠乏症では創傷治癒が遅延するが、lys-プラスミノゲンの静注が有効であった症例が報告されている。また、プラスミノゲン欠損マウスでは皮膚の創傷部においてケラチノサイトの遊走とフィブリンの分解が抑制され治癒が遅延する。このプラスミノゲン欠損による創傷治癒遅延はフィブリノゲン欠損によって回復することから、皮膚の創傷治癒におけるプラスミノゲンの主要な役割は創傷部のフィブリン分解であるとする成績が報告されている。

【プラスミノゲン活性化因子とPAI-1】
 ヒトやマウスの創傷治癒過程において、ケラチノサイトや線維芽細胞組織型プラスミノゲンアクチベータ(tPA)ウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ(uPA)ウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ受容体(uPAR)プラスミノゲンアクチベータインヒビター1(PAI-1) を発現することが報告されている。uPAまたはtPAをそれぞれ単独に欠損したマウスでは皮膚の創傷治癒はわずかに遅延するのみであるが、両因子を同時に欠損したマウスでは創傷治癒が著明に遅延する。また、uPARの欠損では皮膚の創傷治癒に変化がないことから、生体内においてuPAはuPAR非依存性の機構によってプラスミノゲンを活性化して皮膚の創傷治癒に寄与するものと考えられている。

 マウスではPAI-1欠損によって創傷治癒が促進することからPAI-1は創傷治癒において抑制的に機能すると考えられてきたが、近年、ヒトのPAI-1欠損症では創傷治癒が遅延することが報告されている (1)。

【病態との関わり】
 難治性創傷である静脈性の下腿潰瘍では、潰瘍部における線溶系の促進が報告されている。また、マウスにおいてプラスミノゲンの投与が糖尿病病態での創傷治癒遅延を回復することが報告されている (2)。

図表

参考文献

引用文献

1) Iwaki T, Tanaka A, Miyawaki Y, Suzuki A, Kobayashi T, Takamatsu J, Matsushita T, Umemura K, Urano T, Kojima T, Terao T, Kanayama N: Life-threatening hemorrhage and prolonged wound healing are remarkable phenotypes manifested by complete plasminogen activator inhibitor-1 deficiency in humans. J Thromb Haemost 9: 1200-1206, 2011.

2) Shen Y, Guo Y, Mikus P, Sulniute R, Wilczynska M, Ny T, Li J: Plasminogen is a key proinflammatory regulator that accelerates the healing of acute and diabetic wounds. Blood 119: 5879-5887, 2012.

著者

河尾 直之

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