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用語集(詳細説明)

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静脈血栓塞栓症(VTE)
venous thromboembolism(VTE)

解説

1)病態・病因
 深部静脈血栓症(deep venous thrombosis: DVT)と肺動脈塞栓症(pulmonary embolism: PE)をあわせた疾患概念である。DVTは腸骨静脈、大腿静脈、鎖骨下静脈等の深部静脈に血栓ができることである。PEは肺血栓塞栓症とも言われ、深部静脈の血栓が遊離し、血流に流され、右心房・右心室を通り、肺動脈に塞栓となり肺血栓塞栓症になる。DVTが原因でPEとなるため、それを一つの疾患概念として静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)という。
 DVTの原因は多岐にわたる。Virchowの3徴、すなわち、血流のうっ滞、血管内皮細胞障害、過凝固状態が原因となり発生する。具体的には、手術(特に整形外科手術後の発症率が高い)、長期臥床、悪性疾患、妊娠、経口避妊薬服用、血栓性素因等(プロテインC異常症/プロテインS異常症抗リン脂質抗体症候群など)が原因となるが、単一の原因で発症することはまれで、様々な危険因子が重なり発症すると考えられている。近年では、長時間の飛行機旅行で同じ姿勢をすることで発生するため「エコノミークラス症候群・旅行者血栓症」とも呼ばれている。

2)疫学
 人口100万人あたりの急性PE発症率は1996年に28人であったのが2006年で62人となり2.25倍に増加している。米国と比較すると頻度は1/8程度となる。日本麻酔科学会のアンケート調査によるVTE発症率のデータでは手術1万件あたり2~3となっている。

3)検査と診断
 VTEの臨床症状はDVTとPEの症状に分けられる。DVTの症状は下肢の腫脹・疼痛が主なものであるが、無症候性のものも多数あり、それがPEを発症しやすい。PEも無症候性のものが大多数を占めるが、呼吸苦、胸痛、動悸、欠神等あるが、突然死の原因となることが最も重要な点である。Ota1)らによると急性PEのうち43%が1時間以内に死亡しており、本疾患においてはPEの治療よりDVTの予防が重要である。
 これまで肺動脈造影がPEの診断のgold standardであったが、最近は造影ヘリカルCTの解像度が良くなっているためPEを疑ったときの第一選択となっている。下肢DVTに関してもCTは有用であるが、ヒラメ静脈等の下腿の血栓の検索にはエコーが適している。血中Dダイマー値は正常値であれば肺血栓塞栓症の除外診断に有用で感度は高いが、髙値であっても疾患特異性は低い。

4)治療の実際2)
 VTEの治療は早期治療が重要。抗凝固療法と血栓溶解療法を出血リスクを考慮した上で選択するのが原則である。ショック症例では心肺蘇生を行うと共に経皮的心肺補助装置(PCPS)を装着する。広範囲型PEは外科療法の適応となる場合がある。循環状態の不安定症例で血栓溶解療法が保険適応となっているが、術後症例などで出血に注意をする必要がある。またそのような症例に対してカテーテルを用いた血栓溶解療法や血栓粉砕・吸引術なども行われる。抗血栓療法ができない症例・中枢型のDVT症例等では下大静脈フィルター挿入の適応がある。フィルターには永久留置型と非永久留置型(一時留置型と回収可能型)があり目的に応じて使い分ける。

図表

参考文献

引用文献

1) Ota M, Nakamura M, Yamada N, Yazu T, Ishikura K, Hiraoka N, Tanaka H, Fujioka H, Isaka N, Nakano T: Prognostic significance of early diagnosis in acute pulmonary thromboembolism with circulatory failure. Heart Vessels 17: 7-11, 2002.

2) 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2009年改訂版) 2008年度合同研究班報告 http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2009_andoh_h.pdf

著者

池田 正孝 (国立病院機構 大阪医療センター 外科)

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