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用語集(詳細説明)

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周術期の線溶系と抗線溶療法
 

解説

1.線溶について
 線溶とは線維素溶解の略称であり、線維素とはフィブリンを指す。先行するフィブリン血栓形成に対して、これを分解しようと活性化する線溶反応を二次線溶、フィブリン産生とは関連なく何らかの理由で線溶系が活性化し、プラスミン産生が亢進した状態を一次線溶と呼ぶ。周術期の線溶では二次線溶が主体となる。

2.周術期の線溶
 生理的条件下では組織型プラスミノゲンアクチベータ(tPA)プラスミノゲンを限定分解してプラスミンを生成する反応はほとんど起きない。しかし、血管損傷が生じると損傷部位でフィブリン血栓を生じるとともに周囲の血管内皮細胞などからtPAが放出される。フィブリン血栓が生じると、フィブリン分子中のリジンに高い親和性を持つtPAとプラスミノゲンがフィブリン分子上に結合し、フィブリン血栓上で効率よくプラスミン産生が生じる(図1)。
 図2に人工心肺中の線溶系因子の変化を示すが、人工心肺を開始すると炎症刺激や虚血刺激によってtPAの血中濃度は急速に上昇するが、tPA濃度が上昇しても、速やかにプラスミンα2アンチプラスミン複合体(PAP)の濃度(プラスミン活性を反映)が上昇しているわけではない。むしろ、時間経過とともに進行するトロンビン産生によって生じた可溶性フィブリンの動態に呼応してPAPは上昇し、それとともにDダイマーの濃度も上昇している。このように、手術侵襲によってtPAの血中濃度は上昇するが、必ずしもプラスミン活性の上昇につながるわけではなく、フィブリン産生が進行するとより効率的にプラスミン活性は上昇する。術後の線溶系マーカーは術後3日から1週間をピークとして上昇し、その後は1~2週間程度で正常値まで低下する。

3.病的線溶をきたしやすい病態
 二次線溶は生理的現象だが、プラスミンによるフィブリン分解が病的(止血異常)となるか否かは線溶制御因子とのバランスに依存する。周術期異常線溶の多くはプラスミン活性に対しα2プラスミンインヒビター(α2PI)活性が低下した状態(大量出血や大動脈瘤手術、重症肝疾患など)で生じ、フィブリン分解(場合よってはフィブリノゲン分解も生じる)から出血傾向となる。また、α2PI活性が正常であってもプラスミン産生が異常亢進した状態(tPA製剤投与やtPA産生腫瘍など)ではフィブリノゲンの分解によって出血傾向となりうる。

4.抗線溶療法
 トラネキサム酸はプラスミノゲンのリジン結合部位に結合し、フィブリンへの結合を阻害することによってフィブリン血栓上でのプラスミン産生を抑制する。トラネキサム酸の効果は必ずしも血中濃度に依存せず、投与量・投与方法は疾患や術式によって異なるが、腎排泄なので腎機能低下例では血中濃度の上昇に留意が必要である。近年、心臓外科手術での術後痙攣とトラネキサム酸大量投与の関連が報告されている(1)。

図表

<b>図1 血管損傷部位でのプラスミン産生 </b><br>プラスミノゲン(PNG)と組織型プラスミノゲンアクチベータ(tPA)によるプラスミン(PMN)産生は血管損傷部位に形成されたフィブリン血栓上で効率よく起こる。一方、液相中に遊離したプラスミンはα<sub>2</sub>プラスミンインヒビター(α<sub>2</sub>PI)によって阻害され、その活性が局所に限局するように調節を受けている。また、α<sub>2</sub>PIはフィブリン上に固相化され、フィブリン分解を抑制している。

図1 血管損傷部位でのプラスミン産生
プラスミノゲン(PNG)と組織型プラスミノゲンアクチベータ(tPA)によるプラスミン(PMN)産生は血管損傷部位に形成されたフィブリン血栓上で効率よく起こる。一方、液相中に遊離したプラスミンはα2プラスミンインヒビター(α2PI)によって阻害され、その活性が局所に限局するように調節を受けている。また、α2PIはフィブリン上に固相化され、フィブリン分解を抑制している。

<b>図2 人工心肺中のトロンビン活性および線溶系因子の変化</b><br>人工心肺中はヘパリンの使用にも関わらず時間経過とともにトロンビン活性が上昇し、可溶性フィブリンの濃度も上昇する。tPAは人工心肺開始後速やかに上昇するが、プラスミン活性は時間経過とともに徐々に上昇する。プラスミン活性の変化は必ずしもtPAの変化に呼応しているわけではなく、むしろ可溶性フィブリンの上昇に伴ってプラスミン活性も上昇する。(J Anesth 2010; 24:96-106より引用)

図2 人工心肺中のトロンビン活性および線溶系因子の変化
人工心肺中はヘパリンの使用にも関わらず時間経過とともにトロンビン活性が上昇し、可溶性フィブリンの濃度も上昇する。tPAは人工心肺開始後速やかに上昇するが、プラスミン活性は時間経過とともに徐々に上昇する。プラスミン活性の変化は必ずしもtPAの変化に呼応しているわけではなく、むしろ可溶性フィブリンの上昇に伴ってプラスミン活性も上昇する。(J Anesth 2010; 24:96-106より引用)

参考文献

1) Lecker I, Wang DS, Romaschin AD, Peterson M, Mazer CD, Orser BA: Tranexamic acid concentrations associated with human seizures inhibit glycine receptors. J Clin Invest 122: 4654-4666, 2012.

引用文献

1) Ide M, Bolliger D, Taketomi T, Tanaka KA: Lessons from the aprotinin saga: current perspective on antifibrinolytic therapy in cardiac surgery. J Anesth 24: 96-106, 2010.

著者

香取 信之 (慶應義塾大学医学部 麻酔学教室)

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