日本血栓止血学会
血友病部会
日本血栓止血学会 学術専門委員会 血友病標準化検討部会
ミニシンポジウム 「血友病補充療法の方向性」
開催日:平成13年11月22日 国立京都国際会館、午後4:30〜6:30
−議事録−
血友病標準化検討部会のミニシンポジウムは、表1に示すように88名の参加者により、活発な討議が行われた。 今回は、最近の第VIII因子製剤の供給不足問題に関連した血友病補充療法の方向性について5題の演題が報告され、意見が取り交わされた。
発表の概要
1. 血友病標準化検討部会の目的と活動状況(東京医科大学 臨床検査医学助教授 新井盛夫)
2. 本邦における第VIII因子製剤の供給状況(東京医科大学 臨床検査医学主任教授 福武勝幸)
3. 免疫寛容導入療法の動向(奈良県立医科大学小児科教授 吉岡 章)
4. 血友病予防投与の現状(聖マリアンナ医科大学小児科助教授 瀧 正志)
5. 血友病補充療法における適正投与量の考え方(奈良県立医科大学小児科助教授 嶋 緑倫)
1. 血友病標準化検討部会の目的と活動状況(東京医科大学 臨床検査医学助教授 新井盛夫)
本検討部会の設置の経緯活動目的、活動方法が示された。 ワーキンググループとして、血友病ITI小委員会(委員長:奈良県立医科大学小児科の吉岡章教授) と血友病診療連携(幹事:東京医科大学臨床検査医学の福武勝幸教授)が挙げられた。今後の血友病医療においては、 医療者、製薬企業、患者、行政の4者間のオープンでバランスのとれた相互関係の構築が重要であるとした。
2. 本邦における第VIII因子製剤の供給状況(東京医科大学 臨床検査医学主任教授 福武勝幸)
厚生労働省の資料などから4社の第VIII因子製剤について供給状況の推移と推定在庫量が示された。 コージネイトの不足分をどの製剤へ振り分けるかによって平成14年以降の各社の在庫量がどう変化 するかについての推測が示された。コージネイトの在庫が完全に無くなった場合の毎月200万単位の 不足は全体の使用量の10%に相当し、現状の予測ではコンファクトFに切り替えていくことができれば 最も市場への影響が少ない方法であるとした。また現状の第VIII因子製剤の消費を続けると製剤の 備蓄量が減少するため使用量は削減していく必要性があることが述べられた。
質疑応答
白幡 今日の福武先生の前半の資料を中心になっておまとめ頂いた、厚生労働省の血液対策課の西田先生がいらしています。何かコメントはございませんでしょうか。
西田(厚労省) ご説明がありました通りで、現段階では、バイエル社の製品が入ってくる見こみはないと いう状況が続いております。厚労省からは、国内のメーカー、主に日赤と化血研に最大限の増産をお願いしております。 献血のほうも、9月には大臣自ら街頭に立って成分献血のお願いをするなど、原料血漿の確保にも最大限の努力をしております。 現在、日本赤十字社の分画センターでは、ほぼ最大限の生産量を出して頂いております。または、化血研でも、 できるかぎりの生産をして頂いている状況にあります。したがいまして、これ以上の量を供給することは、 なかなかむずかしいと思われます。生産開始してから製品化されるのには約半年かかりますので、ある程度の増減はあります。 この先の供給量については日赤のクロスエイトMをこれ以上出すのは無理なので、安定供給という観点から、 現段階ではコンファクトFにシフトしないと乗り切れないのではないかと思います。私どもの推計では、来年中は、 4社合わせた全体の量はなんとか維持できると考えておりますが、あくまでも4社合わせた供給量と需要量を予測した場合の話で ございますので、 各社個別にいきますと、かなりタイトな状況がくると思われます。 解決策としては、化血研の製品がまだ余裕がございますので、 コンファクトFにシフトしていただくしかないのではないかと考えております。
白幡 今日は製薬会社の方にも御参加いただいておりますが、今後の在庫量のシミュレーションに関して何か御追加ありますでしょうか。
横山(バイエル薬品) バイエル薬品でコージネイトのプロダクトマネージャーしております横山と申します。 福武先生からご提示いただきました内容、また、厚生労働省からいただきました資料に加えまして、 11月以降でございますけれども、コージネイト500単位が1万本、追加で入荷致しましたので、 ここでご報告させていただきます。
福武 確認させていただきたいことですが、500単位が1万本で、500万単位ということですね? 今のコージネイトの出荷は300万単位/月ですから、1.5ヶ月分くらいの量が追加されるということですが、これは確定と考えてよろしいでしょうか。
横山 現在国内の試験中でございまして、結果はまだ頂いておりません。
福武 それでは確定するだろうという程度に理解いたします。そうすると来年の5月、6月というのが1.5ヶ月位は、猶予が伸びて、 6月、7月になる感覚です。今から半年くらい先の話を、今日の時点でどこまで考えておけるかということになりますね。
白幡 細かいディスカッションは、総合討論でしたいと思います。福武先生、どうもありがとうございました。
免疫寛容導入療法の動向(奈良県立医科大学小児科教授 吉岡 章)
血友病Aに発生するインヒビターの概要の説明があり、免疫寛容導入療法の各種プロトコールと 近年の国際登録研究の成績が示された。現在進められている国際無作為コントロール研究のプロトコールと、 日本における研究への参加方法が紹介された。
4. 血友病予防投与の現状(聖マリアンナ医科大学小児科助教授 瀧 正志)
予防投与の定義とスエーデンのグループの予防投与の方法と成績が示された。 聖マリアンナ医科大学での一次予防投与の導入と成績が紹介された。 また、血友病予防投与に関する多施設のアンケート調査結果から、 二次予防投与は50%以上の施設で導入されているが、一次予防投与は他施設では行われていないことが示された。 コージネイトの供給不足問題以降に予防投与の減量や中止が行われた施設は2施設のみであった。 一次予防投与の導入に関しては、今後本邦においても検討する必要性が述べられた。
質疑応答
白幡 瀧先生のところは我が国で唯一、一次予防投与を積極的に進めている施設ですけれども、貴重なご経験を含めてご報告いただきました。御質疑ございますか。
河ア(福井病院) 福井病院の河アです。今お示しいただきましたのは、週に2回から3回、1回25~40単位/kgですと、かなり多い量で手術もできるくらいの量だと思いました。我々の症例では10単位/1回、それ以下でも十分予防効果があるのを経験しましたが、20~40単位/kgが必要だということでしょうか。それとも、小児ですから、最小単位の250単位製剤を使用したときにその量になってしまうのでしょうか。
 最初のスエーデンのグループの発想では、トラフレベルを最低1%以上に保つような条件として投与量が設定されたようです。最低25~40単位/kgが、血友病AでもBでも推奨されていまして、多少トラフをみながら調節してくださいというのが基本だと思います。ご指摘のように最小単位は250単位、次の単位は500単位が基本ですので、ある程度幅があるのだと思いますが、私自身は、それが本当に出血の予防に必要な最低限の量かというと、おそらく違うのではないかと思っています。我々の施設では、血友病A患者に対しても週3回ではなく2回の注射を行っておりまして、VIII因子のトラフレベルは1%未満となっていますが、それでも関節出血はほとんどありません。
5. 血友病補充療法における適正投与量の考え方(奈良県立医科大学小児科助教授 嶋 緑倫)
適正投与量を考える際の要素として製剤の供給量、患者のQOL、投与量・止血レベルの経験的および科学的根拠などが挙げられた。奈良県立医大の補充療法の指針や過去の自験例を示しながら、必要時の補充療法、予防投与、外科手術時の止血療法に関してそれぞれ製剤使用量の適正化に関する方策の提言がなされた。
質疑応答
白幡 コンファクトFの溶解後の室温での安定性は如何でしょうか?
化血研 申請時にはそのようなデータも含まれていると思いますので確認いたしたいと思います。
総合討論
新井 製剤の供給問題はコージネイトだけでなく、血漿由来製剤も含めて今後どこのメーカーにも起こりうることであろうと思います。我々は、供給不足に直面していますが、翻って考えますと、免疫寛容療法や予防投与などの高度な治療法を再考する良い機会でもあります。福武先生のご発表は本シンポジウムのキーとなるプレゼンテーションだと思いますが、企業の方からも、医療者の方々からも、是非御意見をいただきたいと思います。
吉岡 福武先生のお話の中で、このままいきますとクロスエイトMが相対的に少なくなる、もう無理があるので、コンファクトFをできるかぎり使えばなんとか持つだろうということが大事なキーだったと思います。コンファクトFのような中間型濃縮製剤の切れ味、副作用、手術中の使いやすさは、近年のモノクローナル抗体精製製剤やリコンビナント製剤に比較していかがでしょうか。整形外科の河ア先生や竹谷先生がいらしておりますので、手術時に中間型製剤を使った御経験などをお聞かせいただきたいと思います。
河ア 昭和40年代ですと中間型濃縮製剤はまだできていなかったので、クリオ等で手術をしていました。その当時は手術時の最高レベルを50%、術後は20%を目標にしました。20%を下回ると後出血が認められました。手術中に50%あるいは100%、それで出血量が多いとか、手術がしにくい例は、ほとんどなかったように思っております。手術に関しては、それまでは最高レベルを50%にして、1日3回補充することによって20%レベルを保とうとしていましたが、中間型濃縮製剤が使えるようになると、血中濃度を100%に上げれば24時間たっても20%を保っていますので1日1回投与ですみました。最近のように持続輸注が使えるとなると、もっと下げたレベルでの検討ができるかと思います。
新井 当初、クリオから中間型濃縮製剤が出てきた時は「これで手術もできる、持続投与もできる」と大変にありがたいものだという認識があったと思います。当時の製剤はフィブリノゲンがまだかなり含有されていたと思いますが、今のコンファクトFはその問題はクリアになったと思いますし、やはり現況を考えましてコンファクトFを使うことは十分可能ではないかと思います。
 現在のコンファクトFではありませんが、1980年代の濃縮製剤は大量に使った場合に抗A抗B凝集素で溶血性貧血をきたす問題がありました。ただ、コンファクトFは、日本人由来の血漿で作られておりますので、おそらく外国の血漿由来製剤と比べて抗A抗B凝集素が少ないと思います。最近のコンファクトFの抗A抗B凝集素価について会社のかたに確認していただきたいと思います。
河ア 我々のところでは、数年前にリコンビナント製剤がよく出回る以前は、ほとんどの手術例はコンファクトFを使っておりましたが、なんら問題ないと思っております。
新井 当初は中間型濃縮製剤の中に血漿由来の血液型抗体が混入していました。そのため大量に投与すると、溶血性貧血をきたす可能性がありました。それを避けるために当時は血液型別製剤というものもありました。おそらく、今のコンファクトFには血液型抗体の問題はないと想像しますが、化血研の方にデータがありましたら、教えていただきたいと思います。
 パルボウイルスのチェックは、化血研のコンファクトFはどのようになさっていますか。
化血研 献血の血液については、日赤の方でRHA法というパルボウイルスのスクリーニングがなされております。そういう血漿を使っていますので、原料の段階でパルボウイルスの高いものは排除されております。また、最終製品のロットを調べますとすべて陰性であることは確認しております。
 最終段階で、たとえばPCRとかでも陰性ですか?
化血研 はい、陰性です。
 コンファクトFに関して確認したいことがあります。現在の2倍の供給量が可能だということですが、例えば今から患者さんにコンファクトFが使用できることをお話ししますと、使用量が増えていきます。それにすぐ対応できますでしょうか。
化血研 すでに製造量については私どもが持っている製造能力をフルに活かして製造しております。また在庫状況としても充分な量がありますので、直ちに2倍の需要があっても供給できる状況でございます。
白幡 もう一つ、1000単位、500単位、250単位の各製剤の比率はどうですか。
化血研 在庫状況も含めまして、250単位製剤が単位で申しますと20万単位ぐらいで、500単位がだいたい100万単位、1000単位が60万単位で、2:10:6程度の比率です。
福武 それは今の供給量のバランスのことですか?全部足すと、180万単位ですね、これは月々の供給状況ですか?
化血研 はい、現在の供給状況のことです。
福武 それを2ヶ月分、出荷していっても問題ないという意味ですか?
化血研 はい、そうです。
新井 今年の3月にコージネイトの供給問題が発生してから4月にはこの標準化検討部会で話し合いをしました。そこで、基本的にはコージネイトからクロスエイトMに変わっていただけるボランティアの患者さんを募ってまいりました。その結果、そのクロスエイトMも余裕がなくなってきたということで、これからは、ある程度コンファクトFのほうに移行していただく患者さんを御願いするということが一つの方策であろうということになりましたが、この件に関しましては、いかがでしょうか?
福江(東京医科大学) 今日集まっている先生のような主要な血友病診療施設での使用量と、患者さんの少ない施設での使用量では、トータルでいったいどのくらいの割合でしょうか。例えば我々の施設は患者さんが少ないところですが、そういった施設では協力を得にくいのではないかと思います。主要な血友病診療施設だけで200万単位を他の製剤に移行していくのか、それとも小さい施設まで強くアピールしていくのか教えていただきたいのですが。
福武 50人以上の患者さんを診ている施設で診療を受けている患者数は、全国の患者総数の1/3くらいだったと思います。ですから月に2000万単位の10%の200万単位の変更を、主要施設だけで対応しようとすると、なかなかこれは難しい話です。多くの施設の協力がないとできないと思います。ただ、問題は、少人数の患者さんの施設では他の製剤が納入されていないような状況がありますので、薬剤の変更をどういうふうにやりくりできるかというのが難しいですね。
 患者さんの数ですけれども、血栓止血学会の血友病標準化検討部会と小児血液学会の小委員会のメンバーの施設の患者さんを足しますと、約1200人の血友病の患者さんがいらっしゃいます。したがって、日本の患者さんの総数が4500人ぐらいだとすると、1/4くらいの患者さんは、今回のメンバーの施設で管理されているということになります。
新井 本検討部会が中心となって、ある程度のガイドラインを打ち出していくことが必要になると思います。学会が主体となったガイドラインができれば、それはメーカーのMRの方を通して、あるいは我々のネットワークを通じて、全国の施設の先生方に伝えていく方向になると思いますが、いかがでしょうか。
白幡 血液製剤調査機構では、毎年血友病製剤の需給調査をしております。これは、1400位の施設が対象ですので、患者さんの少ない施設もカバーできています。今回の需給調査では厚生労働省の西田先生が作られた資料をお配りしましたので、もう少し具体的な方針がでれば、そこを通じてさらにお願いするというのもひとつの方策だと思います。また、コージネイトの供給不足の問題が起きた時に、リコネイトに移行したいといった施設に、バクスターの方がこれ以上増やせないということを一生懸命お願いして歩かれましたが、それと同じようなことを、これからは日赤の方にもしていただかなければならないという気がいたします。
鈴木(日赤) 今回、厚生労働省の方から各社の供給状況、グラフを含めて情報提供していただきましたので、日赤のMRが現在クロスエイトMを供給させていただいている医療機関にご説明にあがるということにしております。
白幡 クロスエイトMを供給している医療機関はそのまま提供できるわけです。むしろ、それ以外のコージネイトを使っている医療施設からクロスエイトMを使いたいと言ってきた時に適切に説明をすることが大事だと思います。
鈴木(日赤) 従来クロスエイトMが納入されていなくて、コージネイトからクロスエイトMに切り替わった場合にはそうさせていただきます。
福武 このコージネイトの問題が起きた後に、一時、日赤のクロスエイトMは地域によってはかなり供給が難しい状況になり、すぐにはコージネイトからの切り替えに応じられないような事態もおきていたようです。実際、分画センターには製剤の在庫があったようですが、地方のセンターにはないというようなことがあって、日赤に頼んだら、断られてしまったという問い合わせをいただいた覚えがあります。この厚労省の資料と、ここで議論してきた内容も含めたアドバイスを日赤のMRさんから出していただきたいと思います。
新井 4社の製剤の在庫状況に関しましては、ある程度リアルタイムな情報として、厚労省のほうから発信していただけるのでしょうか。
西田 厚労省として、安定供給のための情報入手は非常に重要で、定期的に各製剤メーカーと会合を行うようにしております。今回、クロスエイトMが足らなくなって、コンファクトFのほうに移さなければならない状況になりましたので、その情報を提供してまいりました。今後、在庫状況の情報をどれくらいの間隔で公開するかというのは、まだ、決めておりませんが、節目節目にある程度定期的な間隔で状況をお知らせするということは続けていきたいと思っております。先程、白幡先生からご指摘がありましたように、血液製剤調査機構のホームページからも情報提供をしていきたいと考えております。
吉岡 こういった物の供給不足の場合には、昔の石油ショックの時のトイレットペーパーの買い占めの心理のように、どうしても抱え込みたいという気持ちというのが、病院あるいは医師、メーカーあるいは問屋さん、そして患者さんのレベルまで、全くないとは言えない状況だと思っております。厚労省が少なくとも来年の12月まで、全体の供給は大丈夫なんだと言って頂くことが大きいと思います。また、そうして頂ければ、各メーカーも各病院も各医師も各患者さんも、冷静に、あまり抱え込むことのないようにお互いに戒めていかなければならないと思っております。
 製剤の適正使用に関連したこととしましては、今回の標準化検討部会の活動目的の4番目に家庭療法基準の作成という項目があります。家庭注射療法が1983年に始まって約20年たちますけれども、我々医療者、あるいは患者さんにこの際もう一度、本当に適正に行われているのかどうかということを、この時期に各施設で考え直すにはいい機会だと思います。
新井 早期輸注、適正な使用法、使用量ということを、家庭療法の適正化のなかで行なっていけると思います。続いて、吉岡先生の発表された免疫寛容療法に関しまして何か追加、ご討議はございますでしょうか。ITIはインヒビターの治療に関して我々が大変期待するところで、やっと始められるという時に使用製剤の供給がタイトになりました。それを念頭においてこれから進める上で準備はこのまま維持していく必要はあると思いますが、吉岡先生いかがでしょうか。
吉岡 皆様の施設で、あるいは現在ITIを進めている施設で、どのようにしたら良いのかということですね。低用量で週に3回のプロトコールは、免疫寛容療法であると同時に、止血予防があるというデータがありますので、これを今、止めるのは推奨できないと思っております。一方高用量で、しかもかなり長期に、例えば1年とか2年に渡ってやっている場合にどうしたらよいかということがあります。これは国際ITIのルールでいきますと、3ヶ月とか6ヶ月ごとに定期的に評価して、これまでのハイタイターのインヒビターがそれまでよりも20%以上減弱しているということで、次の6ヶ月やっていくことに決まっております。そういう傾向のないものについては、不成功である可能性が高いと、私どもは考えております。したがって、この時期ですので、そのような症例をお持ちならば、徐々に中止の方向にもっていくというのも、ひとつの考え方だと思っております。
新井 近年の国際登録研究と北米の登録研究の2つの研究解析から、ITIの成功に関与する要素がわかってきました。それを踏まえて、さらに前向きな対照研究に入って行こうという重要な時期になっていますので、対象条件に合うインヒビター患者さんに関しましては、是非とも吉岡先生に連絡をしていただいてITIの登録はしていただきたいと思います。さて、次の血友病の予防治療に関しまして、こちらも製剤の安全性、使い勝手がよくなったことから、血友病患者さんのQOLをあげるために、とても重要な治療法であると思いますが、御意見はありますでしょうか。
白幡 重症の血友病患者さんの場合は、もし血液製剤が潤沢に供給されるようになれば全員に一次予防を導入する方針なのかどうかを瀧先生にお伺いしたいと思います。現在、重症で1%未満といっても、凝固因子活性の測定限界を改良したとき、それが0.9%なのか0.6%なのかということもひとつの予測になると思います。あるいは関節症になる前にレントゲンをみておりますと微細な変化がきてそれから始めても遅くはないような印象を受けています。一次予防療法を実施する患者さんを選択するための何らかの方法を考えていかなければならないと思いますが。
 正確にはお答えできませんが、少なくともレトロスペクティブなMalmoの結果では、予防投与を少し遅らせて始めると関節の変化が生じ、将来も関節症の進行を防止できないというデータがでておりますので、少なくとも早く始める必要はあると思います。凝固因子活性が1%未満の患者さんすべてが対象になるかどうかというのは、1%未満の測定が正確にできるようになればまた議論になると思います。
吉岡 一次予防の場合の投与量や投与回数については、エビデンスとなるデータはまだ不足していると思っています。したがって、仮に一次予防を始めるとして、たいていは1歳時前後のお子さんですから250 単位でいいと思いますけれども、週1回くらいから始めて、それが半年でもあるいは3年であれ、それでも出血するということがわかったら週2回に増やすという、ステップアップで増やしていく方法がより個々の患者に則した方法だと考えています。
 しかし、少ない回数でスタートして関節症が防止できるというエビデンスもありません。そうしますと週1回で始めた場合、結構早い時期にステップアップするような方法が必要だと思います。1歳から2歳にかけてはあまり出血がないので、週に1回でも良いかもしれません。しかし2歳ぐらいで活動量が増えてきますと週に2回は必要だという印象があります。実際、私どもでは、最初は1回の練習で始めて、それで少し動きが活発になる時点から週2回にしております。また、今回の供給不足問題が起き、4歳半くらいの年齢で体重が18 Kgの患者さんでも投与量を増量せず、一回投与量は250単位(13単位/kg)のままですが、出血の増加はみられていません。Malmoのグループが提唱する体重当たりの投与量(25-40 単位/kg)が本当に必要なのかどうなのかわかりませんが、しかし、一応そこが予防投与を考える上で規準になる投与量だとは思います。
河ア 一次予防投与は別と致しまして、二次予防投与に関しまして、当然次の出血を予防してやろうということで、因子レベルを上げるというのは意義あることだと思いますが、いったん出血したものはいくら因子レベルを上げても吸収が早まることはないと思います。そうしますと、炎症が起こってそこに二次性に出血をきたしたときには、できるだけ出血以前の状態に早く戻す必要があります。そのために、血液を抜いてやる、洗ってやる、あるいはステロイドを投与して少しでも炎症を抑えようと、そういうことを合わせ行うほうが、より有効であると思いますが、いかがでしょうか。
 先生のおっしゃる通りだと思います。そういう状況の時は、製剤を週に3回注射して因子レベルを上げるということだけではだめだと思います。特に二次的な投与のSPBで、標的関節ができている場合というのは、まさに先生のおっしゃる通りだと思います。
新井 最後に、嶋先生のご発表に関しまして、何かご討議はございませんでしょうか。いくつか重要な提案をなされています。以前は、製剤投与による治療だけではなく、トランサミンとかDDAVP(デスモプレシン)の投与も補助療法として結構行っていました。近年、安全な製剤が潤沢にあった時期は、止血治療は基本的には補充療法を中心と考えていました。補助療法を適切に併用していくことは、もう1回考え直す時期だと思います。
吉岡 デスモプレシンの投与で中等症あるいは軽症の患者さんの出血予防が非常にうまくいった例があります。これはお父さんの関係で中国に行かれた家族ですけれども、製剤を長く持つことができなかったのでデスモプレシンを週に2~3度投与してうまくいきました。デスモプレシンは使える症例には効果的であるという印象を持っておりますので、是非お試しいただければと思います。同時にトランスサミンを併用するというのもコツでございます。
福武 軽症血友病あるいはフォンヴィレブランド病の治療として、高濃度のデスモプレシン点鼻薬があります。うまく使えば製剤の節約につながるかと思いますが、残念ながらこれはまだ日本で承認されていませんので、我々の中で検討していきたと思います。
新井 もう一つ、製剤の単位数に関してですが、我々の施設のように大人の患者さん中心に治療していますと通常1000単位を投与することが多く、それは大きな間違いはありません。ところが、若い先生ですと、少し多めに打つ場合には1000単位の次はもう2000単位と考えてしまうことが多いようで、1250 単位や1500 単位を使うことはあまりないようです。しかし、我々は体重当たりに何単位という、もう少し科学的な見立てをして投与量を決めなければならないと思いますので、適切に250あるいは500単位を使うべきであると思います。
高田(広島大学) 少し話がそれるかもしれませんが、僕達は血液製剤の価格は、日本にいるからあまり意識はしないと思います。昔、日本で加熱製剤に変わる前は、日本とアメリカの第VIII因子製剤の価格は5倍も違っていて、メーカーは必死に日本に売りこんできて、僕達も喜んで使ったということもあるのです。それが加熱製剤になった時に、アメリカの値段が5倍ぐらいになって、また下がりました。そして、モノクローナル製剤になった時が日本と薬価が同じになった。さらに、遺伝子組換え製剤になって、日本に売りこむメリットが全然なくなったということが日本への供給に影響しているように思います。特に円とドルの比率がグルグル変わると、外資系のメーカーは、あまり日本には売りたくないと思っているのではないかというふうに私は思っております。そのようなことがこの日本の製剤供給に影響している可能性も考える必要があります。
白石(バクスター社) 実際は欧米の価格と開いてきている(欧米での価格の方が日本でのそれよりも高い)のが現実です。1996年に遺伝子組み換え製剤を導入しましてから、毎年価格が開いていく中で、私どもは日本への供給を増やしてまいりました。しかし、現状で世界的に供給状態が非常に厳しいということを考えますと、日本だけ多くプラスαの供給というのは、正直申し上げまして、非常に難しいと考えております。来年も今年より多くの供給を目指して、製造部門と交渉しておりますので、バクスターとしての努力はご理解いただけるとありがたいと思います。
新井 バクスターの製剤部門の責任者の方にその点の話を伺ったことがありますが、日本での薬価が低いことが輸出量の制限の条件になることはないと言っておられました。しかし、リコンビナント製剤や血漿由来製剤の薬価は見なおす時期にきていると思いますし、世界標準と同じように、薬価は実測値の1単位当たりの値段にすることがより公正な方法ではないかと、私は考えております。
福武 バイアル中の実測の単位数を表示していただくことが必要です。例えば1000 単位のバイアルに1500 単位入っているロットもあります。その場合、見かけ上は1000 単位ですが、その患者さんに1500 単位必要だと思えば主治医は500 単位足して使うことになってしまいます。値段はともかくとして、実際の力価が書いてあれば、正しい使い方ができるし、節約につながる可能性が高いと思います。会社にしてみれば書いてある力価どおりの値段になればさらにいいことだと思います。それから、日本のバクスターの方も、バイエルの方も一生懸命努力して供給を続けていただいているわけですけれども、日本の値段が海外に比べて半分とかいうことになってきますと、たとえば、アメリカの患者さんは2倍の値段を出しても十分に必要なものだけが買えない状態なのに、日本の患者さんは半額で十分買えるのはおかしいという議論にもなりかねません。 あまりにも差が広くなりすぎてしまうと、今度は国際的な視野に立つと不平等になってくる可能性があるわけです。日本の中だけの物の考え方ではなくて、国際価格とか、国際的な物の考え方のなかでやっていかないと、これからのマネージメントはできないと思っています。よろしくお願い致します。
堀越(県立静岡こども病院) 静岡こども病院の堀越と申します。今日の話の中で今後コンファクトFに変えていくとなるとインフォームドコンセントが大切になると思います。利点と欠点を説明する必要がありますが、私の理解では、欠点かどうかわかりませんが、フォンヴィレブランド因子が入っているとか、やや純度が悪いとか、溶解量が多いというところ、利点としては、しっかりとしたウィルス不活化であるとか、何よりもその患者さんにとって、それを使われることが安定供給の上で患者自身を守るんだということでよろしいでしょうか。
新井 その通りだと思います。安全性に関しましては、まず問題ないと考えてよろしいと思います。
 インヒビターの治療に関して、免疫寛容ができない患者さんは結局、バイパス療法が必要です。用法・用量の点で、ノボセブンはインヒビター力価の制限がありませんが、ファイバの方は10 BU以上の患者さんでないと使えません。これは少し混乱する状況だと思います。厚労省の方がおられますので、この点について今後展望があるかどうかお伺いしたいと思いますが。
西田 直接担当しておりませんので一般的な答えになりますけれども、用法・用量の変更については、基本的に製薬企業から申請を上げていただくことになります。したがって、学会の方で大きな問題点があるというのであれば、その旨を製薬メーカーから厚労省の方に積極的に上げていただければ、それに見合った対応ができると考えております。
新井 今回のミニシンポジウムでは、医療者、製薬企業、厚生労働省、患者さんの4者が集まって討論をした始めての機会となりました。これを契機に、今後も定期的に会を開きたいと思っておりますので、皆様にはまたその中で忌憚のない御意見を出していただきたいと思います。そろそろ時間も過ぎておりますので、白幡先生にまとめていただきたいと思います。
白幡 コンセンサスというところまでいった部分といかない部分があると思いますが、製剤の今後の使用については1つの方向は打ち出せたのではないかと思います。その意味で皆様方の御協力で今回のミニシンポジウムを開いた意義は大きかったと思います。また、先程の一次予防投与の問題、今までの薬価の問題を含めて行政的な問題やさらに大きな問題などは宿題として残された部分もあります。新井先生のおっしゃるように、こういった医療関係者、製薬会社、行政、さらには患者さんを交えて話し合いの場をもつことで、よりよい方向に血友病医療が更に発展していくことを祈念して、このシンポジウムを閉会にしたいと思います。どうもありがとうございました。
討論の要約
1. コンファクトFは現在の供給量の2倍の出荷が可能である。コージネイトの供給不足分をこれ以上クロスエイトMで賄うのは限界が予想されるため、今後、製剤を変更するときはコンファクトFの使用を考慮する。その旨は、各社のMR、血液製剤調査機構や血栓止血学会のホームページを通して標準化検討部会のコンセンサスとして全国の血友病診療施設に伝える

2. コンファクトFの室温安定性や血液型抗体の混入の有無に関しては、化血研から情報を得る(後日得られた情報→ , )

3. 製剤の適正使用に関連して、家庭療法の再評価と規準を作成する

4. ITIに関しては、国際研究の患者登録は開始する。現在、低用量でITIを始めている症例はなるべく継続する。高用量で行っている症例は定期的な評価を行ったうえで、不成功の可能性が高ければ中止を検討する

5. 一次予防投与療法は、将来的にその適応や導入方法を検討していく

6. 血友病患者に対するデスモプレシンの点鼻薬の承認、バイパス療法製剤の用法・用量に関する問題、第VIII因子製剤の薬価や実力価表示の問題などは、血友病標準化検討部会と製薬企業が協力して厚労省に上申していく
コージネート供給問題に関する血友病標準化検討委員会からのお知らせ
2001年3月16日付のバイエル薬品からの情報によると、第V・因子製剤のコージネートは、米国の工場からの出荷が一時停止されています。日本全体の第V・因子製剤供給に関する混乱を防ぐために、主な血友病診療施設の有志がE-mailで問題を討議し、「血友病の患者様へ」と「治療担当医師の皆様へ」の文書を公開しました。

下記のインターネットホームページ
http://csws.tokyo-med.ac.jp/csws/hemophilia/ をご参照下さい。

文書の発信元の血友病治療担当医師有志には、本学会の血友病標準化検討委員が含まれています。



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